上 下
3 / 24

熊さんが褌を貸してくれました。

しおりを挟む

 私はお風呂で身体を洗い、ゆっくりお湯に浸かって外に出ようとしました。

 あら? この扉、引き戸じゃないのね。どうやって開けるのかしら?

 私が扉をガタガタと動かしていると、反対側から誰かが開けてくれた。

 あ、さっきの熊さんだわ。

 目付きの悪い、熊のような殿方は、腰にフワフワ生地の分厚い褌を巻いて立っていた。

 ーーここは日本じゃないみたいね。お風呂の材質も全然違うし、褌もお尻まで覆う立派な布地でできてるもの。......でも、こんな下着では、袴が履きにくいのでは? ってことは、この熊さんは、きっと侍なのね。侍なら普段は着物だから、こういう褌なんでしょう......。色々と考えを巡らした後、私はお礼を言わなければと思い至った。

「ご親切にありがとうございます。扉の開け方が分からなくて」

 私は熊の殿方にニコリと笑ってお礼を言った。だけど......。

「困ったわ。拭くための手拭いも、着物もないんだった。……あの、お侍様? 大変心苦しいのですけれど、何か貸していただけませんか?」

 私がそう話しかけると、顔を赤くした熊の殿方が、プルプル震えながら腰に巻いた褌と同じ布を無言で差し出してきた。

 ......やだ、褌で拭けと言うのかしら? でも、貸してくれただけ、感謝しないと。贅沢はダメよね。

「ありがとうございます。これは後ほど洗ってお返しいたしますね」

 私はまた、ニコリと愛想してお礼を言った。

 熊さんはその後、また無言で白い着物を私に手渡してきて、脱衣場からのそのそ出て行きました。

 ーー無口な方。熊みたいだから、それも似合っているわね。

 私はふふっと笑って、借りた褌で身体を拭き始めた。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

個別ルート配信前にサ終した乙女ゲームの推しと、転生した私

猫屋ちゃき
恋愛
ある日主人公は、自分が前世で好きだったスマホで遊べる乙女ゲーム「マジカルラブアカデミー」通称「マジラカ」の世界に転生していることに気づく。 そして、推しが生きていることに感激する。 主人公の推しは、攻略キャラのひとりでありながら、そのルート配信前に運営のサービスが終了してしまったという不遇キャラ。 おまけに、他の攻略キャラルートだと必ず闇落ちしてヒロインたちに討たれるという悲しき運命を背負っている。 なぜ自分がこの世界に生まれ変わったのかはわからないが、どうせなら自分の手で推しを幸せにしようと決意する。 だが、幸せまでの道のりは、一筋縄ではいかなくて……

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...