恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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魔物の恐怖

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 いったいどれくらい歩いたのか。
 恐怖心を軽減させるために口ずさんでいた歌も、疲労で止めてしまった。
「はぁ、はぁ、……くそっ」
 腹も空いたし、なにより帰れるかどうかが不安で堪らない。
 だからと言って、こんな場所で野宿とかは無理だ。せめて松明でも使えればいいんだけどよぉ。
 こういうときに魔法が使えればなぁ。そんなことを考えてしまう。
 ただ、俺には魔法の適正があるかどうかが分からない。
 これは一般的な事で、協会の審査を受けるのに年齢制限があるからだ。確か、十五歳だったはず。
 騎士の家系である俺も、十五になれば審査をしてくれるはずだ。
 実際、俺の爺さんも、魔法剣士みたいな戦い方で名を馳せたとか。
 なんで十五からなのかは忘れたが、ともかく、今は初級魔法でもなんでも良いから灯りが欲しい。そんなことを考えてしまう。
 疲れで注意力が散漫としていたんだろう。

 俺の背後に魔物が迫っていた事に気付いたのは、背中から突き飛ばされた後のことだった。

「うわっ!?」
 突き飛ばされた衝撃で腕に抱えていた薬草を地面に散らかす。
 慌てて突き飛ばされた方を向けば、
「なっ!?」
 俺と同じくらいの背丈。キツイ腐乱臭に黄色く光る瞳。
 剣の先生に聞かされた魔物の一種。
「ゴブリンっ!」
 斧のようなものを振り上げられ、俺は正気に戻る。
 振り下ろされる前に上半身を起こし、腰に下げていた短剣を抜く。
 振り下ろされた斧を、短剣で剃らして刃を地面へと誘導する。
 ドザっ! っと、体に当たっていれば切断されていたであろう鈍い音を響かせる。
 まずい。凄くまずい。
 この暗闇の中で、魔物相手の初の実践。昼間だったとしても緊張で動きが鈍るって聞いた。
 それが一二メートル先くらいしか見えない暗闇の中。しかも相手は洞窟や地下を住みかとするゴブリン。
 一対一なら勝てるとか、先生は言っていたが、今の状態なら勝ち目は殆んどない。
「くそっ!」
 俺は背中から襲われないよう樹木に背中を預ける。
 これで左右と前方に集中すればいい。
 最初のタックルで大した怪我をしなくて良かった。していれば、ただでさえ不利な状況が、命を諦める状況になっていた。
「来やがれっ! 魔物野郎っ!!」
 大声を出して相手を威嚇する。これで逃げてくれれば、万事解決。
 武器を持って襲ってきたとしても、緊張がいくらか和らいで動きやすくなる。

 と思っていたんだが……
「……囲まれるとは思ってなかったなぁ」
 俺を逃がさないようにか、半円を描くように周囲を囲まれた。
 ざっと確認できるだけでも、黄色い目玉が三十くらいはある。単純な計算で十五体。確認できてない奴もいるとすれば、もう少しはいるだろなぁ。
「こんちくしょー! 来るなら一匹ずつ来やがれよっ!!」
 そんな文句を魔物相手に垂れながらも、俺は短剣を両手で力一杯握る。
 そんな俺の様子が滑稽に思えたんだろう。

 ゴブリンらが、ケタケタと笑い声を上げ始める。

「な、なにがっ! なにが可笑しいんだっ!?」
 俺が吠えたのと殆んど同時に一匹が飛び出してくる。
「うわっ!?」
 突き出された剣を必死に弾く。
 そして反撃に出ようとする。が、飛び出した一匹は、すぐに群れの一部に同化する。
「な、なんだよっ!? まともに戦う気がねぇのかよっ!?」
 そんな俺の怒号に、ゴブリン達はケタケタ笑うだけ。
 なんだよっ!
「なんだって言うんだよっ!!」
 俺は自分で建てた作戦をかなぐり捨て、ゴブリンの群れに突っ込んでいった。

 その後の結果は簡単に想像が付く。

 群れに武器を奪われたあげく、抵抗できない程度に痛め付けられた俺は、群れの住みかに連れていかれた。
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