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デュラハンの恐怖 再び
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ーーフィルの寿命:残り七日
高笑いをするデュラハンに、明らかにゴマをするようになった小僧は、まず手始めに肩を揉み始めた。
「デュラハン様は、こんなご立派な鎧を身に付けられているのですね!」
正直、気持ち悪かったのじゃが、見届け人が必要じゃろうと思うて、影ながら見守ることにしたのじゃ。
「おい、力が弱いぞ」
「す、すみません!」
「痛っ! おいっ! 今度は力みすぎだっ!!」
演技と分かるような、わざとらしい口調と素振りで、理不尽の限りを尽くしていくデュラハンと、死の宣告を解いてもらうが為に、必死に耐える小僧。
いいぞ、もっとやれ。
どうせ、我には実害がないし、解決策を用意してやることも無理じゃからの。
「おいっ! お茶を淹れてこいっ!」
「はい! ただいまっ!」
「誰が肩揉みを止めていいって言ったんだ? あぁ?」
「すみませんっ! すみませんっ!!」
今後の展開が楽しみなのじゃ。
ーーフィルの寿命:残り六日
翌朝。
小僧は日が上る前から、近くの森へと足を運んでいた。
薪でも取りに行ったのかのぉ?
奴の肩には、見事な斧が担がれておった。
「おい、あのクソ野郎は?」
「朝から出掛けておる」
「はぁ? ったく、使えねぇ奴だなぁ」
「デュラハンよ。悪いことは言わんから」
「おめぇもしつけぇなぁ。ってか、四天王候補の俺様に、気安く話しかけんな。この低級魔人が」
「……はぁ」
無知とは怖いものよのぉ……。
まぁ、自己紹介の一つもしておらんからのぉ。仕方がないか。
「今更じゃが、簡単に自己紹介をしておこうかの」
我は仁王立ちになり、
「我は四天王の座を争う七人の内の一人! ミノタウロスの進化種である、モウコ・ロデオ! なのじゃ!!」
「……おめぇも座を狙っているのかよ」
「うむ。まぁ、奴に負けてから、座を狙うのは諦めようかと考えておるがの」
「は? 負けた? 魔人が人間にか?」
デュラハンは、心底信じられないような口調で尋ねてくる。
「うむ。奴は武器の一つも使わずに、我を無力化しおったのじゃ」
「はっ! それは、お前が弱すぎるだけじゃねぇのか?」
「好きに言うておれ」
そのうち、デュラハンも後悔する事じゃろう。
「遅くなってしまい申し訳ございませんっ! デュラハン様っ!!」
っと、無駄な話をしておれば、汗だくの小僧が帰って来おった。
「遅せぇぞ! 何して……なんだ、それは?」
小僧は木箱を持っていた。
「これですか? 粗末ですが、デュラハン様を祀るための祠でございます!」
小僧は瞳をキラキラさせて説明する。
既に常軌を逸して来おったわ。
「お、おぉ……そうか」
先程まで小僧にイラついていたデュラハンは、まさか祀られるとは思っておらず、少し引いておった。
「早速ですが、そのお兜を奉納させていただきますっ!」
軽く引いていると気付いておらん小僧は、デュラハンに有無を言わせず兜を奪い、木箱へと納める。
「お、なかなか良いクッションじゃねぇか」
「お気に召したようで何よりでございます! デュラハン様!」
「お、おぉ……近いなぁ」
「はっ! 失礼しましたっ! おらっ! 貴様もデュラハン様に近いぞっ!! もっと下がれっ!!」
「それは俺の体だっ!?」
どうやら小僧には、デュラハンの頭だけが信仰の対象らしい。
首より上のない胴体を殴り付け、兜との距離を開けさせる。
「どうなっても知らんからのぉ」
デュラハンに向かって声をかけた我は、なぜか小僧から睨まれた。
「おい牛の幼女っ! デュラハン様に向かって、なんて口の聞き方をしてんだっ!!」
「え?」
いつもと口調も表情も違うのじゃが?
