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保護室で一時預かりとした 〜ジェラルド視点
しおりを挟む女がキッチンに入って来た。
どうやら被るだけのワンピースは一人で着られたようだ。
女にテーブルの前に座るように促すと、まだアーロンを警戒しているのか、俺側の向かいの隅っこの方に座った。
アーロンはそれを特に気にした様子もなく、聞き取り調査を始めた。俺はその隣で、黙って女の様子を観察した。
「あなたのお名前は?」
「茜」
「見たところ、異国人のようですね。どこから来たのですか?」
「日本」
「日本? ......聞いたことがない国ですね。まだよく知られていない、大陸の奥地にある民族でしょうか」
「知らない」
「......なぜ、ジェラルド様の風呂場にいたのです?」
「分からない」
「君は何者か?」
「分からない」
アカネと名乗った女は終始無表情で、話し方も俺と会話した時とは違い、抑揚のない短い言葉でしか答えない。流石のアーロンもお手上げと感じたのか、俺の方へヘルプの視線を寄越して来た。仕方なく、俺は少し顔を凄んで見せて、女を脅すように低い声で話しかけた。
「アカネとやら。ちゃんと答えろ。でなければ、お前は国家機密を知る俺を籠絡して情報を盗みにきたスパイだと思われても仕方ないんだぞ」
俺の顔はただでさえ怖いので、普通の女ならアカネのように会話を交わすこともできない。だがアカネは俺を怖がる様子もないから、怖い顔をして見せたのだが、なぜかアカネはそんな俺を見て頬を染めた。普通の女なら失神して倒れるであろうこの顔に、その反応はなんだと俺は困惑した。
「ごめんなさい......。私はすぱい? ではありません。私は山で暮らしていました。川で溺れて、気がついたらじぇらるど様? のところへいました。何者かと聞かれても、私は私、としか答える術がありません......」
モテ男のアーロンには心を開かないのに、俺が言うと素直に答えるアカネが、俺は内心可愛いと思ってしまった。だが、こういう時に私情を挟むのは厳禁だ。俺はアーロンに向かって言った。
「保護室で、一時預かりにするか」
アーロンも頷いて、俺の考えに賛同した。
「そうですね。この娘がスパイにはとても見えませんが、不審な点が多いですし、このまま世間に出してもまともに暮らせそうにないですしね。保護を前提に、さらに調査をして、国に娘への対応を決めてもらうしかありませんね」
そしてアーロンは、自分は警戒されているから、俺に保護室への案内を頼みますと言って、仕事に戻った。
保護室は、独身騎士たちの寮内にある。
保護室には女が入る場合が多いので、騎士たちは一階、保護室は二階と別れており、見回りの騎士だけが鍵を使って入れるようになっている。
「アカネ、国からお前の処遇が決まるまで、この保護室で暮らすんだ。いいな?」
俺がアカネに言い聞かせるように言うと、アカネは俺に質問を返して来た。
「私は部屋から出てはいけないのですか?」
「担当の騎士が付いている時は敷地内のみ出ても構わない。散歩くらいはさせてもらえる」
「担当は誰ですか?」
「日替わりだ。シフトを組まれているからな」
「......ジェラルド様? は来てくれますか?」
「俺は騎士ではないからシフトに組まれていない」
俺がそういうと、アカネはあからさまにがっかりした表情をした。
「……食事は朝夕の2回騎士がきちんと届けてくれる。風呂も週に2回だ。わかったな?」
俺は何となく後ろ髪を引かれたが、俯いたままのアカネを保護室に残し、鍵を閉めてその場を後にした。
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