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王都の恐怖 再び

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「モウコ殿っ! 諦めてっ! 自分の脚で歩いてくれないかっ!?」
 私の脚にしがみついて離れないモウコ殿に頼むが、そのモウコ殿は首を横に激しく振るのみ。
「嫌じゃっ! 我は一歩もあるかんぞっ!」
 そんな駄々をこねているモウコ殿は、さらに続けて、
「そもそも、あの変態が犯した犯罪は、ほとんど事実ではないかっ! なのにっ! 礼状の届く早さがおかしいからとっ! なんで徒歩で大陸中央まで歩かねばならんのじゃっ!!」
「私も貴様も魔人であるからだっ!」
 魔人である私達が馬車を利用すると、人間の料金の二倍から三倍の料金を請求されてしまう。
 いつもであれば、支度金に余裕があるのだが、先日の聖女(中身はデュラハンであるが)の件で、フィル殿に支度金の一部を報酬として払ってしまっている。
 そのため、出来る限りの節約を余儀なくされている。
 モウコ殿に関しては、一ゴールドたりとも所持しておらず、金勘定はフィル殿に一任しているようだ。
「というか、モウコ殿っ! いい加減、魔力が回復しているのではないかっ!?」
 いつもはフィル殿に小さくなるまで魔力を奪われていると本人から聞いた覚えがある。
 そして、当のモウコ殿は魔力の回復には、一日もあれば十分だと言っていた。
 だが、フィル殿が連れ去られてから一週間経つが、依然として、モウコ殿は小さいままであった。
「ま、まだ大きくなれる程ではないのじゃ!」
「既に一週間も経つのであるが?」
「時間で元に戻るわけではないっ! 魔力量で元に戻るのじゃっ! 覚えておくがよいわっ!」
 小さいままで威張られても……
「分かった。せめて背負うか肩車に変えてくれぬか?」
「では肩車じゃっ!」
 そそくさと背中をよじ登ってくるモウコ殿の重さを感じながら、私は早まったのではないだろうか。と思うのであった。



 フィル殿が連行されてから、かれこれ一ヶ月が過ぎようとしていた。
 大陸中央に位置している王都までは、残り三日程度で着くはず。
 もちろん、順調に歩ければ。の話であるのだが……
「そもそも、徒歩でも今の半分の時間で到着する予定ではあったのだがな」
「知らん。原因は、馬車に乗れぬお主のせいじゃろう」
「あ゛?」
 出立した街と王都の間には、馬車の停留場がいくつも存在している。私が知る限りでは、二十はあったはずだ。
 しかし、人間が利用する際の料金とは、二倍から三倍も変わってくるため、私は徒歩での移動を考えていた。
 が、十日ほど前に、モウコ殿が駄々をこね始めた。
 もう歩けんっ! 疲れたっ! 足が棒のようじゃっ!
 などなど、終いには、私に対する文句をグチグチと言うようになっていた。
 そんな相方を連れていくのは、なにかと支障が出る。
 例えば、大型の魔物が出るというにも関わらず、大声で疲れた言い出したり、夜にもグチグチと私を寝かせないように小言をたれたり……。
 我慢の限界がきた私は、モウコ殿の要望通りに馬車駅で乗る約束をした。

 が、

「重量オーバーだな。鎧の兄ちゃん」
「いや、私は女なのだが……」
 鎧が重くて、馬車に乗ることが出来なかった。鎧が重かったのだ。
 脱ぐことの出来ない鎧が重かったので、私が乗ることは出来ない。
 そして、私が乗れないとないと言うことは、王都の位置を知らないモウコ殿も乗ることが出来ない。ということになる。
 何度も言うが、鎧が重かったのだ。仕方がない。
「お主がダイエットすればよいのじゃっ!」
「……赤みの肉は脂肪分が少なく、高タンパク質だと聞いた覚えがある」
「……なぜ肉の話を始めたのじゃ?」
「高タンパク質を採ると、筋肉に栄養がいき、新陳代謝が良くなるそうだ」
「…………マーア?」
「新陳代謝がよいと、脂肪をエネルギーに変えやすくなり、脂肪が落ちていくそうだ」
「そ、そのハンマーは、わ、我を叩くためではないよな? 魔物が出たからであるじゃろ? ろ?」
 私はハンマーの長い柄を両手で掴み、モウコ殿へと詰め寄っていく。
「牛の赤み肉は、ダイエットにもってこいの食材らしいではないか……?」
「………………」
 モウコ殿は全力で走り始めたのであった。
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