もっと、こう……子供を愛でるような表情をしてほしいのじゃが?
間違っても、親の仇のような顔は、しないで欲しいのじゃがっ!?
「ま、待つのじゃっ!? べ、別に我はそんなつもりじゃ」
このあと。
我の記憶の一部が跳んだのじゃ。
「……今のうちだな」
祠に奉納された夜。
デュラハンの体が、頭を取り出そうと、音を最小限にして近づいていた。
「よし……よしっ!」
頭を取り戻したデュラハンは、早速その場から逃げようと後ろを振り向く。
振り向いたそこには、小僧が音もなく忍び寄っていたとも知らずに。
「ひっ!?」
「どこに行かれるのですかぁぁぁあああ!!!」
「ど、どどどど、どこにもっ! どこにも、行きませんよっ!?」
デュラハンの不良風の口調から、めちゃくちゃ可愛らしい口調に変わっておった。
「では、頭は私がお持ちしますね」
「い、いやっ! いいっ!」
「そんな……落としたりでもしたら、この世の終わりではありませんか。さぁ、早く」
じりじりと近づいていく小僧と、後がないデュラハン。
そこでデュラハンはなにを思ったのか、
「こ、この体は、私の側近だ! 故に、一番の側近に頼るのは、自然なことであろう?」
とか言い始めたのじゃ。
まぁ……考えようによっては、側近じゃのぉ。
じゃが、
「自然? しぜん?」
小僧には関係が無いようだぞ?
「しぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜん」
「ひぃっ!?」
「………………」
「きゅ、急に黙って、ど、どうした?」
「……なら、こんな夜中に祠から頭を取り出すのは…………」
小僧は瞳を鈍く光らせながら、
「自然な事でしょうか?」
デュラハンを絶叫のドン底に突き落とした。
その悲鳴で、村中の人間が飛び起きたという。
ーーフィルの寿命:残り五日
この日から、フィルは祠の守護獣のような振る舞いをし始めた。
「あ、あのぉ~」
「なんで御座いますか? 主神様」
デュラハンは神に昇格しておった。
「あ、あぁ……たまには外に出たいのですが」
「なりません」
デュラハン神の守護獣こと、フィルの小僧は、キッパリと神に告げる。
「な、なんで?」
「外は危険に溢れております。例えば……あそこで震えている首なしの体」
「そ、それは私のだが」
「あれはきっと、外で薪割りをしていた最中に、自身の首を切り落としてしまったからでしょう」
「は?」
まさかの解釈に、黙って聞いている我もビックリじゃわい。
「あのように、首がいつ切り落とされても不思議ではないのです。兜とはいえ、主神様に何かあられてからでは……!」
「わ、分かった」
かなり青ざめておるのぉ。
「それよりも主神様。本日の供物でございます」
「お、おぉ……」
祠の前に用意される野菜と赤い液体の入ったコップ。
「この赤いのは?」
「生き血でございます」
躊躇うことなく流暢に答えおったっ!
生き血っ!? なんの生き血なのじゃっ!?
というか、貴様が守護しておるのは邪神なのかっ!?
「い、生き血っ!?」
邪神様も怯えておるぞっ!?
