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初めての贈り物〜セディ視点

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俺は非常に面白くなかった。

俺はゆいの専属護衛なのに、初のゆいのお出かけに同行させてもらえなかった。

アランのやつが選ばれて、ニヤリと笑いながら出かけて行ったのにもムカついた。

......まあ、ゆいがアランを友達と思っているのはちゃんと紙に書いてもらって納得済みだし、アランだけでなくケリーも一緒だから別に心配している訳ではないのだが。


だがしかし。

初めてのお出かけは、俺がデートに誘う予定だったのだ。

そして護衛の俺がついてお出かけのはずだったのに、誘うのをためらっているうちに、母上に取られてしまったではないか。

俺は不機嫌な顔を隠しもしないでマークに申し送りをしていると、マークはため息をついて言った。

「坊ちゃん。今日は気分が乗らないようですね。そろそろお昼ですし、ちょっと早いですが昼食にいたしましょう。先日お約束した、デートコースのご説明と、彼女をもっと自分に惹きつけるコツをお教え致しますから、初の護衛を取られた悔しさを、次のデートで巻き返して下さい」

「......そうだな。済んだことをいつまでも気にしていては、男が廃るな。よし、今日はここに定食を持ってこよう」

俺はマークと一緒に食堂へ食事を取りに向かった。

食堂に入るとアランとケリーがいるのに驚く。

「おい、お前たち、ゆいの護衛はどうした?」

俺がふたりに声を掛けると、アランがニヤリと笑って言った。

「お前の大切な恋人様は、ちゃんと俺たちが守ってお屋敷に送り届けたぜ」

アランの言葉を聞いたマークが今度は尋ねる。

「もう帰って来たのか?女の買い物はもっと長いものだろう?」

すると今度はケリーが俺に向かって笑顔を見せた。

「副団長。ゆい様は素敵な女性ですね。見た目はもちろんですが、御心が普通の貴族令嬢とは違って、欲がなく、高飛車なところがない。そして一途で、大変愛らしいと感じました。副団長、あのようなお方に想われるなんて、幸せですね」

俺はケリーの、「あのような方に想われて」の言葉に顔が熱くなった。

「も、もちろんだ。ゆいは他にはない素晴らしい女性だからな」

そう言いながら、俺は初の護衛を取られた悔しさが薄れて行くのを感じた。

(ああ、早くゆいに会いたい!そしてデートに誘いたい!)




◇◇◇


俺とマークはあの後、副団長室で昼食を取りながら、ゆいが喜びそうなデートコースをいくつか教えてもらった。

その後、デートレッスンを受けたのだが、マークの講義はどれも大人向けの艶っぽいものばかりで、俺には到底実践できそうにない内容だった。

(それでもせめて、ゆいと手を繋ぐくらいはしたいなあ)


俺は来た時とは真逆の、ニヤニヤ顔で午後の仕事を終えた。

屋敷に帰り、着替えを済ませ、夕食をとるため食堂に向かう。

「お帰りセドリック」

母上が俺に声を掛ける。

使用人が少ない我が家では、母上が食事を運んだりしているのだ。

いつもなら、そこにゆいもいて手伝っているのだが......。

「母上、ゆいはどうしました?」

「ゆいちゃんは、用事があって買い物から帰った後からずっと部屋に籠っているわよ。食事も後で取るから、先に食べてって言ってたわ」

「食事を後回しにするなんて、一体何をしているのですか?」

俺が怪訝そうに尋ねると、すでに席に座って食事を待っていた父上が俺を睨むように言った。

「お前はゆい殿のことばかり気にしおって。そんなに余裕がないとゆい殿に嫌われてしまうぞ。男は女のしたい事に詮索しないで、堂々としていれば良いのだ」

そう言われてはそれ以上聞くこともできず、ゆいのいない寂しい夕食を済ませたのだった。

(今まではこれが当たり前だったのにな。もう、ゆいの姿が見えないだけで、こんなにも物足りないなんて)


俺は食事を済ませ、いつものように部屋で公爵位を継ぐための勉強などをしているが、ゆいのことが気になって仕方ない。

(何をしているのか知らないが、いつもならもう、ゆいは就寝の時間だが、ちゃんと食事をとったのだろうか)

