恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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付与スキルの恐怖

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「まずは私から話をしよう。当事者ではないからな」
 その一言から、マーアの説明が始まった。



「もう一度恐怖に支配されるがよいわっ! 『カースド・フィア』っ!!」
「フィルっ!」
 『カースド・フィア』は、対象の相手に恐怖を与える魔法だ。
 精神系ステータスにも依るが、受けた者は音と光を遮断される。場合によっては皮膚の感覚までも失われると聞く。
 そんな魔法を、ただでさえ恐怖でおかしくなっているフィルに掛けさせるのは最悪だ。
 私は彼を背中から突き飛ばそうと試みる。
 が、彼は何故か魔人へとゆっくり近づいていき、

 魔人の胸を揉み始めた。

 訳のわからない私は、呆然とその様子を眺めることに徹した。
 下手に手を出して、私も巻き添え……戦闘の邪魔をするのは悪いと思ったからだ。
「えぇい! 離せっ! ど、何処を触っておるのじゃっ!?」
 みるみる魔人の顔が青ざめていく。
 恐怖を与えるはずの魔法が、まさか自身を恐怖に陥れる事になるとは。
「全くもって恐ろしい限りだな」
 彼の潜在能力には、女の私も戦慄したぞ。
「こ、こらっ! このっ!! 離せっ!!!」
 魔人がボコスカと彼を殴り付けるが、彼は痛がる素振りをみせない。
 ただ、出血などが症状として診れたので、私は少し離れた所から、
「『ヒール』」
「か、回復魔法じゃとっ!? あの鎧のは、狂戦士ではないのかっ!?」
「なっ!? 失礼な事を言うでないっ! これでもヒーラーの端くれだっ!!」
「貴様のような外見の者がヒーラーであって堪るかっ!!」
 あの魔人。もう少し凝らしめてやる必要があるようだな。
「『カースド・フィア』」
「おいこらっ!? お前は何をしとるのか、分かっておるのかっ!?」
 彼女は悲鳴じみた声で、フィルに恐怖を与える魔法を重ね掛けしている私に訴えてくる。
「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!!」
「や、やめっ! 助けてっ!! お願いじゃぁぁぁあああ!!!」 
 私に向かって必死に手を伸ばす魔人。
 私が追い討ちを掛けたとはいえ、正直可哀想に思えてきた。
 ので、
「ふんっ!」
 私の武器であるメイスでフィルを小突く。
 すると、打ち所が良かったのか。彼を一撃で気絶させられた。
「怖かったのじゃぁ! 助かったのじゃぁあ!!」
「そうかそうか」
 わんわん泣きわめきながら、私の鎧へとすがる魔人。
 確かに、子供のように可愛く思えなくないが……どう見ても私より背も高く、胸も大きく、私よりもグラマラスなスタイルをしている。
 そんな女に、女である私が抱き付かれて嬉しく思うだろうか。残念ながら思わない。
「もう少し遅く助けるべきだったか?」
「あれ以上ヤられておったら、我は死を選びかねんぞっ!?」
 少し冷静さを取り戻したのか、魔人は私の背後に回り込み、フィルを指差す。
「こいつは何者なんじゃ? 魔人でもある我に恐れるどころか、抱き付いた上にセクハラまでしてくるなんぞ……!」
「恐怖耐性スキルのレベルが三桁を越えた、単なるバカな冒険者だ」
「スキルのレベルが三桁を越えたじゃと? なにをどうしたらそんなことになるのじゃ?」
「貴様が何かしたのだろう? 現に昨日、森に入る前はレベル十前後だったからな」
 私は意識が朦朧もうろうとしていたので、詳細は全く知らない。
「我? 我はさっきみたく、魔法で恐怖状態にしてやっただけだぞ?」
「………………」
 なんとなくではあるが、フィルの恐怖耐性スキルのレベルが急上昇したのは、この魔人のせいだと確信した。
「どうした? 鎧の?」
「私の理解のためにも、今説明してやる」
 私はフィルを木の側に寝かせてから、魔人に説明することとした。
「フィル……この男に対して、恐怖に陥れる魔法を使った」
「ふむ」
「そして魔法が男に掛かったと?」
「うむ。昨日は苦しんでおったからの。魔法は成功しておったでおろうな」
 今日の様子からも、恐らく魔法は発動していたのだろう。
「魔法の効果により、恐怖を植え付けようとした。それで、この男の恐怖耐性スキルが効力を発揮しようとしていたが、断続的に何度も魔法が掛かるため、急激にレベルが上がっていったのだろう。最終的に止まったのは、この男が気絶したからだと考えられる」
「なるほどのぉ~。強制レベリングというやつの延長線上かのぉ」
「強制レベリング?」
 聞き慣れない単語に、私は眉間にシワを作る。
「うむ。大雑把に説明するとな。特定の条件を満たすと習得できるスキルや魔法というのがあるのじゃが、それを魔物や魔法で無理やり満たしてやることじゃ。例えば呪い系の魔法を習得するには、その呪いを自身が何度か経験する必要がある。だが、自然のままに呪いに掛かることは無かろう?」
「……あ、あぁそうだな」
 自然のまま。は、無くとも、うっかりで呪いには掛かる。
 今度あんな状況になったならば、もっと周囲を警戒しておかなければ。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。……強制レベリングについては分かった。話を戻すとしよう」
「うむ」
「恐怖耐性スキルのレベルが百を越えたことにより、フィルは二つの称号を獲得した。一つは怖い物知らず。効果は精神系の状態異常の耐性と即死魔法の緩和。もう一つは可愛いモノ好きという謎めいた称号だ」
「か、可愛いモノ好き……じゃと」
「なにか知っているのか?」
「詳しくは知らん。じゃが……」
 魔人は顔を青くして言う。
「かの称号を持つものは、総じて……」
 あまりにも緊迫めいた語り口調に、私は喉をならす。
 魔人は口をゆっくりと動かし、

「変態なのじゃ」

 思わず私は、魔人の腹に一撃を入れてしまった。
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