溺愛王子はシナリオクラッシャー〜愛する婚約者のためにゲーム設定を破壊し尽くす王子様と、それに巻き込まれるゲーム主人公ちゃんを添えて~

朝霧 陽月

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36話 すれ違う兄弟

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「イールド兄上……!!」
「セル、待っているように言ったはずなのに来たか……」

 僕の姿を見た兄上は深々とため息を付いた。
 当然だ、ラテーナが関わっていた事件に僕が黙っていられるはずがない。

「一体どういう状況なのですか!?」

 そう聞きながら僕は軽く周りを見回す。一見するだけで分かるが、この部屋の惨状は壮絶だ。石造りの壁や床は、何か大きな力によって破壊されている箇所が無数に見られ、まず尋常ではないことが起こったことと物語っている。
 ああ、こんな場所にラテーナが居たなんて不安で堪らない……一刻も早く助け出さなければ。

「ここまで来たのなら知っているかもしれないが、ここにラテーナ嬢が監禁されていて、助け出そうとした女生徒と誘拐犯との間で交戦があったらしい」
「その女子生徒というのは?」
「ミルフィ・クリミアと言う生徒だ」

 あの女が関わっていたのか……それならばやはり、あの時に無理にでも引き留めて情報を聞き出すべきだった。くそっ。

「兄上、もっと何かしらの情報はないのですか」
「……一応ここに彼女へ行った事情聴取をまとめた資料があるが」
「すぐに見せて下さい」

 僕がそう言って手を伸ばすと、兄上はそれをひらりと躱した。

「は?」
「セル……お前はこの件に関わるな」
「……何を仰っているのか全く理解できません」
「今日は元々それを言うために、お前に会うつもりだったんだ」

 冗談みたいな言葉なのに、そう言う兄上の目は真剣で一切冗談ではないと物語っている。

「なぜ、急にそんなことを仰るのですか兄上」
「……」
「答えて下さい!! そもそもラテーナが攫われたと言うのに、僕がジッとしてるわけがないでしょう!?」
「いや、今回ばかりはジッとしていてもらう。これは命令だ」
「命令……本気でそこまで言うのであれば、せめて理由を教えてください」

 そこから兄上と僕の間には重く長い沈黙が流れた。
 流石にもう待てないと、更に問い詰めようと口を開きかけたところで、イールド兄上はぼそりと呟くように言った。

「今の俺ではお前を守れないかもしれないからだよ……」
「え?」

 あまりに予想外の言葉に思わず困惑の声が漏れる。
 守れないかもしれない……?

「とにかく今回の一件からはもう手を引くように、ラテーナ嬢については、俺が助けられるように全力を尽くす」
「待って下さい兄上、今の言葉だけでは到底納得出来ません!!」
「悪いが俺はもう行く」
「兄上!!」

 もはや話す気はないのか、兄上は僕を振り切るように足早にその場から立ち去ってしまった。咄嗟に追いかけようともしたが、兄上についていた護衛の騎士に阻まれて、それも叶うことなく、その場に取り残されることになった。
 一体なんなんだ……!! ラテーナが攫われた上に、兄上の様子までおかしくなるなんて……くそっ。
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