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四天王の恐怖
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森の調査は思ったよりも不調だった。
というのも、俺が初めて入った時の森と大差がないからだ。
「特にこれといった形跡は無さそうだな」
マーアも俺も、似たような感想を口にするだけ。
「そもそも、調査ってなんで募集が掛かってたんだ?」
「昨日話した通りだ。普段ならいないはずの魔物が、この森で確認できている。実際、仕事の開始日を今日にしてもらうために足を運んだ際には、オーガに襲われたという情報を得ている」
「オーガっ!?」
オーガというのは、人形に属する魔物の一種だ。
鬼の子孫とか、成長すると鬼神になるとか、そんな物騒な都市伝説が流れるような魔物で、正直、俺が万全の状態でも勝つことは難しいだろう。
「それが本当なら、マジでヤバイだろっ!」
「うむ。だが、ここ数時間の探索では、足掛かりすら得られていない」
確かに。オーガに襲われたという情報が昨日なら、間違いなくなんらかの痕跡が残っているはずだ。
例えば、戦闘をした跡だったり、人を殺した跡……だったり。
「異変はオーガの情報だけではない」
「というと?」
「森の奥に巣くっていたはずの魔物が、森の中腹に移動してきておる。その影響で、中腹のやつらは入り口付近。と、押し出されるように森の外へ巣を移動させておる」
と、マーアはハンマーを地面に突き立て、一つの推測を話す。
「森の中央にオーガ住み着いた。その結果、中央から弾き出されるように森の外へ移動しているのだろう」
確かに。
「恐怖の対象がいれば、一目散に逃げ出したくなるからな」
俺にも身に覚えがある。だから、マーアの推測は正しいとおもう。
「この森の中央には、隆起した山があるそうだな」
「あぁ。そこを魔物が穴を掘って、種族が変わりながら巣にされてるらしいぞ」
一番最初に動物型の魔物が穴を掘って、その後に来た強い魔物が場所を奪う。さらに強い魔物が……といった具合に、種族を変えながらも、魔物の巣という状態は受け継がれている。
「その世代交代で、次はオーガの番となった。そう考えてもおかしくなさそうだな」
「……行くのか?」
「行くしかあるまい」
地面を突いていたハンマーを背中に担ぎ、彼女は言う。
「なに。遠くから様子を眺め、正確な情報を持ち帰る。それが今回の依頼内容だ。無闇に戦う必要はない」
そうだな。
「遠くから眺めて、見つかったら猛ダッシュで逃げればいいしな」
「……私だけ置いて行かれそうな台詞に聞こえるが…………まぁ、そういうことだな」
「大丈夫だ。全力で逃げてやるから」
「不安しかないのだが」
森の中心部。この森は円形の形で広範囲に広がっているため、これより奥という概念はない。
つまり、中央がこの森の終点になるわけだ。
そして、中央には話に出ていた隆起した山がある。
山は堀抜かれ、人が余裕に入れるだけの大きさが確保されている。
実際に見るのは初めてだが、噂通りの洞穴みたいだ。
「……オーガが居るようには見えないな」
俺とマーアは、洞穴の入り口が見える位置に陣取り、草木で姿を眩ましていた。
「何処かに出掛けているのか、あるいは情報が嘘だったか。いずれにせよ、もう少し様子を見ることにしよう」
「そうしたいのは山々なんだが……」
朝方に出掛けて既に昼を回っている。
あと数時間もすれば、日が傾き、この辺りは暗闇に包まれるはずだ。
例え、今からまっすぐ街に向かったとしても、日は落ちているに違いない。
いくら恐怖耐性がレベル二十になったとはいえ、暗闇の森を歩けるだけの余裕はないはずだ。
レベル十一の頃も、夜の街はそれなりに怖かった。大通りでも、よく見れば小刻みに震えながら歩いたほどだ。
「……そうか。夜はまだ克服できそうに無いようだな」
「わりぃ」
「いや、気にする必要はない。元々は貴様のレベリングついでに受けたようなものだからな」
「マーア……」
俺は知っている。
俺の恐怖耐性のレベリングが「ついで」であって、本来の目的は森の調査だ。
確か、旅費が心許ないとも言っていたはずだ。
完全に足を引っ張っているな。俺。
「さて、そうとなれば早速戻るとしよう」
「ありがとう」
「なに。私も初めて組めたパーティーが貴様でよかったよ。フィル」
と、ソレが姿を現したのは、マーアが立ち上がったのとほぼ同時だった。
「人間の分際で恐怖を振り撒くとは……舐めたものだなっ!」
そんな声が聞こえた。
