恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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女勇者の恐怖

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 ツッコミと同時に投げた俺の剣は、突如現れた銀色のフルプレートアーマーの女騎士に呆気なく受け止められた。
「この私! サン・ディオール・マキナに! 剣を投げ付けるとは笑止!」
 名前の強調がスゴい。自己主張が強すぎだろ。
 そんな呆れた視線を向けていた俺だが、その女はこっちを指差しながら、
「しかし。……さすが魔王軍四天王の一人だ! この白銀の二つ名を持つ私に躊躇なく剣を投げ付けるとは!」
 白銀とか、そのフルプレートの見た目をそのまま言ってるだけじゃ……
「……うん?」
 魔王軍? 四天王?
 それっぽい見た目の奴が隣にいるので、とりあえず聞いてみるか。もしかしたら四天王に昇格したかもしんねぇし。
「お前、聖女じゃなかったのか?」
「…………」
 そんな俺の疑問に、俺の前に立っていたマーアは、黙ったまま右へ、とぼとぼと歩き出す。
 が、女騎士のまっすぐ延びた人差し指は、微動だにしない。
「……俺?」
「そうだ! 四天王!」
 いや……
「いやいやいやいや、なんの話だよ!?」
 いつから四天王になったんだよ!? 俺は!?
「なんの話もなにも! 貴様っ! 生まれも育ちも魔王城だろ!!」
「生まれも育ちも、普通の町だっ!?」
 生まれも育ちも魔王城なら、四天王を越えて魔王の親族だろっ!
「ってか、俺のどこに魔族要素があるんだよっ!」
 角も生えてねぇし、毛深くもねぇ。魔力量は平均より少し低いだろうし、見た目や雰囲気で魔族なんて言われる訳がねぇ。
「貴様が魔族かどうかなど関係ないっ!」
 なっ!?
「これにっ! 貴様が四天王だと書かれているのだっ!」
 と、女騎士は一冊の本を俺に向けて投げてくる。
「うわっ!?」
「っと」
 俺は、やり投げのように跳んできた雑誌を避ける。
 避けられた雑誌はマーアによって受け止められたわけだが……女騎士は少し悔しそうに睨んでくる。
「ちっ」
 舌打ちまでしやがった。
「……なるほどな」
 半眼で銀色フルプレートの方を睨んでいる間に、マーアは手にした雑誌を読み終えたようだ。
「なんて書いてあるんだ?」
 マーアは兜に左手を添えながら、雑誌を開けたまま、俺に渡してくる。
「先刻の村での出来事が原因のようだな。まったく……」
 マーアの言葉を右から左に流しつつも、その問題のページへと視線を落とす。

『人類初! 魔王軍四天王を恐怖のどん底へ叩き落とす! 新たな四天王の誕生かっ!?』

 デカでかと書かれたタイトルと、その背景写真には、俺と思える姿と首なしの鎧との追い駆けっこの姿が使われていた。

「証拠写真まで載っているのだ! 貴様が新しい四天王で間違いないっ!」
「……ご」
「ご?」
「誤解だっ!」
 だいたい、このときの俺は記憶がとんでんだよっ! そんな人間が、四天王になれるわけがねぇだろっ!
 っと、自分でも強く否定したいのだが……写真を見る限り、そいつが人の姿をした化け物にしか見えないので、強く否定しきれない。
 なんなら、もしかしたら俺は魔族だったのでは? と錯覚しちまいそうになる。
 言い淀んでいる俺の肩に、マーアがそっと手を添えてくる。
「マーアっ」
「自主をしよう。今なら処刑は免れる」
「ふざけんなっ!」
 受け取った雑誌を地面へと叩き付け、上からぐりぐりと踏み抜いてやる。
「き、貴様っ!?」
「なんだよっ!?」
「まだ私は、その雑誌の四コマ漫画を読んでおらんのだぞっ!?」
「しったことかっ!!」

 ーーツッコミスキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:九十六

「今、上がるのかよっ!?」
 雑誌の時に上がらねぇと内心、ほっとしてたのによっ!!
「って、違うっ! 今はツッコミをしている場合じゃねぇ!?」
 敵味方からボケが跳んでくるから、ひとまずツッコミをいれてたが、そんな場合じゃねぇ。
 まずは白銀とかいう女騎士の誤解を解かねぇと。
「なにが違うというのだ!」
 俺はくしゃくしゃになった雑誌を拾い上げ、
「この写真は俺にそっくりだが、俺じゃねぇ!」
「バカを言うな!」
「ほ、ホントだし!」
 体は俺だが、中身は俺じゃねぇし!
「ってか、ゴシップ記事一つで四天王になれるわけがねぇだろっ!? 少しは頭を使えよっ! このバカプレート騎士めがっ!!」
「なっ!? きさ……貴様っ!!」
 と、頭に来た勢いで、白銀とやらに罵声を浴びせ続けていると、女騎士は、
「絶対に殺すっ!!」
 剣を抜いて走ってきた。

 こっちは丸腰なんですけど!?
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