23 / 28
王と王妃と長〜国王ハインリヒ視点
しおりを挟む「まったく我が娘、サンドラには手を焼かされるのう」
余は眉間にしわを寄せて、呻くように言った。
「イグナスがついていながら、隣国行きを止めることもせず、誠に申し訳ございません」
イグナスの祖父に当たるランドルフ元子爵は深々と頭を下げた。
こやつは慇懃に謝ってはいるが、心底謝ってはいないのがわかる。
気味の悪いビックリまなこの奥底に、楽しんでいるような気配が見て取れた。
代々影を作り続けている不気味なランドルフ子爵家の元当主。
家督はとっくの昔に息子に譲ってはいるが、実権はまだこの男が握っている。
年齢もわからぬ容貌で、まことに気味の悪い糞ジジイよ。
余は子爵の言葉にはあえて答えずに続けた。
「よりによってフィルランド王国で、あのような傍若無人を働くとは......。我が国は武勇の国ではあるが、あの大国に睨まれればひとたまりもないのだぞ。あの国は建国の時から無敵で、膨張せずにとどまっているのが不思議なくらい良心的だが、あの国を脅かす存在があれば、これでもかというほどに制裁をしてくるのだからな」
隣に座っていた王妃がため息をつきながら言う。
「はい。あの国は建国の王がいまだに生まれ変わりながら国を支えているとか、異世界からの稀人を召喚しては豊富な知識を得ているとか噂に聞く富国強兵。ですから今回のサンドラ姫の所業が下心なしと判断されたのは、この国にとって命拾いでございました」
「ああ。しっかりとお詫びの品々を王と迷惑をかけた公爵殿に届けたし、幸いここ何年か良い関係を築けていたから事なきを得た。だが、サンドラにはもう勝手気儘を封じねばならないな。説教くらいでは利かぬ娘だし、如何致したら良いものか」
余は可愛さのあまり自由にさせすぎた娘をどう矯正するか悩んでいた。
「あなた、サンドラには一個師団を与えては如何でしょう。責任を持つようになれば人は変わりますし、落ち着きも出てくるでしょう」
王妃が意外な案を出してきたので余は驚いた。
「しかし王妃よ。いくらサンドラの剣が強いと言っても、おなごの身では、団長など務まらぬのではないかな」
余がそう言って王妃を見ると、王妃はニコリと微笑んで答えた。
「それは心配ないのでは?イグナスという優秀な副団長を添えればよろしいのですから。サンドラはもう、この国でも暴れまわって嫁の貰い手もなさそうですし、イグナスを昔から気に入っているのですから婿にしてやればよろしいではありませんか。もとよりわたくしはサンドラの恋愛結婚を望んでいましたでしょ、あなた」
「だが、それではあやつらの罰にはならぬのでは?今回のことがいかに国にとって害を及ぼす行いであったか少しは灸を据えねばなるまい?」
そこまで言うと、ランドルフ元子爵はニイイと不気味に笑って言った。
「王様、躾でしたら、是非わたくしめにお任せ下さいませ。二度と危険なことは致さないようサンドラ姫をきっちり躾けてみせますし、イグナスにも今回の落とし前はつけさせて、サンドラ姫の婿になることの重みをさらに叩き込んでご覧に入れます」
余は、ゾゾっと背筋に氷が張ったような恐ろしさを感じた。
「ランドルフよ、じゃじゃ馬とはいえ、余の可愛い娘をいかがいたすつもりじゃ?」
「それはご心配には及びませぬ。姫君には傷ひとつつけずに躾を致しますゆえ」
余と王妃は化け物のような笑みを見せる元子爵に顔を青ざめさせながらも任せることにした。
このジジイは言った通りに必ず上手くやるのが分かっていたからだ。
「では、わたくしめが折檻を致している間に、イグナスを婿にできるよう取り計らいをお頼み致しまする」
キッキッキと気味の悪い笑いをこぼしながら去っていくランドルフの背に、余は思わず声をかけた。
「我が娘のお気に入りを、間違っても殺すでないぞ!」
ランドルフは少しだけ振り返り、
「あれはここのところ作り上げた中で最高傑作ですからな。そう簡単に死にはしませんよ」
