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王と王妃と長〜国王ハインリヒ視点

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「まったく我が娘、サンドラには手を焼かされるのう」

余は眉間にしわを寄せて、呻くように言った。


「イグナスがついていながら、隣国行きを止めることもせず、誠に申し訳ございません」

イグナスの祖父に当たるランドルフ元子爵は深々と頭を下げた。


こやつは慇懃に謝ってはいるが、心底謝ってはいないのがわかる。

気味の悪いビックリまなこの奥底に、楽しんでいるような気配が見て取れた。


代々影を作り続けている不気味なランドルフ子爵家の元当主。

家督はとっくの昔に息子に譲ってはいるが、実権はまだこの男が握っている。

年齢もわからぬ容貌で、まことに気味の悪い糞ジジイよ。



余は子爵の言葉にはあえて答えずに続けた。

「よりによってフィルランド王国で、あのような傍若無人を働くとは......。我が国は武勇の国ではあるが、あの大国に睨まれればひとたまりもないのだぞ。あの国は建国の時から無敵で、膨張せずにとどまっているのが不思議なくらい良心的だが、あの国を脅かす存在があれば、これでもかというほどに制裁をしてくるのだからな」

隣に座っていた王妃がため息をつきながら言う。

「はい。あの国は建国の王がいまだに生まれ変わりながら国を支えているとか、異世界からの稀人を召喚しては豊富な知識を得ているとか噂に聞く富国強兵。ですから今回のサンドラ姫の所業が下心なしと判断されたのは、この国にとって命拾いでございました」

「ああ。しっかりとお詫びの品々を王と迷惑をかけた公爵殿に届けたし、幸いここ何年か良い関係を築けていたから事なきを得た。だが、サンドラにはもう勝手気儘を封じねばならないな。説教くらいでは利かぬ娘だし、如何致したら良いものか」

余は可愛さのあまり自由にさせすぎた娘をどう矯正するか悩んでいた。

「あなた、サンドラには一個師団を与えては如何でしょう。責任を持つようになれば人は変わりますし、落ち着きも出てくるでしょう」

王妃が意外な案を出してきたので余は驚いた。

「しかし王妃よ。いくらサンドラの剣が強いと言っても、おなごの身では、団長など務まらぬのではないかな」

余がそう言って王妃を見ると、王妃はニコリと微笑んで答えた。

「それは心配ないのでは?イグナスという優秀な副団長を添えればよろしいのですから。サンドラはもう、この国でも暴れまわって嫁の貰い手もなさそうですし、イグナスを昔から気に入っているのですから婿にしてやればよろしいではありませんか。もとよりわたくしはサンドラの恋愛結婚を望んでいましたでしょ、あなた」

「だが、それではあやつらの罰にはならぬのでは?今回のことがいかに国にとって害を及ぼす行いであったか少しは灸を据えねばなるまい?」

そこまで言うと、ランドルフ元子爵はニイイと不気味に笑って言った。

「王様、躾でしたら、是非わたくしめにお任せ下さいませ。二度と危険なことは致さないようサンドラ姫をきっちり躾けてみせますし、イグナスにも今回の落とし前はつけさせて、サンドラ姫の婿になることの重みをさらに叩き込んでご覧に入れます」

余は、ゾゾっと背筋に氷が張ったような恐ろしさを感じた。


「ランドルフよ、じゃじゃ馬とはいえ、余の可愛い娘をいかがいたすつもりじゃ?」

「それはご心配には及びませぬ。姫君には傷ひとつつけずに躾を致しますゆえ」

余と王妃は化け物のような笑みを見せる元子爵に顔を青ざめさせながらも任せることにした。

このジジイは言った通りに必ず上手くやるのが分かっていたからだ。


「では、わたくしめが折檻を致している間に、イグナスを婿にできるよう取り計らいをお頼み致しまする」

キッキッキと気味の悪い笑いをこぼしながら去っていくランドルフの背に、余は思わず声をかけた。

「我が娘のお気に入りを、間違っても殺すでないぞ!」

ランドルフは少しだけ振り返り、

「あれはここのところ作り上げた中で最高傑作ですからな。そう簡単に死にはしませんよ」

そう言ってまた、不気味な笑いをしながら去っていったーー。




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