「左様でございます」
野菜スティックと生き血という強烈な組み合わせを手に持ち、小僧はデュラハン神の側まで近づく。
小僧は兜を正座した膝の上に起き、
「まずは取れ立て新鮮野菜を」
口に詰め込めていく。
「もごごごごっ!」
「大変失礼しました。喉でございますね」
血の入ったコップの中身をデュラハン神の口へと流し込んでいく。
「っ!? っっっっっっ!!!」
声にならない叫びを離れた位置に居る胴体が表現する。
足掻き、もがき、喉元を押さえて、床を転がり回る。
「…………げぷっ」
グロッキー状態なデュラハン神様。
マジで凄いのぉ。
あの小僧の代わりっぷりも凄いが、デュラハンの忍耐力も凄まじい。
もうギブアップすれば良いものを、意地のみで堪え忍んでおる。
「……もっとも」
体の方はギブアップをしておるがの。
意気消沈した首なしの遺体を見て、我はふと瞳を閉じた。
ーーフィルの寿命:残り四日
「魔女めっ! 何処にいったぁぁぁあああ!!」
「ひっ!?」
祠の前をうろうろとする守護獣。
彼の獣がなにを追っているのか。
その答えは我の後ろにある大きな木箱の中におる。
我は背後の木箱のふたを少しだけ開け、中を覗く。
ブルブルと小刻みに震える首なしの体が、そこにはあった。
何故このような事になっておるのか。
「あの魔女の肉さえあれば、邪神様は私の呪いを解いてくださるのだぁ! はぁあ……」
小僧は幸悦な表情で物騒な供物を探す。
「や、やめいっ!」
突然声をあげたデュラハン神に、小僧はギョロリと首と目玉を動かす。
「ひっ!?」
一挙手一投足に怯えるデュラハン神じゃが、彼の神は強気に出た。
「ま、魔女であろうとも、い、生きているのですっ! む、無駄なせっ、殺生は、ダメですよぉー」
優しいっ! 語尾が優しすぎるのじゃっ!
もっと、ビシッ! と言わねば、とち狂った獣は静まらんぞ?
「主神様。あぁなんて事でしょう!」
「ひぃっ!?」
顔を極限まで近づけて、小僧はデュラハン神の耳元で囁く。
「主神様は魔力のこもった肉が好物だというのに、そんな我慢をされておるのですね」
「違っ!?」
「大丈夫です。地の果てまでも追いかけ、必ず捕まえますので。フハ、フハハハハハッ!!」
「ひぃっ!?」
木箱の中が慌ただしくなる。
これは見付かるのも時間の問題じゃな。
「……そういえば、魔力のこもった牛肉なんかはいかがでしょうか?」
うん? 牛肉じゃと?
「魔女よりは魔力が減ってしまうかもしれませんが……」
危険を察知した我は、蹴りで木箱に穴を開けつつも、一目散に逃げ出した。
「てめぇ! 牛女っ! 帰って来やがれっ!! 頼むからぁ!!」
デュラハン神が泣き叫んでいたように聞こえるが、後ろを振り替えることなく突き進んだ。
ーーフィルの寿命:残り三日
外を逃げ回っていた我は、日付けが変わるまで外で過ごした。
爺婆の家に戻ったのは、お昼頃じゃった。
窓越しに、二人の様子を眺めてみる。
「邪神様っ! どうしてっ!? どうしてなのですかっ!!?」
居間の中央で泣き叫ぶフィルと、
「………………」
頭を抱えて震えているデュラハン神の姿が。
これは中に入るのは諦めた方が良いかの。
「はっ! お、おい! 牛女っ! 助けてっ!!」
我は顔を壁に隠した。
「ま、待ってっ! お願いっ! お願いしますっ!! 助けてっ!!!」
助けてもなにも、自身が掛けた死の宣告を解いてやれば良いものを。
「……なるほど。邪神様は、本当は神ではなかったと」
「ひぃぃぃいいい!?」
展開が気になり、我はまた、こっそりと覗く。
フィルは腰に下げていた剣を抜き、デュラハンの元へとゆっくり近づいていく。
「神でないなら用はないですねぇ!」
剣を逆手で持ち、デュラハン神の体へと突き刺す。
「うがっ!?」
普段ならば軽々と避けられたはずの剣は、見事に太ももへと突き刺さる。
「あぁああぁぁ! 神がっ! 邪神様が観ておられるっ!!」
