恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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姫様の恐怖

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 結論から言うと、フィル殿との面会は出来なかった。
 それどころか、刑務所に近付くことさえ躊躇ためらわれた。
 理由は、私達が魔人であることが大きい。
 本来ならば、魔人が囚人に面会を求めることはゼロに等しい。
 が、前例がまったく無い訳でもなく、私が知る限りでは、三回ほどあるはずだ。
 今回の連行がイレギュラーであることは間違いないが……まさか面会すら出来そうにないとは。
「王都の刑務所というのは、あんなに武装しておるものなのか?」
「いや……普段であれば、最低限の武装しかしていない」
 しかし、
「魔法兵器まで所持しておるように見えるがのぉ。あれが最低限と言うのであれば、我が住む街は、私兵団すら、最低限の武装が出来ておらんことになるのじゃが?」
「アレが最低限なはずがない。むしろ、最高峰クラスの装備だ」
 照準を定めて引き金を引く。それだけで致命傷を与えられる殺人兵器。
 そんな物騒なものを所持した人間が、目視できる範囲で五人はいる。
「物は試しに、面会できるかどうか聞いてみるのはどうじゃ?」
「私が人間であるならば、迷うことなく尋ねていただろう。が、」
「今は魔人じゃから、それが難しいと?」
「平時なら些細な問題だがな。しかし今回はイレギュラーが多すぎる。いくら鎧姿であろうとも、アレで撃たれれば、絶命も免れんぞ」
「あの男のために死ぬのは、死んでも御免なのじゃ」
 意味の分からないような、しかし納得できる台詞を吐き捨てたモウコ殿。
 そのモウコ殿と一緒に、私はもう一つの目的地へと足を進めた。

「こっちの方が手薄ではないか」
 そのもう一つの目的地は、王都の中心でもある王城だ。
 刑務所よりも人が居らず、仮に見つけても、腰に剣を下げているだけ。
 モウコ殿の言う通り、重鎮を守るはずの兵士の数も質も疑うほどだ。
「……まさか、王族絡みの厄介事に巻き込まれたというのか?」
「……言うでないわ。そんな気がしてくるじゃろ」
 二人して、なんとも面倒な事に巻き込まれたのかと嘆いていれば、
「もし、誰かそこに居るのですか?」
 モウコ殿と同じくらい若い女児の声が聞こえてくる。
「我の実年齢は、貴様の倍はあるぞ?」
「心の内を読まんでくれんか?」
 それと、私の倍となると、一気に還暦間近になるわけだが?
「ともかく、声のした方に行くのじゃ」
「お、おいっ! こらっ!」
 パタパタと走っていくモウコ殿を追い掛け、私も鎧の鈍い金属音を鳴らしながら進んでいく。

 小さな部屋の一室。その扉の脇に、声の主は立っていた。
「あなた方は……なるほど、フィル様のお知り合いのようですね」
「……そうなのじゃ!」
 一瞬呆気に取られるが、モウコ殿はすぐに返答を切り返す。
 どのようなカラクリかは知らないが、私達の素性は把握されているようだ。
 それと、刑務所に居るはずのフィル殿を知っている。
 上着に着いているピンバッジで、彼女が王族の一人であることは分かる。
 が、
「フィル殿と面識があるのか?」
「えぇ。つい先日、私達の部屋に来てくださいました」
「………………」
 刑務所にいるはずのフィル殿が?
 だとすれば、刑務所での武装に説明が付きそうでもあるが……まだ正確な情報が欲しいところだ。
「あの変態、盗賊系のスキルなんぞ持っておらんかったような……うん?」
「仮に所持しておろうが、脱獄は不可能だ。あの刑務所内では、睡魔付与のスキルと無効化に対する対策をとっているからな」
「よくご存じですね」
 と、女児二人が私の方を見つめてくる。
「……一時期世話になっておったからな」
「やはりな……罪状は殺人じゃな」
「ば、バカを言うなっ! 殺しなんぞっ! やっておらんわっ!!」
「ならば恐喝か脅しじゃ」
「どれでもないっ! 職質で刑務所に勾留されていただけだっ!!」
「職質なんぞで刑務所に連れていかれるわけがなかろう?」
「そ、それもそうなんだが……だが」
「まぁまぁ。刑務所はともかく、お二人はフィル様の行方を探して、王城まで来られたのでしょうか?」
「……あぁ、その通りだ」
 大人の対応で喧嘩を一時中断した私が、女児の返答を返してやると、彼女は困ったように静かに笑みをつくる。
「そのフィル様なのですが、どうやら刑務所に戻ることが出来なかったようなのです」
「戻る?」
 フィル殿は脱獄をする気ではなかった。そういうことなのか?
 彼女はうつ向いたまま話を続ける。
「フィル様はミミック様と一緒に、この城の一室に瞬間移動してきたのです。ただ、帰りに何か予期せぬことがあったようでして……」
「ミミックとは?」
 別の人物の名前に首を軽く捻って発した私の質問は、モウコ殿が返答してくれる。
「四天王の座を狙う七人の内の一人じゃ。ミミックという箱の中に居座っては、開けた者を驚かしておるイタズラ小僧みたいなもんじゃな」
「はぁ……」
 これで三人目。良くも悪くも、魔人と縁の深い奴だな。
 それはともかく、
「そのミミックというのは、危害がないのか?」
「驚かすという趣味以外は普通じゃの。むしろ面白味に欠けるもんじゃ」
「そうなのか」
「うむ。それにしても、なるほどのぉ。ミミックの奴が居ったのであれば、あの変態が脱獄できた理由にも説明が着くのじゃ」
「どういうことだ?」
「ミミックの得意なスキルの一つにの、箱移動というのがあるのじゃ。箱と箱の距離をゼロに近付ける移動系のスキルでの。これで、この城の中にある箱と、刑務所内の箱とを繋げたのじゃろうて」
 なるほど。そんな便利なスキルがあるとは、世の中は広いものだ。
 しかし、
「なぜ刑務所に戻っていない。奴が法を犯すような男には見えんのだが」
「その点は知らん。じゃが……どうせ、刑務所の中で用意した箱が崩れてしまったんじゃろ」
 モウコ殿は、半ば冗談のように言うが……案外、あり得そうで恐ろしく感じる。
「お二人の事はともかく、今は国の命運が懸かっております」
 おっと?
「もし叶うのであれば、勇敢なお二人のお力も借りることは出来ませんでしょうか?」
 これは、フィル殿に続いて、私達も王族のドタバタに巻き込まれてしまうパターンという奴では?
 ここはすんなりと断りたいところではあるが……
「うむ! 勇敢な我に任せておくが良いっ!!」
 ノリノリで即答している。
 ここ最近の扱いが酷かったせいもあるのだろう。街に帰ったら、旨い飯でも奢ってやるとしよう。

 こうして、私とモウコ殿は、この国の姫とは知らず、王国の危機に立ち向かわされることになるのであった。
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