恐怖耐性を上げ過ぎると、恐怖の対象になるようです

シバトヨ

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森の恐怖

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 住んでいる家から歩いて十数分。
 その森は比較的太陽の光が差し込みやすく、昼間ならば平原と対して変わらないくらいの明るさを保っている。
 そんな太陽の光を全身で浴びているおかげか、この辺では一位二位を争うほどに、自然が豊かな場所でもある。
 『初心の森』なんて呼ばれているが、規模的には林と呼んでも差し支えがないかもしれない。

 ……というのは明るい昼間の話だ。

 現在は、夕陽が沈んでからかなり時間が経っている。
 昼間と異なり、夜になると月明かりすら通さない程に生い茂ってくる。
 これは夜行性の植物が巨大な花を開かせるためだ。なんて話を聞いたことがある。背の高い木々を支えに、空に向かって蔦を伸ばすらしい。
 それはともかく。昼間に出発し、森の入り口付近で薬草採取をして帰れるはずだったのだが、

「完全に迷子じゃねぇかっ!?」

 なんで家の近くの森で迷子になっているのか。剣の先生はどうしたのか。などなど、色々な疑問があるが、とりわけ、この二つは簡単に答えられる。
 まず俺は、基本的に街の外に出たことがない。
 この薬草採取の依頼だって、あの剣の先生が持ってきたプライベートな仕事だ。俺には関係がない。
 それでも手伝っているのは、
「あの森の動物や魔物は、初心者にうってつけのレベルだ。今のお前なら、一対一なら難なくやれるだろう」
 という俺の評価がくだされたからだ。
 だから、気分よく森まで歩いてきたし、先生に言われて二人分の昼飯まで買った。
「……なんで二人分? 自分の分は、自分で買えよっ! 大人だろっ? 甲斐性なしかっ!」
 暗闇に俺の声だけが響いていく。
 本当に真っ暗だ。手の届く距離くらいしか、まともに見ることができない。
 こんな森の中で家に帰れるのだろうか。ものすごく不安だ。
 帰れるかはともかく。剣の指導以外はからっきしダメな先生は何処にいるのか。
 迷子になるなら、二手に別れての薬草採取なんて提案を呑むんじゃなかった。
 二手に別れれば、それだけ仕事が早く終わる。そんな考えの下の提案だったんだろうが、機嫌の良かった俺は、特に疑うことなく首を縦に振っていた。
 あんな先生でも、一応は先生だ。今頃、俺を探しているかもしれない。
「いやいや……もしかしたら、仕事の報酬をギルドから受け取って、酒場にでも行ってるかもしれない……」
 あの男なら……やりかねない。迷子になってるなんて、毛にも思わなねぇかも。
「………………」
 帰ったら奇襲してやろう。
 居酒屋への奇襲を成功させるにも、まずは森から街に帰らなければ。
「……こっちか?」
 せめて街の明かりでも見えれば、そっちに歩けるんだがなぁ。
 薬草は森の奥の方に群生しているらしく、その群生地より少し手前のところで二手に別れている。
 別れた場所からどれくらい、どっちの方角に進んだのか。それは全く分からねぇ。
 明かりも殆んどない。自分の存在だけがポツンっと残された気分だ。
 そんな不安を拭うためにも、俺は鼻唄を歌いながら歩くことにした。

 その行動が、俺の人生を左右する大きな事件に繋がるとも知らずに。
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