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最終回 強面元騎士のお嫁様になります
しおりを挟む私とジェラルド様がソファに腰掛けると、殿下が呼び鈴を鳴らした。すると心得ていたとばかりにメイドが入って来て、手際良く紅茶を入れるとしずしずと退室して行った。
「毒など入れておらぬ故、君たちも遠慮せず飲みたまえ」と殿下は言いおいて、それを証明するように、まずはご自身が優雅にカップを口に運び、一口飲んでみせた。
けれど私はこれからの殿下のお話を聞くまでは安心などできない。テオドロス殿下は大変有能であり、この国の王からの信頼も厚いと私は情報を得ていた。だから彼の一存で私たちの処遇が左右されると思うと紅茶など咽を通らない。自分はもともと忍であり、いつでも命を捨てる覚悟は叩き込まれている。だけどお慕いするジェラルド様まで巻き込んでしまうようならなんとかしなければならない。ジェラルド様もどんな心境なのかはわからないけど、飲み物には口をつけないまま緊張した面持ちで座っていた。
「......アカネがジェラルドの部屋に現れて、第一調査報告書が上がって来た時から、私はそなたに関心を持っていたのだよ。しかし、次々と上がって来る調査報告書には進展がなく如何したものかと考えていた時、半年前の事件に至ったのだ。アカネが影だったとは驚いたが、それ以上にそなたの情報収集能力が高いことに驚愕した。あんなに早く、黒幕の証拠を上げてくるとはな」
殿下がニヤニヤと私を見てくるので、私は気恥ずかしくて口籠もりながら答えた。
「それは......ジェラルド様のお命がかかっていましたから......私も必死で動いたんです。結構危ない橋も渡りました。いつもの働きなら、あそこまで早くはできません」
「無謀だな。そんなことをして、アカネがどうにかなっていたら、ジェラルドを助けることもできなかっただろうに」
殿下の言葉を、ジェラルド様はただ難しい表情で黙って聞いている。私も殿下の言う通りなので何も言い返せず黙っていた。
だけど私が騎士団で保護という名の軟禁をされた時から、王家には関心を持たれていたんだな。ただの身元不明の女ひとりにどうして? ......私はそのことが不思議だった。
「アカネは調査官に対して、こことは全く違う文化の国にいたと言っていただろう。その辺りの事を、私はそなたに詳しく聞きたかったのだよ。そなたが王家と国に対してやましいことがないのなら、そなたがなぜジェラルドの部屋に現れたのか、包み隠さず私に話して聞かせて欲しい。もちろん得た情報は、王家の秘匿情報として慎重に取り扱うと約束する」
影であることがバレた今、私は殿下にここに来た経緯を全て話す事にした。
前の世界で悪の組織に依頼され、巫女姫様を暗殺する命を受けたが遂行する気になれず、抜け忍となったこと。そのため仲間の忍に追い詰められて、川に身を投げた時、巫女姫様の声が聞こえたこと。そして、気がついたらジェラルド様の部屋のお風呂の中だったこと……。
テオドロス殿下は私の話を静かに聞いていたけど、聞き終わると嘆息して呟いた。
「やはり、そなたは異世界の乙女だったのだな」
「異世界の乙女?」
ジェラルド様が不思議そうに聞き返した。
テオドロス殿下はそのことについて説明してくれた。
王と並ぶ権威を持つ大神官が、一年ほど前にご神託を受けたそうだ。
(異世界より清廉なる乙女が送られる。この乙女、世の災いから国と民を救い給う。乙女を発見次第、国の威信にかけて守れ。乙女は丁重に扱い望む者を与え、この国で安心して暮らしていただくようにーー)
「......という訳だ。これでアカネが異世界の乙女だと言うことがハッキリしたな。そなたのおかげで私の暗殺の企ても未然に防いでもらった。第二王子はハッキリ言って王の資質などない男だから、私が殺されていれば世の災いとなったであろう。異世界の乙女よ、改めて感謝を表明する」
「はあ......」
私はてっきりジェラルド様を人質にして、私を国に繋ぎ、奴隷のように使われるのかと思っていた。それをジェラルド様が身代わりになると言って庇ってくれたことも飛び上がるほど嬉しかったし、殿下の意外な話の展開にも、私は呆気に取られるばかりだ。
そう言う話なら、ジェラルド様に不利益は行かないってことだよね? 私は驚いた顔で私を見つめるジェラルド様を見つめ返しながら、ほっと安堵していた。