ついに見えないものまで見えるようになってしもうたか。
「分かっ、分かった! 解くっ! 解くからっ! 許してっ!!」
……勝敗が決した。
「勝者、小僧!」
「牛肉っ! 見つけたぞぉ!!」
このあと、数時間ほど必死の追い駆けっこをすることになったのじゃ。
高笑いをするデュラハンに、明らかにゴマをするようになった小僧は、まず手始めに肩を揉み始めた。
「デュラハン様は、こんなご立派な鎧を身に付けられているのですね!」
正直、気持ち悪かったのじゃが、見届け人が必要じゃろうと思うて、影ながら見守ることにしたのじゃ。
「おい、力が弱いぞ」
「す、すみません!」
「痛っ! おいっ! 今度は力みすぎだっ!!」
演技と分かるような、わざとらしい口調と素振りで、理不尽の限りを尽くしていくデュラハンと、死の宣告を解いてもらうが為に、必死に耐える小僧。
いいぞ、もっとやれ。
どうせ、我には実害がないし、解決策を用意してやることも無理じゃからの。
「おいっ! お茶を淹れてこいっ!」
「はい! ただいまっ!」
「誰が肩揉みを止めていいって言ったんだ? あぁ?」
「すみませんっ! すみませんっ!!」
今後の展開が楽しみなのじゃ。
ーーフィルの寿命:残り六日
翌朝。
小僧は日が上る前から、近くの森へと足を運んでいた。
薪でも取りに行ったのかのぉ?
奴の肩には、見事な斧が担がれておった。
「おい、あのクソ野郎は?」
「朝から出掛けておる」
「はぁ? ったく、使えねぇ奴だなぁ」
「デュラハンよ。悪いことは言わんから」
「おめぇもしつけぇなぁ。ってか、四天王候補の俺様に、気安く話しかけんな。この低級魔人が」
「……はぁ」
無知とは怖いものよのぉ……。
まぁ、自己紹介の一つもしておらんからのぉ。仕方がないか。
「今更じゃが、簡単に自己紹介をしておこうかの」
我は仁王立ちになり、
「我は四天王の座を争う七人の内の一人! ミノタウロスの進化種である、モウコ・ロデオ! なのじゃ!!」
「……おめぇも座を狙っているのかよ」
「うむ。まぁ、奴に負けてから、座を狙うのは諦めようかと考えておるがの」
「は? 負けた? 魔人が人間にか?」
デュラハンは、心底信じられないような口調で尋ねてくる。
「うむ。奴は武器の一つも使わずに、我を無力化しおったのじゃ」
「はっ! それは、お前が弱すぎるだけじゃねぇのか?」
「好きに言うておれ」
そのうち、デュラハンも後悔する事じゃろう。
「遅くなってしまい申し訳ございませんっ! デュラハン様っ!!」
っと、無駄な話をしておれば、汗だくの小僧が帰って来おった。
「遅せぇぞ! 何して……なんだ、それは?」
小僧は木箱を持っていた。
「これですか? 粗末ですが、デュラハン様を祀るための祠でございます!」
小僧は瞳をキラキラさせて説明する。
既に常軌を逸して来おったわ。
「お、おぉ……そうか」
先程まで小僧にイラついていたデュラハンは、まさか祀られるとは思っておらず、少し引いておった。
「早速ですが、そのお兜を奉納させていただきますっ!」
軽く引いていると気付いておらん小僧は、デュラハンに有無を言わせず兜を奪い、木箱へと納める。
「お、なかなか良いクッションじゃねぇか」
「お気に召したようで何よりでございます! デュラハン様!」
「お、おぉ……近いなぁ」
「はっ! 失礼しましたっ! おらっ! 貴様もデュラハン様に近いぞっ!! もっと下がれっ!!」
「それは俺の体だっ!?」
どうやら小僧には、デュラハンの頭だけが信仰の対象らしい。
首より上のない胴体を殴り付け、兜との距離を開けさせる。
「どうなっても知らんからのぉ」
デュラハンに向かって声をかけた我は、なぜか小僧から睨まれた。
「おい牛の幼女っ! デュラハン様に向かって、なんて口の聞き方をしてんだっ!!」
「え?」
いつもと口調も表情も違うのじゃが?