少しだけ。

少しだけゆいの様子を見に行こう。

そして、食事をちゃんと食べたかのか聞いて、おやすみの挨拶をしたらすぐに戻ろう。

俺は一日の終わりにゆいの顔を見ないで済ませることなどできず、ゆいの部屋へ向かった。




◇◇◇


俺はゆいの部屋の前で獣のようにうろついている。

(こんな時間に、女性の部屋を訪れるなんて、誤解されるんじゃなかろうか?ゆいに嫌われてしまったら、明日から生きていけないぞ、俺)

やっぱり今日は顔を見るのを諦めよう。

そう思って来た道を引き返そうとしたその時。

パタン。

ゆいの扉が突然開いた。

「セディ?」

ゆいは驚いた顔で俺の名をつぶやいた。

俺は慌てて弁解を始める。

「い、いや、これは違うんだ。ゆいが夕食を食べたのか心配でつい来てしまっただけで、その......」

俺がしどろもどろになっていると、ゆいは花が綻ぶような笑顔を俺に向けて来た。

思わず言葉を失い、ゆいの顔に見惚れる。


「セディ。あいたいとおもったら、きてくれた。やっぱりセディはすごい」

ゆいの意外な言葉に面食らう。

「う、うん......?俺に何か用事だったのか?」

俺がゆいに尋ねると、ゆいはもじもじしながら恥ずかしそうに答えた。

「あ、あのね......。これからユウショクとりにいくです。でも、ひとりショクドウいくのこわいです。セディ、いてくれたらておもってた」

「ああ、そんなこと。いいよ。一緒に食堂へ行こう」

俺がそう言うと、ゆいは頬を赤らめて言う。

「ごめんなさい、コドモ、みたいなこといって」

「そんなことないよ。うちの屋敷はだだっ広いし手入れも行き届いていないから、慣れない人には不気味に感じるものさ。ゆいはもっと、遠慮しないでわがままを言っていいんだよ」

「......ん。ありがとです」

そうして俺たちは食堂へ行き、置いてあったサンドイッチを持ってゆいの部屋に戻った。

俺はゆいと別れるのが寂しかったがゆいにお別れの挨拶をしようとした。

「それじゃ、ゆい俺はこれで......」

するとゆいが驚くようなことを俺に言った。

「セディ、すこしだけ、へや、よっていってくれませんか?わたしたいモノ、あるです」

「えっ、部屋に入ってもいいのか......?」

「はい」

ゆいはにこりと笑って部屋を開けた。

「どうぞ」

ゆいは扉を持ったまま、俺が入るのを待っている。

「そ、それじゃ、ちょっとだけ......。失礼します」

俺はすこしギクシャクしながら部屋へ入った。

持っていたサンドイッチをテーブルに置く。

「カジツスイあります。のむか?」

ゆいが水入れに入った果実水を勧めてくれた。

「あ、ああ。いただこうか」

俺はすこしでも長くいるために、それをもらう事にする。

ゆいは果実水をグラスに注いで俺に出した後、自分の机に行って何かを持って来た。

「これ...... 」

そう言って、おずおずと差し出された小さな小袋。

「セディ、このまえ、あらんとのこと、シンパイさせてごめんなさいでした。それと、いつも、わたしにやさしいしてくれてありがとです。わたし、いつもセディにかんしゃしてマス。だから、コレ、ココロこめてつくりました。どうかうけとってクダサイ」

「えっ、じゃあ、今日買い物に行ったのも、一日部屋に篭っていたのも、全部、俺のため……?」

「はい」

ゆいはまた、花が綻ぶように笑った。

「これは、わたしのセカイの御守り、いいます。このなかに、わたしがみにつけていたボタンいれてあります。わたしのネン、がついているから、きっとたいせつなセディをまもりマス。だから、この御守り、かならずみにつけていてクダサイ」

俺は貰った贈り物をあらためて見つめた。

生まれて初めて貰った女性からのプレゼント。
生まれて初めてできた、彼女から貰ったプレゼント……。

そう思うと、後から後から涙が出て来て止まらない。

「セディ‼︎」

ゆいが飛んできて、また俺を抱きしめてくれる。

ゆいの胸は温かい……。

ゆいに髪を撫でてもらいながら、俺はしばらくこの幸せに浸っていた。

















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