「......そういう事でアカネ、神の御信託によりそなたの望む者を与えるぞ。相手に有無は言わせないから、遠慮せず指名したまえ」
私は思わぬ殿下の発言に、パアッと瞳を輝かせた。私が欲しい人などとっくに決まっている。隣に座るジェラルド様に向かって私は尋ねた。
「ジェラルド様......私、あなた様を望んでしまっても、良いでしょうか......?」
恐る恐る私がジェラルド様を見やると、ジェラルド様はご自身の顔を両手で覆って、
「神から贈られし乙女に所望されるなど、大変光栄でございます」と答えた。
大きな手に隠されて、そのお顔は見えないけれど、耳は真っ赤。ジェラルド様ったら、なんてお可愛いらしいのかしら。
テオドロス殿下はジェラルド様のそんな様子を見て、にっこりと微笑んで言った。
「金獅子、良かったな。これで私も、そなたに庇ってもらった恩返しが出来たし、神のご意思に添えることができる。後はふたりで、仲睦まじくやってくれ」
殿下はそう言うと、今日は夜も更けた事だし、客室に泊まっていけと言われた。これからのことは明日、また話し合おうと言うことで。
......テオドロス殿下はやはり有能な方だった。なぜなら用意された客室は一つだけで、私とジェラルド様は同室だったからだ。
私は王家に認められたのだからと、動揺して恥じらうジェラルド様を強引に部屋に引っ張り込んだのは言うまでもない。そして私は改めてジェラルド様に私の主になって欲しいとお願いし、忠誠の証に純潔を受け取ってもらった。こうして私は、子供の時からの願いも無事、果たされたのだった。
私は忍とバレてしまったので、正確にはもう忍ではありませんが、私の主に危機が迫るようなことあらば、この命を投げ打ってでもお守りする所存です。
「お前たち! 気合いが足らんぞ! もっと大きな声を出せ!」
今日もジェラルド様は、新米騎士たちをビシビシと扱いておいでです。
「姉御~! 助けて下さいよ~! ジェラルド先生が姉御に良いとこ見せようと張り切ってしまって、オレらのシゴキがハンパないっすよ~!」
ルカがこっそり抜け出して、私に助けを求めて来た。私はあの後、ジェラルド様に頼んで、ルカを騎士見習いにしてもらったのだ。ジェラルド様は快く私の願いを聞いてくれたのだけど、ルカが山で、私とふたりきりで過ごしていたのを知って、ルカには少々、他の騎士見習いより態度が厳しいようなのです。だけど私はそれで良いと思ってる。ルカには厳しくしただけ伸びる素質があるので、そのうちテオドロス殿下にお仕えできる立派な騎士になるだろう。
私は殿下にお礼を込めて、私の忍の技術もいくらかルカに伝授している。私とジェラルド様の、静かに暮らしたいと言う願いを聞き届けてくれた殿下にできることは、私たちがこれからの若者を立派な騎士を育て上げることだと話し合ってのことだ。ルカにとっても国の最重要人物を守る騎士になれるのは生きがいになることだろう。
「ジェラルド様、お疲れ様です。蜂蜜入りの果実水を持って参りました。少し休憩を入れてくださいませ」
私が声をかけると、荒々しく獰猛な熊さんが、一変してふにゃりと眉を下げた。そして手懐けられたペットのようにいそいそとこちらに寄ってくる。思わず笑みが漏れるほど、ジェラルド様はかっこよくて可愛らしいお方です。
そんな幸せな日々を過ごす私ですが、もう時期彼に私の本当の名前ーー真名を明かす日がやってまいります。
~終わり~
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もふもふうさぎさん、コメントありがとうございます!
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テンポよく楽しいお話でした!
tilkaさん、コメントありがとうございます!
楽しんでいただけて嬉しいです!
最後まで読んで下さってありがとうございました!
テンポよく楽しく読ませていただきました。
楽しかったです〜
国を支える最強夫婦。
守護神みたいでカッコいいですねぇw
その後談で、ラブラブしているのも読んでみたいです。
アカネに甘えられて、恥じらうジェラルド様が見たいですwww
柴田沙夢さん、コメントありがとうございます!
恥じらうジェラルド様の良さ、わかっていただけて嬉しいです!
最後の初めてを、R18で書きたかったのですが、能力の限界でありました!笑