そう認識したときには、マーアが樹木へと背中から叩き付けられた後だった。
というのも、俺が初めて入った時の森と大差がないからだ。
「特にこれといった形跡は無さそうだな」
マーアも俺も、似たような感想を口にするだけ。
「そもそも、調査ってなんで募集が掛かってたんだ?」
「昨日話した通りだ。普段ならいないはずの魔物が、この森で確認できている。実際、仕事の開始日を今日にしてもらうために足を運んだ際には、オーガに襲われたという情報を得ている」
「オーガっ!?」
オーガというのは、人形に属する魔物の一種だ。
鬼の子孫とか、成長すると鬼神になるとか、そんな物騒な都市伝説が流れるような魔物で、正直、俺が万全の状態でも勝つことは難しいだろう。
「それが本当なら、マジでヤバイだろっ!」
「うむ。だが、ここ数時間の探索では、足掛かりすら得られていない」
確かに。オーガに襲われたという情報が昨日なら、間違いなくなんらかの痕跡が残っているはずだ。
例えば、戦闘をした跡だったり、人を殺した跡……だったり。
「異変はオーガの情報だけではない」
「というと?」
「森の奥に巣くっていたはずの魔物が、森の中腹に移動してきておる。その影響で、中腹のやつらは入り口付近。と、押し出されるように森の外へ巣を移動させておる」
と、マーアはハンマーを地面に突き立て、一つの推測を話す。
「森の中央にオーガ住み着いた。その結果、中央から弾き出されるように森の外へ移動しているのだろう」
確かに。
「恐怖の対象がいれば、一目散に逃げ出したくなるからな」
俺にも身に覚えがある。だから、マーアの推測は正しいとおもう。
「この森の中央には、隆起した山があるそうだな」
「あぁ。そこを魔物が穴を掘って、種族が変わりながら巣にされてるらしいぞ」
一番最初に動物型の魔物が穴を掘って、その後に来た強い魔物が場所を奪う。さらに強い魔物が……といった具合に、種族を変えながらも、魔物の巣という状態は受け継がれている。
「その世代交代で、次はオーガの番となった。そう考えてもおかしくなさそうだな」
「……行くのか?」
「行くしかあるまい」
地面を突いていたハンマーを背中に担ぎ、彼女は言う。
「なに。遠くから様子を眺め、正確な情報を持ち帰る。それが今回の依頼内容だ。無闇に戦う必要はない」
そうだな。
「遠くから眺めて、見つかったら猛ダッシュで逃げればいいしな」
「……私だけ置いて行かれそうな台詞に聞こえるが…………まぁ、そういうことだな」
「大丈夫だ。全力で逃げてやるから」
「不安しかないのだが」
森の中心部。この森は円形の形で広範囲に広がっているため、これより奥という概念はない。
つまり、中央がこの森の終点になるわけだ。
そして、中央には話に出ていた隆起した山がある。
山は堀抜かれ、人が余裕に入れるだけの大きさが確保されている。
実際に見るのは初めてだが、噂通りの洞穴みたいだ。
「……オーガが居るようには見えないな」
俺とマーアは、洞穴の入り口が見える位置に陣取り、草木で姿を眩ましていた。
「何処かに出掛けているのか、あるいは情報が嘘だったか。いずれにせよ、もう少し様子を見ることにしよう」
「そうしたいのは山々なんだが……」
朝方に出掛けて既に昼を回っている。
あと数時間もすれば、日が傾き、この辺りは暗闇に包まれるはずだ。
例え、今からまっすぐ街に向かったとしても、日は落ちているに違いない。
いくら恐怖耐性がレベル二十になったとはいえ、暗闇の森を歩けるだけの余裕はないはずだ。
レベル十一の頃も、夜の街はそれなりに怖かった。大通りでも、よく見れば小刻みに震えながら歩いたほどだ。
「……そうか。夜はまだ克服できそうに無いようだな」
「わりぃ」
「いや、気にする必要はない。元々は貴様のレベリングついでに受けたようなものだからな」
「マーア……」
俺は知っている。
俺の恐怖耐性のレベリングが「ついで」であって、本来の目的は森の調査だ。
確か、旅費が心許ないとも言っていたはずだ。
完全に足を引っ張っているな。俺。
「さて、そうとなれば早速戻るとしよう」
「ありがとう」
「なに。私も初めて組めたパーティーが貴様でよかったよ。フィル」
と、ソレが姿を現したのは、マーアが立ち上がったのとほぼ同時だった。
「人間の分際で恐怖を振り撒くとは……舐めたものだなっ!」
そんな声が聞こえた。
そう認識したときには、マーアが樹木へと背中から叩き付けられた後だった。
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