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長からの帰国命令
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「姫君......ご無事で何よりでした」
俺は、姫君が初めて見せる涙を拭いもせず、俺の血を拭ってくれていることに感動していた。
俺に恋愛感情を自覚なさってから、女らしさを見せるようになった姫君がますます愛おしい。
俺は姫君の頬に伝う涙を、そっと指で拭った。
「すまない......イグナス、お前を守ってやると約束したのに守れなくて......本当にすまない......」
大粒の涙をこぼし続ける姫君は、本当に愛らしくて胸がぎゅっと締め付けられる。
「何をおっしゃいます、姫君。貴女をお守りするのが私の務め。貴女が私を守る義務などひとつもないのですよ」
「そんなことない!我はお前の主人だ。主人は、我に仕えてくれるものを守る義務があるはずだ!」
「ですがそれは、ご主人様がご無事の上での義務でございます。ご主人様を失くせば、仕える者は路頭に迷うのですから。それに今は、私たちは主従の関係だけではございませんでしょう?男が愛する恋人を守るのはごく当たり前のことでございますから、どうか、もうそのように泣かないでくださいませ」
「それはそうかもしれないが......もしもあのままボスが引かなければ、イグナスがどうなっていたかわからぬではないか。イグナスにもしものことがあったら我は、たとえ国際問題になろうとヤツらをメッタ斬りにしていたぞ」
俺は拷問に耐える訓練も受けているから、あの程度の嬲りなど大したことはないのだ。
相手に殴らせながら勝機を見出す。
あの時姫君の方へ足を向けたボスに、俺はすがるふりをしながら胸ぐらを掴んだ。
片手でボスを逃さないように掴んだまま、もう一方の手の指に仕込んだ暗器を彼の両目に突きつけて動きを止めた。
小声で彼の耳元で囁く。
(これ以上お遊びを続けるつもりなら、お前たち全員をバラバラに砕いて、死体すら残らぬようにしなければならないが如何致す?......それから俺のこと、無駄口叩かぬ方が身のためぞ)
ボスは闇の者だから、これだけ示せば俺がヤバいヤツだと悟るだろう。
ボスは俺の読み通り、大人しく去って行ったのだが、姫君にはわかるはずもなかろう。
「大丈夫です。国や姫君が窮地に立たされるようなことには、このイグナスが致しませんから。姫君は私に守られて、守り抜いた私に褒美をくだされば良いのです」
「褒美か?なんでもやるぞ。時計か?......新しい剣でも良いな?」
「なんでもくださると言質いただきましたよ?それでは貴女の心地よい唇をいただきとうございます」
そう言って俺は、焦りまくっている可愛い姫君に、遠慮なく口付けた。
あまりに無防備な発言をなさる姫君に、俺は軽いキスだけでは抑えきれず、姫君の口内まで頂いてしまった。
姫君は真っ赤になり、恥ずかしがっていたようだが、次第に女の顔になって蕩けている。
ああ、なんて愛しいんだろう......。このままふたりでどこか遠くに行ってしまえたら......。
俺はそんなことを考えながら、夢見心地で姫君を抱きしめていると、一羽の鳩が俺の肩へ止まった。
一気に現実に引き戻される。
(長からだな)
俺は名残惜しいが姫君の身体を解き放って、鳩の足から手紙を外した。
『お前のやったことすべてお見通しぞ。分かっておろうな?今すぐ姫君を王宮に連れ帰れ』
ああ、分かっていたとも。
専属の影は俺だけだが、一国の姫君をたったひとりで守るはずもなかろう。
万が一の時には、俺を囮にしている間に姫君を攫って国へ連れ帰る算段で、何人かの影が俺たちを見張っているに違いないのだ。
いくら俺でも影を複数相手にしては、姫君を連れて逃げることなどできはしない。
俺はため息をこっそりついて、姫君に言った。
「姫君。残念ですが、貴女の恋人でいられるのも今日限りのようです。急いで王宮に帰りましょう」
俺は帰ってからのお仕置きよりも、姫君と離れなければならないであろう予感の方が辛かったーー。
*本文で書けなかったのですが、下賎な輩に渡した薬は痛み止めではなく便秘薬です。
