恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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刑務所の恐怖

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 刑務所では毎朝、必ず尋問から始まります。
「次っ! 五百十二番っ!」
「はいっ!」
 僕は元気よく返事をして、重そうな鉄の扉を開けてもらい、中へとイソイソ入ります。
「今日の担当であるクラネルだ。よろしく」
「よろしくお願いしますっ!」
 元気のいい挨拶は重要だ。
 なによりも、「こんな挨拶の出来る奴が、犯罪をするはずがない。きっと、なにか、事情があったのだろう」という印象を付けるためにも、飛びっきり重要な事だ。
 たから、挨拶は元気よく! これ、基本だから。
「まぁ、座ってくれ」
「はいっ!」
 僕はクラネルさんの言うがままに、勧められた椅子へと腰を掛ける。
 と同じくして、一枚のスキルカードを机の上に置く。
 氏名の欄にフィル・プリテと書かれた、れっきとした僕のスキルカードである。
「ツッコミとボケのレベルが低い……冒険者を初めて半年経ってないくらいか…………」
「………………」
 なんでお笑い系スキルのレベルで、冒険者を初めてからの年月が解るんだよ。
 ツッコミたい気持ちをグッと堪え、僕はクラネルさんの質問を待つ。
「にしても……恐怖耐性のレベル、上げすぎだろ。これなら、恐怖無効を取った方がお得だぞ? なんでそうしないんだ?」
 来た。クラネルさんの初の質問。
 これで好印象かどうかが決まると言っても過言じゃないっ!
 それに、これは予想を立てていた質問の一つ! むしろ大本命だっ!
 僕は高鳴る鼓動を呼吸で静め、ゆっくりと答えた。
「昔、魔物に襲われて……それで、街を歩くのも怖くなってしまったんです」
「そうか。それは大変だったな」
 ファーストクエスチョンは、同情まで引っ張り出せた。
 これはなかなかの手応えだ。
「そんな奴が、なんで包丁を片手に魔人を追いかけ回していたんだ?」
 ぐっ!? 早速痛いところを突かれた。
「なんでなんだ?」
 クラネルさんは追撃の手を緩めてはくれないらしい。
 ここは、正直に話すべし。
「それなんですが、あんまりよく覚えてないんですよ」
「ほぉ~覚えてない、か。まぁいい、次の質問だ」
 こんな感じで、クラネルさんの尋問は一時間近く続いた。

 このあとは仕事に入る。
 仕事と言っても、何処かの店で労働させられる訳じゃない。刑務所の中には、作業場があり、それぞれが給料とにらめっこをして好きな職業を選択している。
 もちろん、戦闘系の仕事はないが、缶詰の作成や木材の加工なんかが、給料が高く、人気もそれなりにある。
 ただ、募集人数に限りがあるから、人気のある仕事は、その分獲得の倍率が高くなる。
 逆に、人気の低い仕事は、申し込めばすぐに取り掛かることが出来るくらいだ。
 ちなみに、仕事の期間は最低でも一週間。一週間後には、別の仕事に応募することが可能となる。
 とはいえ、王都の刑務所にお世話になる人間は、そうそう居ないから。
 今は、俺を含めて三十人と少し。
 対して、仕事の募集人員は四十人ほどだ。あまり片寄らなければ、問題なく仕事を得ることが出来る。
 そして俺は昨日の入所の際に選んだ仕事の持ち場へと足を運ぶ。
 俺が選んだのは調理だ。
 ちょうど調理スキルを覚えていたし、スキルレベルを上げるチャンスでもある。
 家で料理をすることはするが、どうもレベルが上がらない。
 協会のお姉さんに聴いてみたいところだが、なんだかんだで後回しになっている。
 で、刑務所で調理の仕事とは、なにをするのか。
「おーい、まだなのか?」
「はいっ! もうすぐ出来ますっ!!」
 刑務所を含む職員達への昼飯と晩飯の調理だ。
 経費削減ということで、料理の質は本職に負けてしまうが、スキルがあるかどうかだけでも、それなりの差が出てくる。
 ちなみに、俺がこの仕事に就いてから、利用者の数が少しずつ増えているらしい。
 真面目に働くのは、本当に気持ちがいいもんだ。
 調理場から食事をするテーブルが見えるのも、俺の中では意外と好感が持てる。
 俺が作った料理を旨そうに食べてくれるのは、本当に嬉しいもんだ。
「俺、エー定食ね」
「はいっ!」
 いい汗をかいている。今の俺は、間違いなく胸を張れる。

 魔人を二体ほど無力化したが、あれに比べれば雲泥の差だ。
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