そう言ってまた、不気味な笑いをしながら去っていったーー。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
【完結】金の国 銀の国 蛙の国―ガマ王太子に嫁がされた三女は蓮の花に囲まれ愛する旦那様と幸せに暮らす。
remo
恋愛
かつて文明大国の異名をとったボッチャリ国は、今やすっかり衰退し、廃棄物の処理に困る極貧小国になり果てていた。
窮地に陥った王は3人の娘を嫁がせる代わりに援助してくれる国を募る。
それはそれは美しいと評判の皇女たちに各国王子たちから求婚が殺到し、
気高く美しい長女アマリリスは金の国へ、可憐でたおやかな次女アネモネは銀の国へ嫁ぐことになった。
しかし、働き者でたくましいが器量の悪い三女アヤメは貰い手がなく、唯一引き取りを承諾したのは、巨大なガマガエルの妖怪が統べるという辺境にある蛙国。
ばあや一人を付き人に、沼地ばかりのじめじめした蛙国を訪れたアヤメは、
おどろおどろしいガマ獣人たちと暮らすことになるが、肝心のガマ王太子は決してアヤメに真の姿を見せようとはしないのだった。
【完結】ありがとうございました。
転生聖女のなりそこないは、全てを諦めのんびり生きていくことにした。
迎木尚
恋愛
「聖女にはどうせなれないんだし、私はのんびり暮らすわね〜」そう言う私に妹も従者も王子も、残念そうな顔をしている。でも私は前の人生で、自分は聖女になれないってことを知ってしまった。
どんなに努力しても最後には父親に殺されてしまう。だから私は無駄な努力をやめて、好きな人たちとただ平和にのんびり暮らすことを目標に生きることにしたのだ。
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
私の騎士がバグってる! ~隣国へ生贄に出された王女は、どうにか生き延びる道を探したい~
紅茶ガイデン
恋愛
セダ王国の王女リディアは、かつての敵国であった隣国ラダクール王国の王太子と婚約していた。そして婚前留学をするよう命じられたリディアの元に、護衛騎士となる男が挨拶に訪れる。
グレイ・ノアールと名乗った男の顔を見て、リディアは不思議な気分になった。
あれ、私この顔をどこかで見たことがあるような?
その事に気付いて倒れてしまったリディアは、この時に前世の記憶を蘇らせてしまう。
ここが昔遊んだ乙女ゲームの世界であること、推しキャラだったリディアの護衛騎士、クレイに殺される運命にあることに気が付いて途方に暮れる。
でも、ちょっと待って。グレイって誰?
リディアの護衛騎士はクレイ・モアールだったよね?
そこでリディアは嫌なことに気付いてしまった。
あの乙女ゲームには、クレイだけに起きる致命的なバグ、「バグレイ」というものが存在していたことを。
*タイトルはこんな感じですが、シリアスなお話です。
*他の小説サイトでも投稿しています。
お嬢様の12ヶ月
トウリン
恋愛
綾小路静香<あやのこうじ しずか> 18歳。
武藤恭介<むとう きょうすけ> 25歳。
恭介が由緒正しい綾小路家の一人娘である静香の付き人になったのは、5年前。
以来、彼はこの『お嬢様』に振り回され続ける日々を送っていた。浮世離れした彼女のことは、単なる『雇い主』に過ぎなかった筈なのに……。
【完結】追い詰められた悪役令嬢、崖の上からフライング・ハイ!
采火
ファンタジー
私、アニエス・ミュレーズは冤罪をかけられ、元婚約者である皇太子、義弟、騎士を連れた騎士団長、それから実の妹に追い詰められて、同じ日、同じ時間、同じ崖から転落死するという人生を繰り返している。
けれどそんな死に戻り人生も、今日でおしまい。
前世にはいなかった毒舌従者を連れ、アニエスの脱・死に戻り人生計画が始まる。
※別サイトでも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる