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ローランド家の人々

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セディのお父さんで騎士団長のローランド様は、太った熊さんのようにご立派な体躯をしている。

そんな団長さんが、身体を丸めるようにして、がむしゃらにデスクワークをこなしていた。

「ええいっ!クソったれが!」

時折乱暴な声を発しながらひたすらペンを走らせる。

「できた ! 完璧だ ‼︎ 」

団長様は、ニヤリと凶悪な顔を浮かべつぶやいた。

「これで全ては整った。後は王宮から許可が降りれば愚息の花嫁を我が家へ連れて帰れるぞ。事は急がねば、逃げられてしまいかねないからな。ふふふ…… 」

狙った獲物は決して逃さない。これが団長様の座右の銘なのだと私は後ほど知ったのだったーー。



◇◇◇

それから一週間後、つまり、私がセディに専属護衛を頼んでからたった二週間で、団長さんは私をローランド家に預かる諸々の手続きや手配を終え、王宮から騎士団員を屋敷周辺の警備に付ける許可を取り、稀人の安全基準をクリアしたため、晴れてローランド家へ連れて帰って良いと王様から許可が降りたらしい。

通常ならひと月かかるところを、半分の時間でやってのけた団長様は、少し目の下にクマが出来ていた。寝る間も惜しんで動いてくれたのだろう。

私は熊さんにクマがあるーーなどとくだらない感想を浮かべながらローランド公爵邸にやって来た。

玄関にふたりが向かったので、私も付いて行こうとしたところ……。

セディが私に、一緒に入ると危ないから、少し後でついて来てと手を出して私を止めた。何だろ?

「あなたっ!でかしたーーっ ‼︎ 」
ドグッ ‼︎

「セドリック!お帰りーーっ ‼︎ 」
ガツーー ッ ‼︎

玄関からいきなり飛び出して来たその女性は、団長様の鳩尾に握り拳を打ち込み、次にセディの頬を殴りつけた。

熊さんのように立派な体躯の団長様は、両手でお腹を押さえ少し唸っただけだったが、細身のセディはその勢いで後方に吹っ飛んで転がった。

「きゃあああああっ!セディー ‼︎ 」

私が駆け寄って、倒れたセディの顔を抱くように持ち上げた。

「セディ ⁈ ダイジョブか?」

私は心配してセディの顔を覗き込んだのだけど……。

セディは右の頬を腫らしながらも、
「はわわわわ…… 」と薄ら笑いを浮かべていた。

口の端から血が出ていたので、ハンカチで抑える。

一体何が起こったの?

「あらやだ。興奮して力が入り過ぎてしまったわ。あなた、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だとも。母さんがくれるなら、拳だって嬉しいさ」

「まあっ、あなたったら、そんな野獣みたいな見た目で、キザなセリフは似合いませんことよ?」

言葉だけ聞いていると、ずいぶん酷いように聞こえるんだけど、ふたりはうふふアハハと微笑みあっていた……。

しばらくしてふたりの世界から戻った団長様がセディに言った。

「おい!大したことないくせに、いつまでゆい殿のおっぱいに甘えているのだ?俺だって、母さんのおっぱいに包まれたいが、容量が足りないんだぞ!」

言い終えるか終えないかと言う時、団長の顎に女性のアッパーカットがヒットしていた。

セディはチッと舌打ちすると、すっくと立ち上がり、私の手を取って私を立ち上がらせてくれた。

「ありがとう。ゆいが介抱してくれたから治ったみたいだ」

眩しいほどの笑顔を向けてくるセディ。だけど美顔の片頬が腫れて痛々しい。

「セディ、まだハレてる。ひやさないと」

私がそっと頬に触れようと手を伸ばしかけた時ーー。

再度セディは突き飛ばされ、ゴロゴロと転がって行った。

そして女性が私をぎゅうっと抱きしめる。く……苦しい……。

「ゆいちゃん!いらっしゃい ‼︎ 私がセディのお母さんよ。これからは私をお母さんと呼んでね?主人や愚息から聞いていたけれど、想像以上に可愛い子ねっ!このふくよかな身体、なんて抱き心地がいいのかしらっ!愚息にあげるのは、勿体ないわね」

そう言って力を緩めたお母さんは、今度は私の贅肉をあちこち掴んで揉み始めた。

ヤダっ!贅肉をつままれるなんて、どんな羞恥プレイなのっ!
私が涙目になりながら震えていると、後方からふたりが抗議の声をあげた。

「ズルいぞ!母さんだけっ!俺にも歓迎の抱擁をさせてくれ!」

「何言ってんですか、父上!父上だけはゆいに触れないで下さいよ?ゆいが汚れてしまいますからっ!そんで母上も、もうゆいを離してあげて下さいよっ!涙ぐんで震えているではありませんかっ」

「何だと?お前に汚れるとか言われたくないぞ?ゆい殿を独り占めするなんて、狭量ではないかっ!」

「熊か野獣みたいな男に抱擁されたらゆいが怖がってしまうでしょうが!」

「何ィ?化け物みたいに醜いお前に言われたくないぞっ!」

ふたりは目から火花を散らして取っ組み合いを始めた。

「だんちょさまっ?セディ?やめてっ⁈ 」

私が青くなってオロオロしていると、

「あー、ゆいちゃん。あれはいつものことだから気にしないでいいのよ?さあ、私たちだけ先におうちに入りましょ」

セディのお母さんはそう言って、私の手を握って、ニコニコと微笑みながら室内に案内してくれた。




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