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初めての抱擁
しおりを挟む私の最近の生活は、日中はセディと騎士団へ一緒に向かい、副団長室でお掃除をしたり、お茶出しをしたりして過ごしている。
セディはマークさんに副団長を引き継いで貰うため、いろいろ忙しくしている。
なので、マリーさんやアランが手が空いている時は、私が洗濯のお手伝いをしたり食後の食器洗いをしたりするのに付き合ってくれている。
今日は、アランが食器洗いに付き添ってくれていて、私が洗ったものをアランが拭いて仕舞ってくれていた。
「ゆいちゃんは働きものだね。稀人様なんだから、きれいな服着て、美味しいものでも食べて、ゆっくりしていればいいのに」
アランはそんなことを言うけれど。
「そんなくらし、またふとってしまうから。これいじょう、ふとる、いやなの」
私がそう言うと、アランは理解出来ないといった表情をして言った。
「分からないなぁ。太りたくないなんて。ゆいちゃんは確かに、今ちょうど良い理想体型だけど、俺の好みはもう少しグラマーでもいいんだけどな」
ええっ、まだ太っている方がいいの?この世界は本当に不思議だ。
「……あらん、セディも、もっとふといのがすきかしら?」
「さあなぁ。そういえば、あいつの好みって聞いたことないかも。いつも自分がこんなに醜いのに、好みなんて言える立場じゃないって言ってたからな」
私はセディの好みのタイプが知りたいと思った。
「ね、あらん。おねがい、ある。きいてくれる?」
アランは興味津々な表情で聞いてきた。
「仔猫ちゃんのお願いならなんだって聞いてあげるよ?何かな?」
「あの、ね。セディに、どんなオンナのヒトがこのみか、きいておしえてくれない?わたし、セディのすきなタイプにちかづきたいから」
私は頬が赤くなっているのを自覚して、水に濡れて冷えた手で冷やしながら言った。
「えー。そんなの自分で聞けばいいんじゃないか?」
アランは面白くなさそうな表情に変えて言う。
「やだっ、そんなこと、はずかしくてきけない、から」
私は両手で顔を隠しながら、イヤイヤをするように、首を横に振った。
アランは私の顔を見て、からかってやろうと、私の手をどけようとしてくる。
「どんな顔して言ってんだ、この娘は?ん?俺にその顔見せてみ?」
「やだっ、あらんっ、やめてよっ」
私は赤くなった顔を見られたくなくて、アランとじゃれ合うように攻防していた。
「おい!アラン!何やってんだよ?ゆいが嫌がっているじゃないか!」
そこへセディがやって来て、怖い顔をして言った。
「セディ?仕事、片付いたのか?」
アランが私の両手を掴んだまま問うと、セディは返事をせずに怒りのオーラを滾らせながら厳しく言った。
「ゆいから手を離せ!お前を信用しているからゆいを任せたのに、何やってるんだよ!」
アランは大きなため息をついて私に言った。
「嫉妬深くて狭量な男は嫌だねぇ?ゆいちゃん。俺が君を、襲っているようにでも見えたようだぜ?」
私はセディとアランが仲違いしてはいけないと思ってアランを擁護した。
「セディ、あらんは、なにもしてないよ?」
「だが、今、現にゆいに触れているじゃないか?あっ、それとも、俺の方が邪魔だったのか……?」
セディは傷ついた顔をして私を見た。
「セディ!ひどいっ!」
私はアランとの仲を疑われたのだと思うと、すごく悲しくなってしまった。
涙を見られたくなくて、私はその場を走り逃げ出した。
「ゆ、ゆい…… ⁈ ま、待てっ!」
背後からセディの声が聞こえて来たけど、私は振り返らずに走った。
私はセディと言葉の練習をした花壇に来て涙が止まるのを待っていた。
しばらくして、セディが私を探して来てくれた。内心、私は来てくれたことが嬉しく思ったけれど、背を向けたまま俯いていた。
「ゆい、ごめん ‼︎ アランから聞いたよ。……その、俺の、好みのタイプを聞いてくれとアランに頼んでいたんだって……。俺、女性にモテるアランがゆいに触れているのを見たら、とたんに自信がなくなってしまったんだ。俺だってゆいに触れたことがないのに、アランは許されたのかって」
セディは頭を直角に下げたままで、そう話してくれた。
「わたしが、セディをすきなキモチ、うたがわれたみたいで、かなしかった…… 」
私は振り返ってセディを上目遣いで見つめて言った。
「う、うん……ごめん……どうしたら、許してくれる?」
「……セディの、すきなタイプ、おしえてくれたら、ゆるしてあげる」
私はセディの側に寄って、頭をセディの胸にくっつけた。
セディはおずおずと私の背中に手を回しながら言った。
「えっと……外見は、顔は清楚で可愛らしいけど、身体はセクシーな女性、かな。中身は控えめで優しい女の子だと最高だけど」
顔は清楚で、身体はセクシー?
セディってば、理想高いなぁ。
私、理想に近づけるかしら?
「たとえば、ぐたいてきにどんなヒト?」
私は顔を上げてセディを見た。
セディは顔を赤らめて言った。
「……ん。今、俺の目の前にいる人が、まさに言った通りの人なんだ」
「えっ」
かあああっ。
私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「う、うそっ!おせじ、いわないで」
「嘘じゃないよ……。ゆいは、俺には勿体ないような女性なんだ。そんな人が、俺を好きで、こうして触れることを許してくれるなんて、本当に夢のようなんだ」
「セディ!わたしも。セディはわたしにもったいないほどすてきなヒト。だからあなたのりそうに、ちかづきたいとおもった、の」
「ゆい…… 」
セディは、私を抱きしめる手に力を込めた。
「……セディ、さっき、すごくかっこよかった。ものがたりのヒーローが、たすけにきてくれた、みたいで」
「そ、そうか……? 」
「ん。しんぱいかけて、ごめんなさい。そして、ありがとです」
「……ああ。これからも、いつだって、ゆいを助けるから。ゆいが、俺の側にいてくれる限り」
そうして私たちは、いつまでもドキドキしながら抱きしめあっていた。
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