溺愛王子はシナリオクラッシャー〜愛する婚約者のためにゲーム設定を破壊し尽くす王子様と、それに巻き込まれるゲーム主人公ちゃんを添えて~

朝霧 陽月

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31話 転生者知識活用ターン!

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「ミルフィさん、何が起きてるかは分からないけど、爆発や火事で危険そうだから急いで避難を……!!」


「ごめん、ジミー私急用が出来た!!」
「え?」

 戸惑った様子のジミーに構わず私は走り出す。

「え、え、え、ちょっと!?」

 もう遠くなった後方からジミーの声が小さく聞こえてきたけど、私はそれに構わず更に走る。
 だって私は行かなくちゃいけなくなったから。きっと今の私には攫われたラテーナ・カルアの監禁場所が分かる。何故なら私にはゲームの知識があるからだ。


 ダンジョン攻略を始めて以降あまり意識しなかった、この世界の元になっているであろうゲームの名は《ドキドキ☆魔法の珈琲こーひー王国!!》
 通称『まほこひ』には『甘くて苦い珈琲みたいな恋を貴方に』というキャッチコピーが付いている。
 恋愛部分が甘いと表現されているなら、苦いに該当するのは各キャラが背負っているやたらとツラい過去や背景、ストーリー後半に存在する怒涛の鬱展開のことに間違いない。
 この鬱展開というのは、一応上手く回避フラグを踏んでストーリーを進めれば、どうにか防げたりするのだが、その条件というのがほとんどが初見殺しと言ってよいものなのである。だから何も知らない新規プレイヤーは初プレイで、大体バッドエンドへと直行することになる。
 そしてその鬱展開やバッドエンドというのが、主要キャラが死ぬようなものも数多く見られるわけで……。

 お陰で一部のファンからは作品名をもじって《ドキドキ☆魔法の珈琲こーひー王国!!》ならぬ《チミドロ☆魔法の業悲ごーひー王国!!》と揶揄されているほどだ。
 ちなみ業悲ごーひーの部分は、業が深く悲劇が多いことを表す当て字らしい。ちょっと上手い気がするのが、また悔しい。

 とにかく、それくらいアレなストーリーなわけだ。
 今までは、あまりに何も起きなくて放置してしまっていたが、今日起きる予定の重要イベントフラグとなるテロは、しっかりと起きてしまった。
 ならゲームと内容が多少変わっていたとして、このまま何もしなかったら誰かしらが死ぬ可能性は十分ありえる……。

 特にゲームと全然様子が違いそうなキャラ。婚約者と良好な関係のラテーナ・カルアとかは、うっかり違う形で死ぬことがあるんじゃないの!?
 それが今、私が慌てて走っている理由だった。だって良い人が理不尽に死ぬなんて気分が悪いじゃない……仮にゲームの方のラテーナのまんまだったら、割と性格もアレだし全然死んでくれても構わないんだけどもね。


 とは言っても、ゲームと色んなことが違っている以上、私の知識が合ってる確証はないから、ちゃんと確かめる必要があるわけだ。

 学園敷地内の東の森の外れにある、今はもう使われていない倉庫。
 そこの地下にある隠し通路から、昔作られた緊急時に使う地下道へと行くことができる。もしこの知識が正しければ、攫われたラテーナの居場所はきっとそこだろう。

 古すぎてまず知る者がいない場所だから、今現在絶賛テロを起こしている連中には都合がよかったらしい。

 よし、倉庫についたわね。鍵は……開いてる。
 やっぱりテロリストの連中が使っているから? いや、でもまだ分からないわ。隠し通路を見つけるまでは。

 私はゲームの知識を元に地下室へと降りて、隠し通路を探す。
 ぺたぺたと壁を触っていくと、一か所だけ不自然な場所があった。他の場所より壁のタイルがやや出っ張っている。それを押してみると、そのすぐそこの壁がせりあがり更なる地下への階段が現れた。

 …………あった、本当にあった。

 恐る恐る中を覗いてみると、そこには長い下り階段。行きつく先がどうなっているかは分からなかった。
 どうしよう、隠し通路自体は見つかったし、誰かしら呼ぶ?
 でもこの騒ぎの中、隠し通路が見つかったというだけで人員を割いてもらえるとは思えない。せめて怪しい人物を見つけたとか、確証があった方がいいに違いない。

 それに攫われたラテーナ・カルアというのも、出来ることならなるべく早く見つけ出してあげるべきだろうし。

「よし!!」

 なるべく危ないことはせず、中で何か見つけたら人を呼ぶ。この方針で行こう。

 お願いだから間違っても、ラスボスのカネフォーラなんかとは鉢合わせしませんように!!

 そうして私は意を決して、隠し通路へと足を踏み入れたのだった。
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