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鎧の恐怖
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百メートルは楽勝過ぎた。
門を潜り抜けた際の吐き気は、あまりにも感動した結果によるものだったらしく、平原での行動は街中と大差が無くなっていた。
ただし、歩いたり走ったりに限る。
というのも、ちょうど引き返そうとした帰り道の途中で魔物と遭遇した。
遭遇した魔物は植物系統の魔物で、名前をマンイーターと呼ぶ。
マンイーターと、大層な名前がついているが、別に人を食い殺すような魔物ではない。
人のように二足歩行をし、ハエなどの小さな虫を食べるのだ。
だから、二足歩行をする食虫植物。で、マンイーターと呼ばれている。
平原にいるこの手の魔物は、かなり小型で、実際、俺の膝小僧よりも背が低かった。
が、
「ううっ!」
いざ魔物との戦闘となると、一気に吐き気が襲ってきた。
長剣を抜いたにも関わらず、片手ではろくに振ることが出来ない。
だからといって、口を押さえている手を解放すれば、ゲロまで解放してしまう。
幸い、マンイーターから襲い掛かって来ることはないが、それでも道をノロノロと横断しているのを待つのも……
いや。ここは当初の目的を優先しよう!
俺はお爺ちゃん、お婆ちゃんが、大通りを横断する様相を思い浮かべながら、マンイーターが通り過ぎるのを待つことにした。
「……お前、何してたんだよ」
門を潜って街に入る際に、門番に呆れられた目線と共にコメントを貰った俺は、
「散歩だが?」
と言い返してやった。
「「………………」」
ふっ。これだから、ツッコミスキルを持ってない兵士は。
「そこは、散歩って、たったの百メートじゃねぇかっ! ってツッコミを入れるところだろ?」
俺が剣術を教えている子供なら、これくらいのツッコミは既にマスターしているというのに。
「ほら、さっさと帰れよ」
シッシッと手を払われてしまった。俺は野良犬か。
ともかく、これで街の外に出ることも可能になった。
魔物との戦闘は全然出来ないが、これで薬草採取くらいなら仕事ができる。マッピングも兼ねて、気分転換として平原に足を運ぶのもいいかもしれない。
と、そんな浮き足だった足取りで帰路に着いていると、
「ま、真っ黒鎧の……!」
既に一ヶ月ほど前から常連と化している黒い鎧の人が、広場のベンチに腰を下ろしていた。
見た感じでは、何故か項垂れているように見えるんだが……何かあったのだろうか。
気になる俺は、ほんの少しだけ勇気を振り絞り、
ベンチの真ん前を通り過ぎることにした。
いやいや、話し掛けるとか無理だからっ! 恐怖で声とか出ねぇからっ! 目の前を歩くだけで精一杯だからっ!
「……おい!」
「ひゃいっ!」
作戦が成功したのか、俺を怒鳴り付けるような声で呼び止めてくる。
「なんで今日は、店を休んだんだ!」
「え……えーっと、協会に用事があったから?」
「教会だと?」
「はい、協会です」
言葉のニュアンスに違和感を覚えながら受け答えをしていると、鎧の人がガバッ! と、ベンチから腰を勢いよく上げる。
断った際の風圧で怯んでしまいそうになるが、さすが恐怖耐性レベル十一。怯むことは全くない。
恐怖耐性のない俺だったら、間違いなく気絶していただろう。……その前に近寄りさえしてないか。
「貴様は教会の信者なのか?」
「信者? ……あぁ! 違う違う。俺が言ってた協会は、ギルドとか道具屋の方だ」
違和感の正体を正してやると、黒い鎧の人は、空気の抜けた風船のように小さくベンチに腰を下ろした。
「そうか……それよりも、今から焼き鳥屋の仕事に行かないのか?」
「いや、今日は一日休みだから、行くことはねぇけど?」
「……それでは買えんではないか」
「えっ?」
「貴様がいなければ、焼き鳥が買えん! そう言っておるのだ!」
「はい?」
どういうことだ?
「別に俺でなくても、親父さんが販売してくれるだろ?」
俺は詳細が気になってきたので、鎧の人の隣に腰を下ろした。
「あの店に別の店員がいるのかっ!?」
「いるに決まってんだろっ!?」
ーーツッコミスキルのレベルが上昇しました。
レベル:八十九
どうでもいいときに、どうでもいいスキルのレベルが上がった。
が、さすがに八十回も聞けば、俺のスルースキルも上昇するってもんだ。
「いや……私が行くと、誰も店にいないから……」
「…………あっ」
なるほど。俺にも身に覚えがあるから、この答えは意外と簡単に導き出せた。
この人が串を買いに来た時に、売り場台に身を隠していた。
これは俺が恐怖耐性を身に付けていても行動に移してしまった。
つまり、一般の人間であれば、居留守を使ってしまうレベルだろう。
そして、その原因は、
「その鎧を脱げば、買えるんじゃないか?」
威圧感が半端ない鎧のせいだと思える。というか、それしか思い当たらねぇ。
「それが出来るなら、始めからそうしている……」
どうやら訳ありのようだ。
前傾姿勢で本格的に凹んでいる鎧さん。
「貴様なら、私の話を聞いてくれそうだな」
そうして、鎧さんの長い長い回想に入るのでした。
門を潜り抜けた際の吐き気は、あまりにも感動した結果によるものだったらしく、平原での行動は街中と大差が無くなっていた。
ただし、歩いたり走ったりに限る。
というのも、ちょうど引き返そうとした帰り道の途中で魔物と遭遇した。
遭遇した魔物は植物系統の魔物で、名前をマンイーターと呼ぶ。
マンイーターと、大層な名前がついているが、別に人を食い殺すような魔物ではない。
人のように二足歩行をし、ハエなどの小さな虫を食べるのだ。
だから、二足歩行をする食虫植物。で、マンイーターと呼ばれている。
平原にいるこの手の魔物は、かなり小型で、実際、俺の膝小僧よりも背が低かった。
が、
「ううっ!」
いざ魔物との戦闘となると、一気に吐き気が襲ってきた。
長剣を抜いたにも関わらず、片手ではろくに振ることが出来ない。
だからといって、口を押さえている手を解放すれば、ゲロまで解放してしまう。
幸い、マンイーターから襲い掛かって来ることはないが、それでも道をノロノロと横断しているのを待つのも……
いや。ここは当初の目的を優先しよう!
