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森の恐怖 再び
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「おはようございます、鎧さん」
「うむ、来たか」
焼き鳥屋の前というか、鎧さんが客として来たその場で決まった話。
俺が鎧さんの受けた依頼を手伝いがてら、俺の恐怖耐性のスキルを成長させる。そんな一石二鳥な策を提案してくれた翌日。
俺は広場のベンチに座っている鎧さんへと声をかける。
一昨日から話をしているためか、今ではそんなに怖く感じない。
ちなみにだが、鎧さんが買い物をしたあとに、親父さんへ突然の休みを申し出たところ、
「あんな威圧感のある客が来ねぇなら……」
という感じで承諾された。そんなに威圧感があるだろうか? 確かに、パッと見は怖そうな鎧だが。
「それより貴様、鎧さん。というのはなんだ?」
「あぁ……見た目から?」
「まったく。失礼極まれないであるな」
と、ベンチから腰を上げた鎧さんは、自分の胸プレートを軽く叩き、
「私にはマーア・サイトという名があるのだ。今度からはマーアと呼ぶがよい」
「なら俺はフィルって呼んでくれ。プリテ家の長男になる」
「うむ」
と、鎧でガチガチの小手を差し出され、俺は少し強めに握手をした。
「ならば森へ行こう!」
「の前にだな……いくつか伝えておくことがある」
完全に一歩踏み出していたマーアを呼び止め、俺は俺についての説明を始める。
「まず、俺は腰に剣を下げているし、剣術スキルもレベル十になろうとしている。だけど、いざ戦闘になると、吐き気に襲われてまともに戦えない」
戦闘では確実に足を引っ張ることになるだろう。
「もっと言えば……森にはゴブリンがいるだろ?」
「うむ」
「これはたぶんだが、ゴブリンの姿を見ただけで吐くかもしれん。もっと言えば気絶することもあり得る」
「……それほどにか」
どこか申し訳なさそうな声で呟かれるが、勘違いはしないでほしい。
「この病気を克服するために! 俺は森に入るんだ。それに、今回はマーアがいる。仲間がいる。それだけでも、結構心強いんだぜ?」
「フィル……あぁ、そうだな」
こういうのは少し照れくさいな。
「まぁ、話の続きだが、俺は森に入ったから、こんな状況になった。その説明は昨日話した通りだ」
「あぁ。剣の先生と森に入り、二手に別れて薬草採取。その結果、魔物に襲われた」
「そうだ。その結果、恐怖を植え付けられて……だから、森に入ってからの俺の行動は、全てなんらかの制約がかかるって思ってくれ」
「分かった」
「すまん……いざとなれば、今、マーアが提案してくれた話を無かったことに」
「ほら、行くぞ」
と、マーアは俺の手を引いて街の外まで引っ張って行った。
平原にて、一度だけ戦闘を試みた。
やっぱり仲間がいるというのは素晴らしい。
「ここは頼んだっ!」
マーアにそれだけを伝えた、俺は草葉の陰で、
「オロオロオロオロ……」
盛大に緑を汚していた。
その合間に植物型の魔物であるマンイーターをマーアが鉄拳制裁。戦闘は何事もなく終了したのであった。
「いや、これは無事と言えるのか?」
「ぶ、無事だ。大丈夫。むしろ腹の中のものが減って、動きやすくなったぐらいだ」
「………………」
俺に背中を向けたとたん、「仲間にするの……間違ったかな?」って呟かないでほしい。地味に傷付くから。
で、お目当ての森の前まで来た。
正直、まだ森に入っていないにも関わらず、俺の足は震えていた。
「……目的のバッドバードは、森の奥に巣を作る習性がある。そして、森の調査をするにも、森の奥へと足を運ぶ必要がある」
と、背負っていた巨大なハンマーのような武器を両手に握りしめ、マーアは続ける。
「戦闘は全て私が受け持つが、奇襲だけはフィルにも対処してもらう必要がある。その対策として、腰に下げている武器を事前に抜いておいてくれ」
そう言われ、俺は剣を抜いて両手で構える。
本来ならば片手で扱える代物だが、小刻みに震えている手では、簡単に取りこぼしてしまう。
「こうして武器を手に持っているだけでも、大抵の敵は警戒をしてくる。また、背後を取られても、即座に武器を振り回せるからな」
「さ、さすがだな。その巨大なハンマーで敵を潰すってことだな」
「……一応言っておくが、これはメイスであり、魔法攻撃力を上昇させる効果がメインだぞ?」
「………………」
どっからどう見てもハンマーだろっ!?
まず、サイズがおかしい。
俺の知っているメイスは、どんなに長くても一メートル程度だ。
だが、マーアの持っている武器は俺の身長と大差がない。となると、百七十センチはあることになる。
そして、その武器の先端。
釘を撃ち抜くのに適しているドラム缶のような円筒形の鉄の塊が付いているんだが?
メイスって、クリスタルとか宝石が加工されたものが付くんじゃないのか?