もっと、こう……子供を愛でるような表情をしてほしいのじゃが?
間違っても、親の仇のような顔は、しないで欲しいのじゃがっ!?
「ま、待つのじゃっ!? べ、別に我はそんなつもりじゃ」
このあと。
我の記憶の一部が跳んだのじゃ。
「……今のうちだな」
祠に奉納された夜。
デュラハンの体が、頭を取り出そうと、音を最小限にして近づいていた。
「よし……よしっ!」
頭を取り戻したデュラハンは、早速その場から逃げようと後ろを振り向く。
振り向いたそこには、小僧が音もなく忍び寄っていたとも知らずに。
「ひっ!?」
「どこに行かれるのですかぁぁぁあああ!!!」
「ど、どどどど、どこにもっ! どこにも、行きませんよっ!?」
デュラハンの不良風の口調から、めちゃくちゃ可愛らしい口調に変わっておった。
「では、頭は私がお持ちしますね」
「い、いやっ! いいっ!」
「そんな……落としたりでもしたら、この世の終わりではありませんか。さぁ、早く」
じりじりと近づいていく小僧と、後がないデュラハン。
そこでデュラハンはなにを思ったのか、
「こ、この体は、私の側近だ! 故に、一番の側近に頼るのは、自然なことであろう?」
とか言い始めたのじゃ。
まぁ……考えようによっては、側近じゃのぉ。
じゃが、
「自然? しぜん?」
小僧には関係が無いようだぞ?
「しぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜんしぜん」
「ひぃっ!?」
「………………」
「きゅ、急に黙って、ど、どうした?」
「……なら、こんな夜中に祠から頭を取り出すのは…………」
小僧は瞳を鈍く光らせながら、
「自然な事でしょうか?」
デュラハンを絶叫のドン底に突き落とした。
その悲鳴で、村中の人間が飛び起きたという。
ーーフィルの寿命:残り五日
この日から、フィルは祠の守護獣のような振る舞いをし始めた。
「あ、あのぉ~」
「なんで御座いますか? 主神様」
デュラハンは神に昇格しておった。
「あ、あぁ……たまには外に出たいのですが」
「なりません」
デュラハン神の守護獣こと、フィルの小僧は、キッパリと神に告げる。
「な、なんで?」
「外は危険に溢れております。例えば……あそこで震えている首なしの体」
「そ、それは私のだが」
「あれはきっと、外で薪割りをしていた最中に、自身の首を切り落としてしまったからでしょう」
「は?」
まさかの解釈に、黙って聞いている我もビックリじゃわい。
「あのように、首がいつ切り落とされても不思議ではないのです。兜とはいえ、主神様に何かあられてからでは……!」
「わ、分かった」
かなり青ざめておるのぉ。
「それよりも主神様。本日の供物でございます」
「お、おぉ……」
祠の前に用意される野菜と赤い液体の入ったコップ。
「この赤いのは?」
「生き血でございます」
躊躇うことなく流暢に答えおったっ!
生き血っ!? なんの生き血なのじゃっ!?
というか、貴様が守護しておるのは邪神なのかっ!?
「い、生き血っ!?」
邪神様も怯えておるぞっ!?
