恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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ミノタウロスの恐怖

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 街の外、平原には、一面のミノタウロスが様々な武器を手に持って整列していた。
 ただ気になるのは、
「なんでクッション性の高い武器ばかりなんだ?」
「お前にはそんな風に見えているのか?」
 隣で苦笑い(兜で見えないが)をしていそうな口調で呟くマーア。
 台詞から、どうやらクッション性はない武器を手にしているらしい。
「武器はともかく……あれだけの数をどこから連れてきたのだか…………」
 ミノタウロスと言えば、大陸の中央にある地下迷宮の中層以降に巣を作っている魔物のはず。
 その軍勢が、大陸の西端に位置するこの街まで足を運んで来たわけだ。
「で、モー子はどこにいるんだ?」
「………………」
 俺の問いに、マーアは無言で指を指す。その指の先にはミノタウロスの軍勢がいるだけ。
「……もしかして」
「あぁ。フィルの想像通り、あのミノタウロスの軍勢の更に後ろでふんぞり返っている」
「ふんぞり返っているのかぁ」
 想像するだけで可愛く思えてしまう。
「見つけ次第、力強く抱き締めてやるっ!」
「私は、お前を退治すれば解決するのでは? という強い疑問に襲われているぞ」
 そんな疑問こそ殴り飛ばして欲しい。
「ともかく、モウコはミノタウロスの進化種と言っていた。あの手前に軍勢を作っているのが眷属と考えてもおかしくない」
「そんな情報をどこで仕入れてきたんだ?」
「貴様も側に居ただろうが」
 呆れてモノが言えない。そんな溜め息混じりの口調で言われた。
「ほら、もう行くぞ」
「……いや、俺が行くと足手まといになるんじゃ?」
「貴様に戦闘での活躍なんぞ、誰も期待しておらんわ」
「ならなんで?」
「モウコの奴を抱き締めに行くんだろ?」
 なるほど。
「冗談のつもりで言ったが、どうやら本気で抱くしかないようだなっ!!」
「セクハラ案件で訴えられそうだが、モウコの天敵だからな。貴様は」
 天敵言うなし。

 戦線は苛烈だった。
 ミノタウロスを噂程度でしか聞いたことのない冒険者の方が多数だから、その巨躯に圧倒された者も多い。
 実力の半分どころか、十分の一も出せずに負傷して後退する奴なんかも結構いる。
 そんな中。
 巨大なハンマーで応戦しているフルプレートアーマーの狂戦士は、三頭のミノタウロスを同時に相手しながら、互角以上の勝負を繰り広げていた。
「ふんっ!!」
 振り上げたハンマーで一頭のミノタウロスを地面から宙へと浮かせ、
「せいっやぁっ!!」
 空中で仰向けになるミノタウロスの腹部を目掛けて、振り上げたばかりのハンマーを振り下ろす。
 ミノタウロスの背中が地面についた衝撃は、隙を伺っていた他の二頭の足元を揺らし、一頭はバランスを崩して膝を着く。
 その隙を逃さず、狂戦士は横凪ぎで膝を着いたミノタウロスの頭を打ち抜く。
 右から来たハンマーをもろに頭で受け、踏ん張って耐えたミノタウロスへと吹き飛ばされる。
 そのハンマーを振るう姿を見て、誰が聖女だと思えるのか。

 それでも、彼は言う。

「私は聖女だと、何度言えば分かるのだっ!」

 「そもそも女だっ!」っと、叫びながらハンマーを振り抜いているが、間違いなく狂戦士だ。絶対に聖女じゃない。
 後ろでミノタウロスを抱っこしていた俺は、彼
「私は女だと言っているだろうっ!!」
 ……彼女は間違いなく聖女でない。俺はそう確信した。

「それよりっ! 貴様っ! その子供はどこから連れてきたっ!?」
「いや、その辺のミノタウロスの魔力を吸い上げてやったまでだ」
 マーアはハンマーを振るいながら俺に話しかけてくる。
 結構余裕があるのだろうか。
「吸い上げたっ!? 貴様、いつの間にドレインなんて覚えたのだっ!?」
「いやいや、ドレインなんて覚えてねぇよ?」
 一頭のミノタウロスをホームランさせた狂戦士は、俺の方に向き直る。
「どう言うことだ?」
「お前、説明してくれたじゃん。俺の称号のコンボをさぁ」
「……確かに説明したが、あれは確率に依存するものだぞ? そんな簡単に相手の魔力をバカスカ吸えるとは思えないが?」
 マーアの言う通り、魔力へのダメージ変換はかなり低い確率で発生するものだ。
 ついでに言うなら、ミノタウロスの一撃を俺は何度も耐えることは出来ないだろう。
 マーアのハンマーで殴られた訳でもないから、運のステータスは低いまま。なんなら一番低い数値だろう。

 では、どうやってミノタウロスの魔力を吸い上げたのか。

「俺が俺に攻撃をして、そのダメージを魔法で回復っ! そこで失った魔力はミノタウロスから強奪っ! 低確率で発生した魔力ダメージ変換もっ! ミノタウロスから強奪っ!」
 小さくなったミノタウロスを地面に降ろしてやり、俺は決める。
「あとは」
「あとはその繰り返しで、魔力を奪い続けたと。なるほど。ここに来る前に習得していたのは、初歩中の初歩の回復魔法だったか」
 おい、俺の決めを奪うんじゃねぇよ。
 ミノタウロスの軍勢が街に迫っていると言うので、俺は報酬で得た金を使い、ともかく燃費の悪い初級の回復魔法を覚えたのだ。
 燃費が悪くとも、補給するのは敵の魔力からだ。
 まぁ、魔力吸収の発動条件としては、相手に触れている必要があるのだが、ミノタウロスの巨体なら、触れながらでも攻撃を避けることが出来る。
 そんなチキンレースみたいな行動をすれば、恐怖で萎縮するところだが、俺には恐怖耐性スキルのレベル百五十八がある。
 並大抵の恐怖は感じなくなっているのだっ!
 と、説明をしている最中に、
「子ミノ三頭の出来上がりっ!」
「……貴様のような冒険者を始めてみる」
 その台詞。お前にも言ってやりたいんだが?
「巨大ハンマーを担いで戦場のど真ん中にいる聖女なんて、お前ぐらいだろ?」
「まぁ……他に聞いたことはないな」
 他にいて堪るか。

 そんな調子で、俺は小さなミノタウロスを量産し、マーアはミノタウロスをもぐら叩きのように潰していき、
「会いたかったよぉ~」
「ひぃっ!?」
 モー子の前にまでたどり着いた。
「これではどちらが悪者か……」
 うるさいぞ、マーア。
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