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第一章 鍵を拾う夢
第五話 推しは運命
しおりを挟む今日は巣奈の病院にケイト様と2人で
来ていた。ケイト様は定期検診の為に
色々な検査をするらしく、私はそれを
関係者用の休憩室で待っていた。
待っている間、私は休憩室の畳で少し
眠ってしまっていた。そういえばここ
数日長いことゆっくり眠れてなかった。
検査はほぼ丸一日かかるし、少し
休ませて貰おう。深い眠りの中、私は
夢を見た。
「うん、問題ないね。えーっと…
ケイトさん…私生活でも問題はない?」
「ああ、特に今のところは。」
ボサボサの髪を適当に纏めた巣奈は、
診察室のPCを見ながらファイルと交互に
睨めっこをしている。
「あの、巣奈…さん」
「やめてよ、たぶん年下だし私」
「じゃあ巣奈…あの、色々ありがとう。
前回来た時熱が高かったからしんどくて
ロクにお礼も言えてなかったし…色々と
面倒な事を、見て見ぬフリをしてくれて
いるのだと、純恋から聞いた。」
「…ああ…うん…そうだね。まぁそうね。
あのさぁ、どこの誰だか知らないけど、
あんまり純恋に負担かけないでやって。
身元も判明してないし、仕事してないし
記憶も無いし…あの子あれでおっきい
会社支えてて大変なんだから。」
「…わかってる…俺が世話になるのは、
本当に一時的なものなんだ。まぁ…
ずっと一緒にはいられない。」
「え?恋人じゃないの?」
「逆に聞くが…身元不明の記憶喪失の
無職を君なら恋人にするか…?」
「いや絶対無理だけど…純恋はたまに、
結構無鉄砲な事するタイプだからさ」
それは、確かにそうだ。
「まぁ、一時的なもんなら…純恋の
頼みだし…でも一時的に、だからね。
あの子今色々と大変なんだから!」
「大変…?」
「…あんたに話してんのかわからないし
私も詳しいことは知らないけど…あの子
一緒に会社を共同経営してた親友が、
去年の春突然失踪したのよ。なんでも
直前に相当揉めたらしくて…」
「…そうなのか…原因は?」
「誰も知らない。」
巣奈の話を聞いて、俺は自分が思ってるより
ずっと純恋の事を何も知らない。
フルネームも、誕生日も、悲しそうに
笑うあの笑顔の理由も、何も。
「気になる?純恋の事」
「…気になる、というか…あまり最近は
眠れてもないみたいだし、心配だ…」
「ふっ、そりゃあ憧れのケイト様に
そっくりな男性が同じ家にいたら、
眠れないでしょうね。たまには何か、
お返ししてあげたら?肩揉みとか」
「女人に気安く触るのは…」
「お堅いのね、モテそうなのに」
「俺は心に決めた女にしか触れない」
「純恋に決めちゃえばいいじゃない。
それとも好みじゃない?」
「いや…純恋は綺麗だ。」
俺の言葉にニヤニヤする巣奈を見て、
おもしろがられている事を察した。
実際、純恋はこっちの世界を水準に
しても綺麗だ。海外の血が少し入って
いるんじゃないだろうか。顔立ちも
良く、立ち振る舞いも上品だ。あんな
女性、男がほっとかなそうなのに。
「あんたがそれ言うだけで相当純恋も
喜ぶと思うんだけどね~?」
「そんな事気安く言えるか」
「お堅いのねぇ~」
「軽々しく口にする事じゃないだろう」
「真面目ねぇ~」
巣奈は適当にあしらいながらヘラヘラと
笑っている。何かお礼を、か。
作者との接触も、普段の生活も純恋が
いたから上手くいってるしな。何か、
純恋に返せる事…
『純恋』
先生?今日はお父さんもお母さんも
いないのに、どうしたの?
『純恋は可愛いね』
痛い!髪の毛引っ張らないで…先生、
なんか今日おかしいよ…どうしちゃったの
『純恋…いい子にしててね』
先生、怖いよ…やめて、嫌だよ!!
『俺の可愛い純恋…』
「純恋!」
目が覚めると汗だくで、私は畳の上
だった。ケイト様と巣奈が心配そうに
私を見ている。私は起き上がり、巣奈に
抱きついた。巣奈は私の背中を摩り、
強く抱きしめてくれた。
「あいつの夢ね」
「うう、うぅ~~~っ…」
「大丈夫。大丈夫よ純恋。あいつはもう
塀の中。純恋の居場所も知らないの」
巣奈の言葉に頷く。わかってる。
わかってるけど怖くて震えた。
忘れられる日は二度と来ない。それが
怖かった。あいつは何度だって、
私の心に蘇る。
「この先ずっと、怖いのかな。ずっと
あいつの影に怯えて暮らすのかな?」
「純恋」
ケイト様が、私の頬に手を添えた。
「俺が殺してやる」
その言葉に私も巣奈も顔を上げた。
ケイト様の目は本気だった。
「ケイト様…」
「俺が純恋の側にいる。」
「!!」
「次もしそいつが来たら俺が殺す。
純恋はもう戦わなくていい。俺が守る」
ケイト様の手が私の頭を撫でた。
優しくて大きくて、温かい手だった。
「だから泣くな。過去は過去だ」
「はい…」
「帰ろう」
ケイト様は私の手を引いた。私は自分の
弱さが嫌になった。
もっと強くなりたい。思い出に足を
引っ張られて、前を向けない自分は
もう嫌だ。最初は月乃が、私の孤独な
人生から引っ張り出してくれた。
次にケイト様が、私を光の下に引っ張り
出してくれた。次は自分の足で、光を
見つけたい。
「そういえば…友人が行方不明だと、
巣奈から聞いた。」
ケイト様の言葉に、私は病院の前で
立ち止まった。腕を引いてたケイト様は
振り向いて、一緒に立ち止まった。
巣奈が話したんだ。できれば知られたく
なかった。私の灰色の記憶だった。
「私に何かできることは無いか?」
「無責任な事言わないで下さい」
「は?」
「ずっとこの世界にいれるわけじゃない
でしょう?それとも元の世界には帰らず
ずっとここで私と暮らすんですか?」
やめて、どうしてそんな事言うの。
止まれ止まれ私の口、ケイト様の
優しさをどうして踏み躙るの。
ケイト様は私の言葉に何も言わず、
引いていた手を離した。
「俺はただ…世話になってるから、
純恋にできることが無いか考えた
だけだ。迷惑だったなら謝る。
純恋の事を、困らせたいわけじゃない。
そうだな…知られたくない事だって
あるよな。悪かった」
優しくされればされるほど、自分の
弱さが浮き彫りになった。さっき、
ケイト様の言葉であんなに安心した
くせに、なんでこんなひどい事を
言ったんだろう。私はそれ以上何も
言えず、黙って2人で家に帰った。
家に帰り電気を点けると、何故か
テレビがついていた。砂嵐のテレビの
前には、何かが落ちていた。
「…ん…?」
拾い上げたそれは、手紙だった。
その手紙を見た瞬間、ケイト様の
顔色が変わった。
「…王国の紋章だ…」
「!!」
「こちらの世界からの手紙だ…!!」
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