「左様でございます」
野菜スティックと生き血という強烈な組み合わせを手に持ち、小僧はデュラハン神の側まで近づく。
小僧は兜を正座した膝の上に起き、
「まずは取れ立て新鮮野菜を」
口に詰め込めていく。
「もごごごごっ!」
「大変失礼しました。喉でございますね」
血の入ったコップの中身をデュラハン神の口へと流し込んでいく。
「っ!? っっっっっっ!!!」
声にならない叫びを離れた位置に居る胴体が表現する。
足掻き、もがき、喉元を押さえて、床を転がり回る。
「…………げぷっ」
グロッキー状態なデュラハン神様。
マジで凄いのぉ。
あの小僧の代わりっぷりも凄いが、デュラハンの忍耐力も凄まじい。
もうギブアップすれば良いものを、意地のみで堪え忍んでおる。
「……もっとも」
体の方はギブアップをしておるがの。
意気消沈した首なしの遺体を見て、我はふと瞳を閉じた。
ーーフィルの寿命:残り四日
「魔女めっ! 何処にいったぁぁぁあああ!!」
「ひっ!?」
祠の前をうろうろとする守護獣。
彼の獣がなにを追っているのか。
その答えは我の後ろにある大きな木箱の中におる。
我は背後の木箱のふたを少しだけ開け、中を覗く。
ブルブルと小刻みに震える首なしの体が、そこにはあった。
何故このような事になっておるのか。
「あの魔女の肉さえあれば、邪神様は私の呪いを解いてくださるのだぁ! はぁあ……」
小僧は幸悦な表情で物騒な供物を探す。
「や、やめいっ!」
突然声をあげたデュラハン神に、小僧はギョロリと首と目玉を動かす。
「ひっ!?」
一挙手一投足に怯えるデュラハン神じゃが、彼の神は強気に出た。
「ま、魔女であろうとも、い、生きているのですっ! む、無駄なせっ、殺生は、ダメですよぉー」
優しいっ! 語尾が優しすぎるのじゃっ!
もっと、ビシッ! と言わねば、とち狂った獣は静まらんぞ?
「主神様。あぁなんて事でしょう!」
「ひぃっ!?」
顔を極限まで近づけて、小僧はデュラハン神の耳元で囁く。
「主神様は魔力のこもった肉が好物だというのに、そんな我慢をされておるのですね」
「違っ!?」
「大丈夫です。地の果てまでも追いかけ、必ず捕まえますので。フハ、フハハハハハッ!!」
「ひぃっ!?」
木箱の中が慌ただしくなる。
これは見付かるのも時間の問題じゃな。
「……そういえば、魔力のこもった牛肉なんかはいかがでしょうか?」
うん? 牛肉じゃと?
「魔女よりは魔力が減ってしまうかもしれませんが……」
危険を察知した我は、蹴りで木箱に穴を開けつつも、一目散に逃げ出した。
「てめぇ! 牛女っ! 帰って来やがれっ!! 頼むからぁ!!」
デュラハン神が泣き叫んでいたように聞こえるが、後ろを振り替えることなく突き進んだ。
ーーフィルの寿命:残り三日
外を逃げ回っていた我は、日付けが変わるまで外で過ごした。
爺婆の家に戻ったのは、お昼頃じゃった。
窓越しに、二人の様子を眺めてみる。
「邪神様っ! どうしてっ!? どうしてなのですかっ!!?」
居間の中央で泣き叫ぶフィルと、
「………………」
頭を抱えて震えているデュラハン神の姿が。
これは中に入るのは諦めた方が良いかの。
「はっ! お、おい! 牛女っ! 助けてっ!!」
我は顔を壁に隠した。
「ま、待ってっ! お願いっ! お願いしますっ!! 助けてっ!!!」
助けてもなにも、自身が掛けた死の宣告を解いてやれば良いものを。
「……なるほど。邪神様は、本当は神ではなかったと」
「ひぃぃぃいいい!?」
展開が気になり、我はまた、こっそりと覗く。
フィルは腰に下げていた剣を抜き、デュラハンの元へとゆっくり近づいていく。
「神でないなら用はないですねぇ!」
剣を逆手で持ち、デュラハン神の体へと突き刺す。
「うがっ!?」
普段ならば軽々と避けられたはずの剣は、見事に太ももへと突き刺さる。
「あぁああぁぁ! 神がっ! 邪神様が観ておられるっ!!」
ついに見えないものまで見えるようになってしもうたか。
「分かっ、分かった! 解くっ! 解くからっ! 許してっ!!」
……勝敗が決した。
「勝者、小僧!」
「牛肉っ! 見つけたぞぉ!!」
このあと、数時間ほど必死の追い駆けっこをすることになったのじゃ。
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