孤独の皿

カレーライス

「平野さん、わかりますか？」

言葉は聞こえるのに、意識は無かった

「大間さんに、今日は行けないって

伝えてくれ。約束があったんだ。」

俺は覚えてないが、こう言ったらしい

男は生きている間ずっと働いている

子供を守るためだったり女に物を買う

為だったり、理由は様々だ。

俺は家族のために働いていた

脳卒中になって意識が無くなるまで

働いていた。

左手に後遺症が残るかもしれないと

話が出た時、末の娘がその話を聞いて

見た事のない顔をした。

不安や、未来を案じる気持ちに

少し安堵が混じっているように思えた

その時は何を思っているのか

家族が何を思ったのかわからなかった

今思うと、少し安堵したのだろう。

働き詰めで、必死に頑張っていた俺を

不安に思っていたのだろう。

だが、開口一番仕事の事を考えた俺は

この時静かに闘志を燃やしていた。

ここで終わってたまるか

もう一度、もう一度だけ立ち上がる。

二度と鍋を振ることができなくても

俺の作る料理を求める人がいる限り。



これは、戦いの話だ

自分の才能と、努力と、夢を胸に

生き抜いた男の話だ。