奴らはお腹が痛いときにそれを飲んでさらに大変なことに......。
俺は、姫君が初めて見せる涙を拭いもせず、俺の血を拭ってくれていることに感動していた。
俺に恋愛感情を自覚なさってから、女らしさを見せるようになった姫君がますます愛おしい。
俺は姫君の頬に伝う涙を、そっと指で拭った。
「すまない......イグナス、お前を守ってやると約束したのに守れなくて......本当にすまない......」
大粒の涙をこぼし続ける姫君は、本当に愛らしくて胸がぎゅっと締め付けられる。
「何をおっしゃいます、姫君。貴女をお守りするのが私の務め。貴女が私を守る義務などひとつもないのですよ」
「そんなことない!我はお前の主人だ。主人は、我に仕えてくれるものを守る義務があるはずだ!」
「ですがそれは、ご主人様がご無事の上での義務でございます。ご主人様を失くせば、仕える者は路頭に迷うのですから。それに今は、私たちは主従の関係だけではございませんでしょう?男が愛する恋人を守るのはごく当たり前のことでございますから、どうか、もうそのように泣かないでくださいませ」
「それはそうかもしれないが......もしもあのままボスが引かなければ、イグナスがどうなっていたかわからぬではないか。イグナスにもしものことがあったら我は、たとえ国際問題になろうとヤツらをメッタ斬りにしていたぞ」
俺は拷問に耐える訓練も受けているから、あの程度の嬲りなど大したことはないのだ。
相手に殴らせながら勝機を見出す。
あの時姫君の方へ足を向けたボスに、俺はすがるふりをしながら胸ぐらを掴んだ。
片手でボスを逃さないように掴んだまま、もう一方の手の指に仕込んだ暗器を彼の両目に突きつけて動きを止めた。
小声で彼の耳元で囁く。
(これ以上お遊びを続けるつもりなら、お前たち全員をバラバラに砕いて、死体すら残らぬようにしなければならないが如何致す?......それから俺のこと、無駄口叩かぬ方が身のためぞ)
ボスは闇の者だから、これだけ示せば俺がヤバいヤツだと悟るだろう。
ボスは俺の読み通り、大人しく去って行ったのだが、姫君にはわかるはずもなかろう。
「大丈夫です。国や姫君が窮地に立たされるようなことには、このイグナスが致しませんから。姫君は私に守られて、守り抜いた私に褒美をくだされば良いのです」
「褒美か?なんでもやるぞ。時計か?......新しい剣でも良いな?」
「なんでもくださると言質いただきましたよ?それでは貴女の心地よい唇をいただきとうございます」
そう言って俺は、焦りまくっている可愛い姫君に、遠慮なく口付けた。
あまりに無防備な発言をなさる姫君に、俺は軽いキスだけでは抑えきれず、姫君の口内まで頂いてしまった。
姫君は真っ赤になり、恥ずかしがっていたようだが、次第に女の顔になって蕩けている。
ああ、なんて愛しいんだろう......。このままふたりでどこか遠くに行ってしまえたら......。
俺はそんなことを考えながら、夢見心地で姫君を抱きしめていると、一羽の鳩が俺の肩へ止まった。
一気に現実に引き戻される。
(長からだな)
俺は名残惜しいが姫君の身体を解き放って、鳩の足から手紙を外した。
『お前のやったことすべてお見通しぞ。分かっておろうな?今すぐ姫君を王宮に連れ帰れ』
ああ、分かっていたとも。
専属の影は俺だけだが、一国の姫君をたったひとりで守るはずもなかろう。
万が一の時には、俺を囮にしている間に姫君を攫って国へ連れ帰る算段で、何人かの影が俺たちを見張っているに違いないのだ。
いくら俺でも影を複数相手にしては、姫君を連れて逃げることなどできはしない。
俺はため息をこっそりついて、姫君に言った。
「姫君。残念ですが、貴女の恋人でいられるのも今日限りのようです。急いで王宮に帰りましょう」
俺は帰ってからのお仕置きよりも、姫君と離れなければならないであろう予感の方が辛かったーー。
*本文で書けなかったのですが、下賎な輩に渡した薬は痛み止めではなく便秘薬です。
奴らはお腹が痛いときにそれを飲んでさらに大変なことに......。
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