女忍茜、西洋風異世界へ行く〜強面元騎士のお嫁様になります

花野はる

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琥珀の首飾りと氷の剣舞 〜ジェラルド視点

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 公開訓練の当日、俺は休日扱いなので私服である。ただのシンプルなシャツとズボン姿だ。

 それなのに騎士団の制服ではない俺を、アカネは新鮮だと言い熱い眼差しで見つめてくる。褒められ慣れてない俺は、適当な返事でそれを濁してしまった。本当なら誘った男の方が、女のお洒落を一番に褒めてやるべきだったと後で思ったが、すでにそのタイミングを逃してしまった。

 そんなアカネの方はというと、騎士団で支給されたいつものシンプルなワンピース姿だが、髪を大人っぽく結い上げ、変わった髪飾りをつけている。そして小さく愛らしい唇には紅のようなものが塗られており、それだけで彼女の色気が格段に増して見えた。......化粧品や装飾品の支給などなかったはずだが、担当騎士の誰かがアカネに懸想して贈りでもしたのだろうか? 

 気になった俺は、つい、アカネに尋ねていた。

「その髪飾りはどうしたんだ?」

「これですか。......いつも来てくださる騎士様がくださったのですわ」

 ーーえっ。

 予想して尋ねたというのに、俺はアカネの答えに激しく動揺した。他の男からもらった物を、俺の前で身に着けていると思うと、感じたことのないどす黒い感情が俺の中に渦巻いた。そんな俺の気も知らず、アカネは明るく笑って俺に言う。

「ジェラルド様に、少しでもきれいに見られたくって、つい、受け取ってしまいましたの。......いけませんでしたか?」

 アカネは伺うように俺を見上げた。俺は自分の嫉妬心を押し隠し、保護者のような口ぶりで彼女に説教した。

「いや……。だが、男から無闇に受けとっては、相手に勘違いされてしまうぞ」

「そうですか? でしたら今後は、ジェラルド様以外からは受け取らないことにしますね」

 にこにこしながらアカネは俺に言葉を返して来た。

 ......俺はすっかり勘違いしてしまいそうなんだが。真実に目覚めた時、傷つくからモテない男に気がある素振りはやめて欲しい……。


 俺は咳払いをして、話題を変えることにした。

「そろそろセレモニーが始まる。......行くとしよう」

「はい。ジェラルド様、本日はよろしくお願いしますね 」

 アカネはスルリと俺の腕に自分の腕を絡ませてきてそう言った。男慣れしているのか、それとも童のように無邪気なのか、よくわからない女だ。



 王国騎士団の公開訓練は半年に一度あり、結構な人で賑わう。様々な露天商が並び、ちょっとした祭りになる。

 俺たちは露店商を眺めながらセレモニー会場へと進んでいる。するとアカネが一点を見つめているのに俺は気づいた。

「何か気になるものがあるのか?」

 俺が聞くと、アカネがひとつの商品を指差した。

「これ、素敵…… 」

 見ると、ゴールドの土台に琥珀の石が付いた首飾りだった。葡萄のようなデザインだ。値段はたいしたことない。

「悪くはないが、若い娘にはちと地味じゃないか?」

 アカネが欲しいものの一つくらい買ってやってもいいが、若い娘には少し落ち着きすぎている色味なので、俺はそのように言ったのだが。

「でも、これはジェラルド様の髪と瞳と同じ色なんですもの......私には似合わないでしょうか?」

 そんな風に言われて、似合わないと言えるはずもなく。俺は顔が熱くなるのを誤魔化すように早口でアカネに言った。

「......アカネは若そうだが、大人びたところもあるから案外似合うかもしれないな。俺で良ければ、買ってやろうか?」

「いいんですか?!」

 俺の言葉に、アカネはパアーッと瞳を輝かせた。

 俺は商人に金を渡し、受け取った商品をアカネに手渡そうとした。けれどアカネは着けて欲しいと俺に背を向けてくる。うっ......結い上げた髪の後毛が......。うなじが色っぽいなぁ……。俺、今夜また夢に悩まされそうだ......。休みを取った本来の目的の「発散」どころじゃなくなりそうなんだがどうしてくれるんだ......。

「嬉しい……。こうして身につけていると、ずっとジェラルド様と一緒にいられるみたい……。ジェラルド様、どうもありがとうございます」

 俺の邪な煩悩も知らず、アカネは首飾りを大切そうに握りしめて、幸せそうに微笑んだ。

 俺がまた、アカネの笑顔に見惚れていると、背後から黄色い声が響いた。

「キャーッ! アーロン様の剣舞が始まるわよ! 早く行きましょうよ」

「アーロン様ぁ~!」

「キャーどいてどいてっ、そこは私の場所よー!!」

 ドドドド……と若い娘たちが束になって走っていく。砂煙りが上がりそうな勢いだ。


「......アカネも見るといい。セレモニーでアーロンが剣舞を披露するんだ。ヤツの剣舞はかっこいいぞ」

 俺はアカネを誘導しながらそう言った。

 ーー銀の長髪に宵闇の瞳。氷のような太刀筋のアーロンの剣舞は非常に美しい。

 俺が団長をしていた頃、ヤツは副団長だった。だが、俺があいつに勝てたのは、戦闘に特化した剣や闘技だけで、ヤツは不器用な俺と違い、全てが完璧なできた男だ。今、団長となってより輝いて見える。

 ......一方で俺はどうだ。

 唯一化け物並の強さを誇った剣や闘技すらもこの足で地に落ちた。見た目は凶悪な顔に熊のような厳つい巨体。今の俺たちは、天と地ほども違ってしまった……。

 そんな事を遠い目で考えていたら、アカネが俺に聞いてきた。

「ジェラルド様が団長様の時は、ジェラルド様がセレモニーで剣舞をやっていたのですか?」

「ああ。あの儀式は一応、団長の仕事だからな。もっとも俺のは、剣舞なんてきれいなものじゃなかったけどな」

 俺のは鬼が降りてきて、皆を恐らせ黙らせるような舞だった。自嘲気味に俺がそう言うと、アカネはクスッと笑って瞳を閉じた。俺の舞を、想像しているのだろうか......。

「見てみたかったです。きっと雄々しくて、力強い舞いだったのでしょうね......」

 ......当時の俺ならもう少し、アカネに対しても自信が持てたのだろうか。

 アーロンの美しい剣舞を見ながら、俺はそんなことを考えるのだったーー。



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