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スキルの恐怖

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「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
 にこやかな女の人に声をかけられ、自分でも大袈裟だと思えるほど、後ろに飛び退いてしまう。
「どうかされましたか?」
「あ、いや……す、スキルの付与をお願いします」
「かしこまりました。ではこちらへ」
 女の人は特に気にせず、奥のカウンターへ案内される。

 案内されたカウンター。その奥には、壁一面にコルクボードが設置されており、スキルの名称と効果が綴られた紙が張り付けらていた。
「お目当てのスキルはございますか? もしスキルの名前が分からないようでしたら、どのような効果のものかを教えていただければ、私が探して参りますので」
「あ、あの……きょ、恐怖耐性をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 と、女の人は軽く会釈をして奥へと引っ込んでいく。たぶん、注文したスキルを探しに行ったのだろう。
 暇潰しがてらに、周りを見渡してみる。
 協会という施設だけど、神を信仰する教会の役割も兼ねているんだろう。今俺がいるカウンターとは反対方向に、立派な石膏せっこうが鎮座している。
 その手前には、長いベンチが左右に三列ほど設置されており、人がまばらに座っている。
 その教会から視線を右側に持っていくと、今度は剣や杖、斧などの武器を装備した人達が見えてくる。それも結構な人数だ。
 彼らは冒険者という奴だろう。
 協会で仕事を斡旋してもらい、仕事が完遂すれば報酬が貰える。その報酬で生活のやりくりをしていく職業の総称が冒険者だ。
 俺の剣の先生だった人も、普段は冒険者として生活していたはず。
 今は何処で何をしているのか。俺は知らない。
 冒険者達の賑わっている場所からさらに視線を右方向に移動させていくと、道具やスキルの販売をしているカウンター。つまり、俺の立っている場所に戻ってくることになる。
 協会は、教会とギルドと販売店の三つで成り立っている施設と言えるだろう。
「お待たせいたしました」
 と、周りを眺めている俺の背後から声をかけられる。
 それに驚いては、またもやビクビクと怯えてしまった。
「なんだあいつ?」
 そんなヒソヒソ声まで聞こえてくる始末だ。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……です」
「そう……ですか」
 俺はカウンターに置かれた一枚のカードを手に取り、女の人に訪ねる。
「こ、これは?」
「はい。順番に説明させていただきますね」
「お、お願い、します」

 女の人の説明は、簡単に言うと冒険者の登録の説明だった。
 冒険者になるつもりはないけど、登録をしなければ施設の利用が出ないとのこと。
 さらにスキルを覚えるためにも、魔法道具の一つであるスキルカードを所持する必要があるらしい。
 このスキルカードというのは、所持者の名前を血文字で記入することによって所持者の生体情報が数値化されるらしい。
 そして、覚えたいスキルのポーションを使うことにより、スキルがカードに反映される。
 カードは所有者の生体情報を写したものだから、カードが変更される事によって、本人にもその影響を与えるとか。
「ものは試しですから、まずは名前の記入をお願いします」
「は、はい……」
 血文字である必要から、小さなナイフとカードを差し出された分けなんだが……

 正直、怖い。
 ナイフで自分の指を切る必要がある。それが怖い。
「あ、あのぉ~」
「ご、ごめんなさいっ!」
「い、いえ。もし、怖いようでしたら、私が代わりに行いましょうか?」
「だ、代筆って事ですか?」
「いえ。私の血を使い、お客様が指で血文字を書く。ということでございます」
「あぁ……はぁ……」
「お客様のように、血が苦手な方に対する処置でございますので。ただ、お客様のお名前だけは、ご自身で書いて貰う必要がございます。その点だけご了承をお願いします」
 と、ペコリと頭を下げてくる。
「そ、それで、お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 さらに彼女は頭を下げて、再び奥へと引っ込んでいった。

「あいつ、あれで冒険者になるつもりか?」
「とんだ弱腰野郎じゃねぇかよ」
「あんなんでやっていけるのかしら?」

 周りの視線や声がうるさい。
 けれど、それを咎められるほどの勇気は、残念ながらない。
 今に見てろよ。この病気が治ったら、眼にものを見せてやる。
 と、心の中で強がるが……本音を言えば、まともな生活が送れるかどうかも不安に思えてくる。

「何度もお待たせしてしまい、申し訳ありません」
「だ、大丈夫です」
 さっさとスキルを覚えて、家に帰ろう。
 僕はスキルカードを作成し、続けざまに恐怖耐性のスキルを習得した。
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