「今のマーアだと、端から見れば、ハンマーで戦う歴戦の戦士なんだが……」
「私の本職は神官であり、サブはヒーラーだぞ?」
詐欺にも程がある。
ともかく、俺は詐欺まがいな神官と共に、森へと入っていくのであった。
「うむ、来たか」
焼き鳥屋の前というか、鎧さんが客として来たその場で決まった話。
俺が鎧さんの受けた依頼を手伝いがてら、俺の恐怖耐性のスキルを成長させる。そんな一石二鳥な策を提案してくれた翌日。
俺は広場のベンチに座っている鎧さんへと声をかける。
一昨日から話をしているためか、今ではそんなに怖く感じない。
ちなみにだが、鎧さんが買い物をしたあとに、親父さんへ突然の休みを申し出たところ、
「あんな威圧感のある客が来ねぇなら……」
という感じで承諾された。そんなに威圧感があるだろうか? 確かに、パッと見は怖そうな鎧だが。
「それより貴様、鎧さん。というのはなんだ?」
「あぁ……見た目から?」
「まったく。失礼極まれないであるな」
と、ベンチから腰を上げた鎧さんは、自分の胸プレートを軽く叩き、
「私にはマーア・サイトという名があるのだ。今度からはマーアと呼ぶがよい」
「なら俺はフィルって呼んでくれ。プリテ家の長男になる」
「うむ」
と、鎧でガチガチの小手を差し出され、俺は少し強めに握手をした。
「ならば森へ行こう!」
「の前にだな……いくつか伝えておくことがある」
完全に一歩踏み出していたマーアを呼び止め、俺は俺についての説明を始める。
「まず、俺は腰に剣を下げているし、剣術スキルもレベル十になろうとしている。だけど、いざ戦闘になると、吐き気に襲われてまともに戦えない」
戦闘では確実に足を引っ張ることになるだろう。
「もっと言えば……森にはゴブリンがいるだろ?」
「うむ」
「これはたぶんだが、ゴブリンの姿を見ただけで吐くかもしれん。もっと言えば気絶することもあり得る」
「……それほどにか」
どこか申し訳なさそうな声で呟かれるが、勘違いはしないでほしい。
「この病気を克服するために! 俺は森に入るんだ。それに、今回はマーアがいる。仲間がいる。それだけでも、結構心強いんだぜ?」
「フィル……あぁ、そうだな」
こういうのは少し照れくさいな。
「まぁ、話の続きだが、俺は森に入ったから、こんな状況になった。その説明は昨日話した通りだ」
「あぁ。剣の先生と森に入り、二手に別れて薬草採取。その結果、魔物に襲われた」
「そうだ。その結果、恐怖を植え付けられて……だから、森に入ってからの俺の行動は、全てなんらかの制約がかかるって思ってくれ」
「分かった」
「すまん……いざとなれば、今、マーアが提案してくれた話を無かったことに」
「ほら、行くぞ」
と、マーアは俺の手を引いて街の外まで引っ張って行った。
平原にて、一度だけ戦闘を試みた。
やっぱり仲間がいるというのは素晴らしい。
「ここは頼んだっ!」
マーアにそれだけを伝えた、俺は草葉の陰で、
「オロオロオロオロ……」
盛大に緑を汚していた。
その合間に植物型の魔物であるマンイーターをマーアが鉄拳制裁。戦闘は何事もなく終了したのであった。
「いや、これは無事と言えるのか?」
「ぶ、無事だ。大丈夫。むしろ腹の中のものが減って、動きやすくなったぐらいだ」
「………………」
俺に背中を向けたとたん、「仲間にするの……間違ったかな?」って呟かないでほしい。地味に傷付くから。
で、お目当ての森の前まで来た。
正直、まだ森に入っていないにも関わらず、俺の足は震えていた。
「……目的のバッドバードは、森の奥に巣を作る習性がある。そして、森の調査をするにも、森の奥へと足を運ぶ必要がある」
と、背負っていた巨大なハンマーのような武器を両手に握りしめ、マーアは続ける。
「戦闘は全て私が受け持つが、奇襲だけはフィルにも対処してもらう必要がある。その対策として、腰に下げている武器を事前に抜いておいてくれ」
そう言われ、俺は剣を抜いて両手で構える。
本来ならば片手で扱える代物だが、小刻みに震えている手では、簡単に取りこぼしてしまう。
「こうして武器を手に持っているだけでも、大抵の敵は警戒をしてくる。また、背後を取られても、即座に武器を振り回せるからな」
「さ、さすがだな。その巨大なハンマーで敵を潰すってことだな」
「……一応言っておくが、これはメイスであり、魔法攻撃力を上昇させる効果がメインだぞ?」
「………………」
どっからどう見てもハンマーだろっ!?
まず、サイズがおかしい。
俺の知っているメイスは、どんなに長くても一メートル程度だ。
だが、マーアの持っている武器は俺の身長と大差がない。となると、百七十センチはあることになる。
そして、その武器の先端。
釘を撃ち抜くのに適しているドラム缶のような円筒形の鉄の塊が付いているんだが?
メイスって、クリスタルとか宝石が加工されたものが付くんじゃないのか?
「今のマーアだと、端から見れば、ハンマーで戦う歴戦の戦士なんだが……」
「私の本職は神官であり、サブはヒーラーだぞ?」
詐欺にも程がある。
ともかく、俺は詐欺まがいな神官と共に、森へと入っていくのであった。
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