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斜め上のキミに戸惑っています。
しおりを挟む「......おい。ちょっと校舎裏まで来い」
私は彼に呼び出された時点で、人生が終了したと思った。
彼は田村耕次、高校3年同クラの男。
四角い迫力ある顔面に三白眼の強面。
身体は柔道でもしているのかと言うくらい大きな体格をしており、手足は男性ホルモン過多の毛むくじゃら。
それだけで十分私には恐ろしい存在なのに、その髪は金髪に染められている。
私、不良って嫌いなのよね。だって怖いもの。
私は青ざめ、震えながら田村耕次について行く。
(私、彼を怒らせるようなこと、何かしたかしら)
田村耕次は校舎裏まで来ると、私の方に向き直った。
そして後ろ頭を掻きながら言う。
「......佐倉美苗。僕と付き合ってくれないか」
私は一瞬、ビクリと体を震わせた。
いったい何処へ付き合わされるのか、危険な場所やイケナイ場所をたくさん思い浮かべた。
「ど、何処へ......付き合えばいいんですか......?」
私が青ざめた顔で尋ねると、彼は顎に手を当て考えている。
「何処へ......? そう答えが返って来るとは思っていなかったな。......そうだな、僕は植物園とか庭園とか見るのが好きなんだが、佐倉が行きたい所へ連れて行くつもりだ」
私は彼と同じクラスだと言うのに、それまで会話をしたことがなかった。
(何? さっきから「僕」って。全然似合わない一人称なんだけど。それに植物園にどうして私が付き合わなくちゃいけないの?)
私の頭はすっかり混乱していた。
「あ、あの、どうして私が田村くんに付き合うんですか? 他の人ではダメですか......?」
彼は、その言葉を聞いて目を見開いた。三白眼の黒目が、ますます小さく見えて怖かった。
「どうしてって......。そんなの決まっているだろ。佐倉が好きだから。もちろん他に好きな女はいないから、他のやつではダメなんだが 」
「............ 」
それって、そう言う意味だったの......。
つまり、彼は、私と交際したいって言ってるの......。
「ごめんなさい! 私、不良の人は怖いんです!! だから許してください......!」
思わず私はそう叫んで逃げ出していた。
◇◇◇
翌日ーー。
私は恐る恐る教室に入った。
昨日の今日だから、学校を休もうか迷ったのだけど、真面目な性分の私には、サボると言うことができそうもなかった。
今の所、金髪頭はいないみたい。
うちの高校は勉強さえできていれば、髪を染めてもさほどうるさく言われない。
だから茶髪とかは多いのだけど、流石に金髪はいないのだ。
私はホッと息をついて、自分の席に座った。
......と思ったら、後ろから私の肩をたたく人がいる。
まさかと思いながら、そうっと振り返るとそこには......。
「ーー!」
髪を黒く染めた田村耕次がいた。
いたのだけれど......。
「あ、あの......?」
私は戸惑いの声を出した。
田村耕次は、また後ろ頭を掻きながら言った。
「その。昨日はなんか、怖がらせてしまったみたいでごめんな。緊張してたから、声をかける時、ぶっきらぼうな言い方になった気がする。それに髪のせいで、僕を不良だと思ったんだろ? 僕は悪いことはしない。だから不良じゃないんだ。佐倉を怖がらせないように、この通り髪を染めて髪型も癒し系にしてみたんだが、どうだろうか」
癒し系の髪型?
彼は黒髪の短髪を、整髪剤で固めて突起のようなものをふたつ作り上げている。
強面の彼が、鬼のような髪型にしているのに、癒し系なはずがなく、ひたすら恐怖を覚えて私は震えた。
「ハハハハハッ! 耕次、なんだよその頭はっ!」
私が返事もできないで震えていると、鈴木拓哉くんが笑いながら近寄ってきた。
イケメンで女子に人気の拓哉くんだけど、田村耕次にそんな口を聞いて大丈夫なのかしら?
私はますます顔を青ざめさせて震えていたけど、拓哉くんはなおも笑いながら田村耕次に言う。
「まさかとは思うが、それ、ケモミミのつもりなのか?」
「ああ。そうだが」
「アハハハハハハハッ! 死ぬ! 笑い死ぬ!! おまっ、どうみてもそれ、鬼の角じゃねえかよっ」
拓哉くんは、お腹を抱えて笑っている......。
私はもう一度、田村耕次の頭を見てケモミミ?と首を傾げた。
どうみてもケモミミには見えないけれど、どうしてケモミミにしたのかしら......?
