恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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魔物の恐怖 再び

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 森の奥。
 昼間の森は、地面まで陽射しが差し込みやすく、鮮やかな緑の苔が水滴を光らせていた。
 そんな一枚の絵画になりそうな風景の中にいる俺は、
「オロオロオロオロ……」
 平原の草花と同じように、俺が汚していた。
「……むしろ、よくここまで歩けたものだな」
 マーアに至っては、呆れを通り越して関心の域まで達しているようだ。
 まぁ俺だって、他人事なら今のマーアと同じ反応をしていただろう。
 たったの十メートル進む度に立ち止まっては、地面へと腹の中身をぶちまけているんだからな。すでに中身はなくなり、今は臭いのキツイ透明な液体だけを吐いている状況だ。
「も、もう無理。これ以上は無理」
 本来なら気絶してもおかしくないのだが、何故か気絶までには至っていない。
 もしかしたら、今の恐怖体制スキルのレベルで行けるギリギリの範囲なのかもな。
 でも、無理。もう辛い。地獄だ。
 地獄は俺の家から徒歩で十数分の場所にあったんだ。
「たく……もう少しでバッドバードの巣の側だ。そこまで行けば、レベリングが出来る。それまで頑張れ」
「もう……オロオロオロオロ…………」
 なにも吐けないが、吐き気が断続的に続いている。マジで辛い。
「おい、フィル!」
「な、なんだよ」
 こっちは吐き気と戦ってるってのに。
「お目当ての魔物だぞ!」
「よっしゃぁ! オロオロオロオロ!」
「吐くなら下を向いておれっ!!」

 ーーボケスキルのレベルが上昇しました。
   レベル:三十五

 森の前で抜いていたはずの剣を、森には行ったとたんに腰に戻した剣を抜いて、バッドバードへと構える。
 恐怖ではなく、衰弱で剣が震えている。重い。マジで重い。
「もう剣を仕舞っておけっ! 危なっかしくて視ておれんっ!!」

 ーーボケスキルのレベルが上昇しました。
   レベル:三十六

 マーアに怒鳴られ、俺は腰に剣を戻す。
「痛ってっ!」
 鞘に戻す際に指を切った。
「もう捨ててしまえっ!!」

 ーーボケスキルのレベルが上昇しました。
   レベル:三十七

 言われて剣を投げ捨てた。
 俺……騎士の家系の生まれなんだがなぁ…………。
「ほらっ! 怪音波の一つでも放ってこいっ!!」
 地面に座り込んでいる俺を無視して、マーアは戦闘を開始した。
 おかしい。
「立っているよりも、座っている方が吐き気が治まっている!」
「どこに違和感を覚えておるんだっ!」

 ーーボケスキルのレベルが上昇しました。
   レベル:三十八

「ほらっ! 立てっ! 撃ってくるぞっ!!」
 巨大ハンマーを片手で振り回しながら、俺の腕を引っ張りあげて立たせる。
「びょ、病人には優しくしろ~」
「病人なら家で寝込んでいろっ!」

 ーーボケスキルのレベルが上昇しました。
   レベル:三十九

「じゃなくてだなっ! ほら、来るぞっ!!」
 マーアの声の直後に、バッドバードが……
「一、二、三、オロオロ、五、六、オロオロ……多くねぇ?」
 十を越えたあたりで数えるのをやめた。
 ってか、一人で戦えるような数じゃねぇぞっ!?
「今更だなっ! おいっ!」
 っと、俺にツッコミを入れながら、飛び出した一匹をハンマーで叩き潰す。
 一匹一匹を確実に叩き潰すその姿は、まさしく歴戦の戦士であり、
「到底聖女には見えない」
「あ゛?」
 めっちゃ睨まれた。

 ーー恐怖耐性のレベルが上昇しました。
   レベル:十二

 マーアの睨みで上げたいスキルのレベルが上がった。
 ……これなら、街中で怒らせれば良かったのでは? そう思える。
「私の睨みでレベルは上がらんぞ?」
 心が読まれたっ!?
「なにを驚愕の表情をしとるんだっ! 怪音波だっ! 怪音波を浴びたからだっ!!」
「な、なるほど」
 やっぱり森に来て良かった。
「オロオロ」
「吐くなっ!!」

 ーーボケスキルのレベルが上昇しました。
   レベル:四十

「も、もう少し、レベルアップが、必要だな」
 あと一つで吐き気はなくなり、二つで震えも治まるだろう。
「ほらっ! もう一匹が放つ準備をしておるぞ!」
「よっしゃぁ! オロオロオロオロ!」
「せめて耐えろっ!!」

 ーーボケスキルのレベルが上昇しました。
   レベル:四十一

 マーアが最後の一匹を叩き潰して、ひとまず戦闘は終了した。
 その結果、俺のスキルカードは以下のようになった。

 剣術スキル:レベル十二
 ツッコミスキル:レベル九十
 恐怖耐性スキル:レベル二十
 調理スキル:レベル八
 ボケスキル:レベル八十三

 獲得称号:猪突猛進、老いる者

 色々とツッコミ所が満載だが、これでツッコミスキルのレベルが上がりそうでツッコミはしないことにした。
 恐怖耐性のスキルが二十になった。そのお陰で、森の中でも自由に動けるようになった。
「これで俺も戦える……!」
「………………」
 兜越しなのに、俺には分かる。

 めっちゃ呆れた瞳で見られていると。

 いや、仕方ねぇじゃん。
 俺の剣術スキルはレベルが八だったわけだし、恐怖の効果で体は強張るし、吐き気で衰弱気味だったし、色々と仕方ねぇじゃん。
「はぁ……戦闘はともかく、動けるようになったなら、私の調査の方を協力してもらうぞ?」
「おう! 任せとけって!」
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