俺はお爺ちゃん、お婆ちゃんが、大通りを横断する様相を思い浮かべながら、マンイーターが通り過ぎるのを待つことにした。
「……お前、何してたんだよ」
門を潜って街に入る際に、門番に呆れられた目線と共にコメントを貰った俺は、
「散歩だが?」
と言い返してやった。
「「………………」」
ふっ。これだから、ツッコミスキルを持ってない兵士は。
「そこは、散歩って、たったの百メートじゃねぇかっ! ってツッコミを入れるところだろ?」
俺が剣術を教えている子供なら、これくらいのツッコミは既にマスターしているというのに。
「ほら、さっさと帰れよ」
シッシッと手を払われてしまった。俺は野良犬か。
ともかく、これで街の外に出ることも可能になった。
魔物との戦闘は全然出来ないが、これで薬草採取くらいなら仕事ができる。マッピングも兼ねて、気分転換として平原に足を運ぶのもいいかもしれない。
と、そんな浮き足だった足取りで帰路に着いていると、
「ま、真っ黒鎧の……!」
既に一ヶ月ほど前から常連と化している黒い鎧の人が、広場のベンチに腰を下ろしていた。
見た感じでは、何故か項垂れているように見えるんだが……何かあったのだろうか。
気になる俺は、ほんの少しだけ勇気を振り絞り、
ベンチの真ん前を通り過ぎることにした。
いやいや、話し掛けるとか無理だからっ! 恐怖で声とか出ねぇからっ! 目の前を歩くだけで精一杯だからっ!
「……おい!」
「ひゃいっ!」
作戦が成功したのか、俺を怒鳴り付けるような声で呼び止めてくる。
「なんで今日は、店を休んだんだ!」
「え……えーっと、協会に用事があったから?」
「教会だと?」
「はい、協会です」
言葉のニュアンスに違和感を覚えながら受け答えをしていると、鎧の人がガバッ! と、ベンチから腰を勢いよく上げる。
断った際の風圧で怯んでしまいそうになるが、さすが恐怖耐性レベル十一。怯むことは全くない。
恐怖耐性のない俺だったら、間違いなく気絶していただろう。……その前に近寄りさえしてないか。
「貴様は教会の信者なのか?」
「信者? ……あぁ! 違う違う。俺が言ってた協会は、ギルドとか道具屋の方だ」
違和感の正体を正してやると、黒い鎧の人は、空気の抜けた風船のように小さくベンチに腰を下ろした。
「そうか……それよりも、今から焼き鳥屋の仕事に行かないのか?」
「いや、今日は一日休みだから、行くことはねぇけど?」
「……それでは買えんではないか」
「えっ?」
「貴様がいなければ、焼き鳥が買えん! そう言っておるのだ!」
「はい?」
どういうことだ?
「別に俺でなくても、親父さんが販売してくれるだろ?」
俺は詳細が気になってきたので、鎧の人の隣に腰を下ろした。
「あの店に別の店員がいるのかっ!?」
「いるに決まってんだろっ!?」
ーーツッコミスキルのレベルが上昇しました。
レベル:八十九
どうでもいいときに、どうでもいいスキルのレベルが上がった。
が、さすがに八十回も聞けば、俺のスルースキルも上昇するってもんだ。
「いや……私が行くと、誰も店にいないから……」
「…………あっ」
なるほど。俺にも身に覚えがあるから、この答えは意外と簡単に導き出せた。
この人が串を買いに来た時に、売り場台に身を隠していた。
これは俺が恐怖耐性を身に付けていても行動に移してしまった。
つまり、一般の人間であれば、居留守を使ってしまうレベルだろう。
そして、その原因は、
「その鎧を脱げば、買えるんじゃないか?」
威圧感が半端ない鎧のせいだと思える。というか、それしか思い当たらねぇ。
「それが出来るなら、始めからそうしている……」
どうやら訳ありのようだ。
前傾姿勢で本格的に凹んでいる鎧さん。
「貴様なら、私の話を聞いてくれそうだな」
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