「佐倉、コイツ、昨日佐倉の友達の三田に、佐倉の好きなものを聞いていたんだ。そしたら三田が、ファンタジーのケモミミやモフモフが好きだって答えたから、こんなことになっているみたいだぜ」
拓哉くんの言葉に呆然していると、田村耕次がそれに付け足した。
「どうせ髪を染めるなら、髪型も変えてみようかなって。佐倉がケモミミやモフモフが好きだって聞いて、僕はこの通り毛深いからモフモフの仲間に入れるかと思って、ついでにケモミミも作ってみたんだ」
「「アッハハハハハハ!!」」
今度はふたりの笑い声が聞こえた。
振り返るとそこには三田恵子がお腹を抱えて笑っていた。
「面白すぎるよ、田村耕次!毛深いのがモフモフだなんて......!」
「だろ? コイツ、強面でおっかなそうなんだけど、めっちゃ面白い奴なんだぜ。今まで金髪にしてたのも、震災の時のトモダチ作戦で来ていた米兵がカッコ良すぎて、真似していたからなんだ」
「何がおかしいんだ。困っている人を助けるヒーローが僕は大好きなんだ。だが考えてみれば、日本人の僕が金髪にするなんて、西洋かぶれみたいでカッコ悪いかな。これからは日本の土壌で育まれたオタク文化のケモミミやモフモフを取り入れて、佐倉を癒すことにしようと思う」
いや......。全然癒されてませんから......。
でもそんなこと、怖くて言えないよ......。
私は引きつり笑いでごまかすことにした。
◇◇◇
それから田村耕次は、拓哉くんと一緒に休み時間や昼休憩に話しかけてくるようになった。
恵子がそばにいてくれたから、四人でご飯を食べたりもしている。
「ねえ、田村。美苗のこと、いつから好きなの? そんでどこが好きなの?」
恵子が屋上で、お弁当を食べながら田村耕次に尋ねた。
「え? あ、ああ。1年の時からだ。佐倉が園芸部で、花壇の世話をしているのを見て一目惚れだ。今時、三つ編みをしている女の子って少ないだろ? 僕は古風な女の子が好きなんだ。それに、僕の実家は農家だから、将来お嫁さんにするなら植物や自然が好きな子ならいいなって」
「えーっ! 結婚まで考えて交際申し込まれるとか、今時重いよ田村! 私らまだ高校生だよ? 結婚なんて今から考えられないっての。ねえ? 美苗」
恵子はそんな風に言うけれど、私は田村耕次の言葉に感動していた。
私、重い人、好きだよ。軽い人、嫌い。
1年の時からずっと好きでいてくれて、私のダサい三つ編みを褒めてくれて、将来に繋がる目で私を選んでくれたんだ......。
それに農家って、今時の女子は嫌うのかもしれないけれど、私は農家の方をとても尊敬し感謝しているのだ。
大変なお仕事をしてくれる人がいるから、美味しいお米が食べられるんだもの。
それに田舎好き、自然好き、スローライフ好きな私には、田村耕次って理想の恋人なんじゃないだろうか......。
最初は怖いと思っていた彼が、話してみるととても温厚で真面目で天然で......。
告白した後は、ちゃんと私の好きなところなんかもはっきり口にしてくれる男らしさだってある。
......あ。
その鬼の角が、ケモミミに見えてきたよ? その手足も、見ようによってはモフモフに見えなくもない。
「美苗?」
恵子が黙りこくった私を覗き込んできた。
「......耕次くん。高校卒業後の進路は決まってるの......?」
私は思わず問いかけた。
「え、決まってるけど......。農業大学に進学だが」
「耕次くん、私も。私もそこに行く。......たった今、決めたわ」
「......そ、そうか。それは嬉しいな」
「「え~~っ!」」
恵子と拓哉くんの声が空高く響いた。
ー完ー
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この作品続けてもらいたいです😊
なんとも田村君が可愛い〰️😆
もふもふうさぎさん、コメントありがとうございます!
田村くんのキャラを気に入ってくれてとても嬉しいです〜。私も書いてて田村くん気に入ったので、もしかしたら後編とか書いてしまうかも〜。
最近、いろいろ頭に浮かんで来るので、いつになるかは分かりませんが、期待せずに待ってくださるとありがたいです〜。