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人は知らない内に、人を傷つけていることがあるもので
しおりを挟むはあ。
昨日はローランド様やセディに迷惑をかけちゃったなあ。
今まで自分が新しい環境で生きていくのに精一杯だったし、考えてしまうととめどなく不安が押し寄せそうで、無意識に考えないようにしてた気がする。
元いた世界で、家族が私を探しているんじゃないか、泣いているんじゃないかと思うと胸が張り裂けそうだ。
もっとパパやママ、お姉ちゃんに優しくしてあげれば良かったとか、今は違う世界に来てしまったけど、セディや団長さんが優しいから大丈夫だって伝えたいとか、いろいろ考えてしまうけど、考えたってどうしようもないことで、周りに迷惑をかけるのは嫌だ。
それでなくても、言葉も満足に話せない役立たずなんだから、今日はちゃんと調書が書けるよう、しっかり質問に答えなくちゃ。
セディが私の調書を任されているらしいから、彼の足手纏いにはなりたくない。
私はもう泣かないと決意して、部屋から出ようとすると、ちょうど扉を叩く音がした。
私は返事するより先に扉を開けた。
そこには心配気なセディが立っていた。
私は昨日泣いてしまった自分が恥ずかしかったけど、笑顔で挨拶することにした。
「おはよ、セディ。きのう、泣いたりして、ごめんなさい。そして、ありがと、でした」
ぺこりと頭を下げる。
「ゆい、俺の方こそ、ごめんな。もっとゆいのことを考えて、調書を進めるべきだった」
申し訳なさそうにセディが謝る。
私は更にセディに申し訳ない気持ちになった。
「セディ、悪いない。わたし、もう大丈夫。今日、続きできるよ?」
「……わかった。だが無理はするな。辛くなったらすぐに言ってくれ」
「ありがと、セディ」
私たちはまた、昨日の客室に向かった。
◇◇◇
今日は団長さんではなく、アランが客室で待っていた。
「やあ、子猫ちゃん!元気かい?頼りになるお兄さんが来てあげたからね。調書を取る間、側にいてあげるから、辛くなったらお言い。お兄さんの胸を貸してあげるから」
アランが両手を広げて抱擁のフリをしてくる。私はまたおかしくなってクスクス笑ってしまった。
このビジュアルなのに、イケメンな仕草が自然過ぎて逆に可笑しいの。
お笑い芸人てモテるって言うけど、きっとアランもそうに違いない。
「ありがと、アラン。もう、大丈夫、だから」
昨日セディが傍にいてくれたから。
なんだかひとりぼっちじゃないよって言ってくれているみたいで本当に嬉しかった。
口に出しては言えないけれど、いつかセディには恩返ししたいな。
私はソファに座り、セディに言った。
「セディ、ありがと、アランを連れて来てくれて」
アランを連れて来れば、私が和むと思って呼んでくれたんだよね?
「あ、ああ……。それじゃ、昨日の続きを始めよう」
セディの表情が、一瞬寂しげに見えた気がしたけれど、すぐにいつもの感じに戻ったので、私は私の発言が、いつも彼を傷つけていたなんて、ちっとも知らないでいたのだったーー。
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