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ちょっと怖くて楽しみな行為はイグナスと〜サンドラ視点

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我はイグナスの身体を案じながらも、自国へ戻るために再び歩き出した。

「本当にどこも痛まないのか?歩いて大丈夫なのか?」


イグナスはニコリと笑って答える。

「はい。先ほど姫君から多大な褒美をいただきましたので、このイグナス元気百倍にございます」


そう言われて我は顔を赤らめた。

キスなどと言うものは、ただ口と口を合わせるだけのものだと思っておったのだ。

あのように淫らで、甘美な行為だったとは......。


我は今まで、何も知らずによその男を婿にしようなどと思っていたのだな。

あのような行為は、誰とでもできるものではない。


イグナス以外の男とあのようなことをするのを想像し、ゾワワと身の毛がよだった。

「姫君?いかがいたしました?」

青ざめた我の顔を心配そうに見つめるイグナス。


この者との口づけは、動悸が苦しかったが嫌でなかった、いや、むしろ幸せを感じたな......。

男に恋情を持つと言うのは、こう言うことを言うのだな。

我は改めて、イグナスがどれだけ好きだったのかを知った気がした。


「いや......。我は子供だったのだなと反省しておった。男とキスすると言うことの意味もよく分からず、婿を探しておったのだから」

「そうですよ、姫君。何も知らず、私に男女のことを教えてくれなどとおっしゃって。先ほどいたしたディープキスなど、足元にも及ばぬ行為でございますよ。私が自制しなかったら、姫君は大変な目に合っておりましたよ?」

「そ、そんなにすごい行為なのか?」

「ええ、それはそれは大変な行為ですよ。痛いし、恥ずかしいし、苦しいですし」

「ええっ!それは誠か?」

「さあ、どうでしょうね。それは個人差がありますから、姫君の場合はどうでしょうね」

痛くて、恥ずかしくて、苦しい......?

そんな思いをしてまで、なぜ結婚などせねばならんのだろうか?

「ですが姫君。それは、姫君が、心から思う方との行いであれば、随分緩和されますし、苦痛以上の幸せを感じることができますよ」

我はその言葉を聞いて、ほっと安心した。

「それなら安心だ。我の相手はイグナスだから、きっと上手くやってくれるに違いない。お前は何をやらせても器用な男だから。そん時はよろしく頼むぞ、イグナス」

「......姫君...... 」

イグナスは、返事をせずに、少し寂しそうに微笑んだ。

我はちょっと恐ろしいけど楽しみにも感じるその行為とやらを、イグナスとするのだと疑いもしなかったーー。



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