2 / 6
第一章 鍵を拾う夢
第二話 推しは酸素
しおりを挟む「つまり俺は、ここから出てきたと」
ケイト様はテレビを繁々と眺める。
「はい…」
「お前にとって俺はこの中の住人だった
という解釈で間違っていないか?」
「う…うーん…それもちょっと違う…」
私はテレビを消したり点けたりした。
「この中の住人だったら、ケイト様達は
私がテレビを消せば存在諸共消えた事に
なってしまいます。」
「この中はどうなってるんだ?」
「どこかで撮った映像を電磁波を使って
各家に送信しているんです。」
「その中から俺が…ダメだ、わからん」
ケイト様は、私に同じアニメの同じ
シーンを流すよう指示した。私は
言われた通り、ケイト様がテレビから
飛び出してきたシーンを再生した。
「…やはりダメか…」
ケイト様は同じシーンから戻ろうと
したけど、テレビに触れる事はできても
中に入れる様子は無い。
「ケイト様、あの…」
私が声をかけると、私を睨み付けた。
「お前が何か、俺にしたのか?」
「え?」
「何故俺を知っている。お前さては…
敵国の奇術師だな!?」
剣を抜くケイト様に、私は手を挙げた。
「あ、いや、ケイト様…「問答無用!」
斬りつけようとしたその瞬間、
テレビから大きな音が流れる。
『スタープリンス、オンラインストア
開設!!ケイト様のあんな姿やこんな
姿を描いた画集も販売中だぜ!?』
『絶対にチェックしてくれよな!!』
第4王子と第8王子の宣伝に、ケイト様の
動きが止まる。買わなきゃ、と呟く私。
「…?…ホルムとスツーシャ…なんだ?
今のは…誰に対して何を呼びかけた…?
俺のあんな姿やこんな姿とは…?」
「見てみます?」
「は?」
「オンラインストアで見れますよ」
私はパソコンを開き、オンラインストア
をケイト様に見せた。
「なんという事だ…」
「ケイト様…」
ケイト様の画集は着替えや入浴シーン、私服などを描かれていた。
それを見て混乱するケイト様に、
ケイト様はこの世界でどういう存在か
教えた。スタープリンスも、王子も
魔法も、この世界には無いと。
「あんな姿をたくさんの人間に…」
「ケイト様…大丈夫です、他人の描いた
妄想ですよ。実際のお姿はケイト様しか
知りません。そんな事より、怪我の
手当をしましょう。戦いのシーンから
ここにきたので、傷だらけでしょう?」
「怪我はこのポーションで…」
ケイト様は懐から出した小瓶に入ってる
水を、自分の傷にかけた。
「…治らない」
「…この国に、魔法は無いんです。
王子もいないし、戦争もないんです」
「…そうか…」
ケイト様は、驚いた様な悲しいような
顔をした。救急箱を取り、ケイト様の
服の袖を捲し上げた。
「うわ…ひどいじゃないですか」
消毒をしながら手を触れると
「!!…ケイト様、熱が…!?」
「…平気だ…なんて事無い…」
グラリとケイト様が揺れる
私はケイト様の体を支えた。
「巣奈」
私は友人の営む個人院にケイト様を
連れて来ていた。夜中だったけど、
友人の巣奈は快く受け入れてくれた
「どうだった?」
「なんて事ない。ただの風邪よ。
一応あんたの話信じて予防接種やら
なんやらしといたよ。」
「ありがとう…!!」
「ったく、吐くならもっとマシな嘘
吐きなさいよね!ワケありの彼って」
「ごめん、何も聞かないで…私も混乱
してて…今日一晩寝かせて大丈夫?」
「大丈夫だけど、あんたまたなんか
面倒な事に巻き込まれてるんじゃ…」
「そんなんじゃないよ「純恋」
巣奈ちゃんは私の肩をギュッと持った
「なんかあったらちゃんと言ってよね」
「…わかってるよ…」
深く刻まれたクマ、痩せた頬、肌荒れ、
パサついた髪の毛。実年齢よりもずっと
年上に見える。相談できなかった。
できるはずなかった。巣奈の心配そうな
顔が、私の中にこびりつくようだった。
「…大丈夫だから」
「純恋…」
私は病室に入り、ベッドに眠る彼を
見つめた。深く刻まれたクマ、青白い顔
真っ黒な髪は夜空を吸い込んだ様だった
口の中に入りそうな髪を払い、汗を拭う
熱が高く、息も荒い。苦しそうだ。
「…大丈夫」
私は布団の上から彼の胸に手を当てた
「今度は私が、助けるから」
翌日私はケイト様と私の家に帰った。
リビングの椅子に座ってもらい、彼に
コーヒーを淹れた。彼は疲れきった
表情で、起きてから今までひとことも
発していない。少しずつ、自分の
状況を受け止めているんだろう。
「…ケイト様」
「どうすればいいのかわからない」
こんなに弱ってるこの人を見るのは
初めてだった。ケイト様は眉間を押さえ
深くため息を吐いた。
「ここの部屋が一部屋空いてるので、
ここで過ごして下さい。」
「それは絶対にありえない」
ケイト様は速攻拒否したが、私には
ケイト様が出ていく事に不安があった
「ケイト様、ケイト様が外で働くには
この世界での身分証明書が必要です。」
「身分証明書…?」
「自分がどこの誰かという証明書です。
今出て警察に職務質問をされたら、
ケイト様が何者か証明する事は誰にも
できません。そもそも、ケイト様は
この世界の人間じゃないんです。
外の世界に出ていく事は危険です。」
「しかし…」
真面目な性格だ。独身の私の家に
転がり込む形になるのに抵抗がある
私はケイト様に畳み掛けにいった。
「それに、ケイト様がテレビから
出てきたのは4期のラスト…スタプリの
5期のアニメ放送は既にケイト様が
出演する事は決定してます。」
「!!…もしそれまでに戻れないと…」
「もう戻れない可能性も出てきます。
5期までに残された時間は約1ヶ月…
ケイト様に必要なのは外で暮らす為の
家や仕事ではなく、協力者です。」
「…君を、頼って大丈夫なのか?」
ケイト様は、まだ戸惑っていた。
私はケイト様の目をまっすぐ見た
「絶対に元の世界に返してみせます。
だから私といてください。この世界で、
私がケイト様を守ります。」
「何故そこまで…」
「私は何度も、助けて貰いましたから」
私の含みのある笑みに、ケイト様は
不思議そうな顔をしていた。
こうして、私と推しの奇妙な生活が
開始される事となった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる