恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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入れ替りの恐怖

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「あの家の者共は本当に大丈夫なのかのぉ?」
 モー子の言うあの家の者共というのは、俺達が既に一週間も泊めてもらっている家のお爺さんとお婆さんの事だ。
 そう。なんだかんだで一週間が過ぎた。
 時の流れというのは残酷なものだな。
「のぉ」
「あ? あぁ……大丈夫だろ。掃除の出来るマーアに散らかす聖女。調理も普通に出来るマーアに食い散らかす聖女。肩揉みの出来るマーアに瀕死の重症を負わせる聖女……」
 あれ?
「聖女、邪魔じゃね?」
「そうじゃのぉ……爺婆が死んどらんのが不思議なくらいじゃのぉ……」
 瀕死の重症は、マーアが回復魔法を掛けて事なきを得たわけだが……
「あのドジっ娘ぶりをなんとかしねぇと、俺らまで危険な目に遭いそうだな」
 正直、まともに言えない死の宣告よりも、あの盛大なドジッぷりの方が脅威だと感じている。
「そうじゃの……我らに死人は出ずとも、犯罪者は出るかもしれからのぉ」
 今は冗談で話しているが、近い未来に出るかもしれん。
 聖女がドジっ娘を炸裂して、人を殺しました。とか、マジで洒落にならん。
 そんな話を下り坂の天辺で話していると、

「「入れ替わってるぅぅぅううう!!!」」

 空を眺めていた俺とモー子は、声のした方を向く。
 そこには、鎧兜と目元を光らせている聖女様の姿があった。



「いやいやっ! 今日ほど喜ばしい日はないっ! 今日は俺の奢りだっ! ジャンジャン飲んでくれっ!!」
 体が元に戻ったデュラハンは、俺達三人を引き連れて、一件の酒場に訪れていた。
 小さな村に一件だけの酒場。
 そこは、村中の人が集まり、どんちゃん騒ぎをする事が日常茶飯事のようだ。
 まぁ、今回はデュラハンという魔人が率先して騒いでいるわけだが。
「わ、私はお酒はあんまり……」
「あぁ? 俺の酒が飲めねぇってのか? あぁあ?」
「そう言われますと……」
 なんだろう……めちゃくちゃ違和感があるんだが。むしろ、違和感しかないんだが。しっくり来る感じがゼロなんだが。
 デュラハンって騎士だよな?
 なのに、どこかの不良かヤンキーにしか見えないんだが。
 対して聖女は絡まれて困っている女子って感じだ。
 どちらもソレっぽさの欠片もねぇ。
「モー子、デュラハンってのは、全員があんな感じなのか?」
 隣で牛乳をたしなんでいるモー子へと聞く。
「知らん。我も本物のデュラハンと話すのは初めてじゃからの」
「そうか」
 ワイングラスに牛乳が注がれている事実は置いておくとして、地下大迷宮の中層に住んでいたモー子でも知らねぇなら、未だに悪絡みしているデュラハンが基準になりそうだなぁ。
 正直、嫌だなぁ。
 勇者と互角の戦いをした魔人だろ? 夢が壊れるなぁ。
 それに魔に取り付かれたと言っても、元は騎士なんだろ?
 いやぁ……ないな。うん。
 聖女に絡む騎士とか、打ち首でもおかしくねぇから。
 まぁ、首、取れとるけど。
「あの、本当に困ります」
 それとマーア、もとい、サントラね。
 いや、口調とか態度は申し分ない。聖女感たっぷりなんだよ。
 ただなぁ……今までのマーアとしての口調やツッコミのキレとか……なんか、そういう成分が抜き取られたみたいで、正直、すごく話難い。
 今でのツッコミのキレは凄かった。
 そんな小さいボケまで拾ってくれるのかっ!? っと驚きそうになったほどだ。
 それがどうだ……?
「はい? 何をおっしゃっているのですか?」
 誰もがツッコミを入れられるような低レベルなボケでも、こんな丁寧に聞き返されたらっ! あぁあ!!
 これはあれだな。
「入れ替わっていた方が良かったのではなかろうか」

 こうして。
 三人には気付かれないように、俺の、俺による、二人の入れ替わり大作戦が、水面下で動こうとしていた。
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