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処刑の恐怖

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 なんでこうなったのか。
 俺は両手にガッチリとはめられた鋼鉄の手枷を見つめて思いに更ける。
 大罪人とか言われて捕まって、その数時間後には、なぜか斬首刑が確定していた。
 王城に居るはずのマーアやモー子とは出会っていないので、俺の現状を知っているかどうかも怪しい。
 これはあれか?
 反逆に協力しないどころか、邪魔になりそうだから殺しておく。そんなところなのか?
 ってか、アレだな。さすがだな。恐怖耐性スキルのレベルが三千を越えているからな。
 今まさに、ギロチンの下に俺の首を設置されようとしているところだが、怖さを全く感じないな。
 恐怖心が薄れているどころか、どこかに置いてきたみたいだ。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百二十九

 嘘です。ごめんなさい。
 本当は地味に怖いです。
 首を設置する場所では二発くらい殴られるほどに、ジタバタと抵抗しました。
 え? え?? マジで?
 マジで、これから殺されるの?
 首を輝きを失っている刃の下で固定され、ピンと張ったロープの側に一人の兵士が立つ。
 兵士の腰には、長剣が一つ。こっちは鋭く手入れもきちんとされているように見える。
 そこそこの太さがあるロープだが、あの剣なら簡単に両断出来るだろうなぁ……。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十

「助けてっ!」
 嫌だっ! まだ死にたくないっ!!
 恐怖に駆られて、俺は声を荒げるが、頭の中では誰も助けに来ないとも思ってしまっている。
 というのも、マーアとモー子は王城のはずだし、ミミックはビクビク震えているだけの聖女を抱えて身を潜めているはず。
 希望なんて、欠片もない。まさしく絶望的状況。
「助けてっ! お、俺っ! なにも悪いことしてないじゃんっ!!」
 出来ることと言えば、俺の無実を口一杯に叫ぶだけ。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十一

 恐怖耐性スキルのレベルが上がっていく。
 しかし、俺の中にある死への恐怖心は募っていくばかりだ。
 なにが恐怖耐性だ。全然、解決してくれねぇじゃねぇか。
 そんな悪態を言葉にして吐き出してやりたいが、その衝動を恐怖心が上回っている。
 おかげで俺は、醜い命乞いしかできない。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十二

 またレベルが上がる。
 無機質に聞こえてくるアナウンスだが、ロープを切断するために剣を振り上げた兵士には、一切聞こえていないのだろう。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十三

「斬首刑を執行せよっ!」
 罪状を読み終えたのか、男が視界の片隅で手を挙げる。
「嫌だっ! 嫌だっ!! 嫌だっ!!!」

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十四

 ガタガタと音をならす処刑台だが、到底壊れそうにはない。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十五

 壊せなければ、俺は確実に死ぬ。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十六

 今まで以上に絶体絶命な状況。
 デュラハンの時も、なんだかんだで死にかけたが、このスキルのおかげで死の宣告は解除された。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十七

 だが。現状はどうだろうか。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十八

 まるで秒針のように、時を刻む針のように、刻々とレベルアップを告げてくる恐怖耐性スキルのせいで、

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百三十九

 俺は死ぬことになっている。

 ーー恐怖耐性スキルのレベルが上がりました。
 スキルレベル:三千百四十

「決行っ!」
 男の叫び声と共に、鋭く光る剣は振り下ろされた。
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