18 / 28
束の間の恋人
しおりを挟む
ーーあれから宿で、姫君に迫られながらも俺は「ご命令だけはしないで下さい!」と何度も願いを請うてやっと姫君の腕の囲いから解放された。
男女の事を教えろなどと簡単にいう姫君だが、それは俺と姫君がまぐわうということで……。
そんなことをたった一度でもしてしまえば、姫君の純潔が失われ、良い嫁ぎ先が見つからないだけでなく、下手をすれば姫君を孕ませてしまう事にもなるのだ。
そのようにご説明したのだが、姫君ときたら、
「我の夫はお前にすると決めたのだから、別にそうなっても構わぬではないか」
などと仰られる。
俺は仕方なく、最後の手段を持ち出し姫君の暴走を阻止することにした。
あまり使いたくない手段なのだが……。
「……姫君。もしも国の承諾なしに私が貴女を汚してしまえば、帰国後私は重罪人として処刑されてしまうでしょう。もちろん私は、たとえ処刑されようとも貴女様を一時でも自分のものにできるなら本望ですが。……ただ、私が処刑された後、誰が姫君をお守りするのかと、それだけが心配なのでございます…… 」
姫君の一番の弱点は俺なのだ。
俺がいじめられるとか、叱られるなど、不利益を被ると分かると、いつもは我儘三昧の姫君が急に態度を改めて下さるのだ。
だから俺は、極力そういったやり方は避け、姫君らしくあってもらえるようにしてきた。
姫君の我儘など、俺から見れば微笑ましく可愛いものなのだ。
貴族マナーなどで姫君の愛らしさを失って欲しくはなかった。
けれど今回ばかりはそんなことを言ってはいられない。
俺への執着を、恋愛として自覚して下さったことは大変光栄ではあるが、早く諦めてもらわねば、俺の自制心がもたないのだ……。
姫君は処刑という言葉に、顔を青くして頷いて下さった。
「ならば、男女の交わりはせずともよい。帰国後父上を説得してからにする。そのかわり、今後は我の恋人として我に接するように。良いな?」
姫君の恋人として接する?
具体的なイメージなど俺には湧かなかったが、とりあえず姫君の貞操は守れそうだと判断して、姫君のご要望に従うことにした。
(俺だって、せっかく姫君と両想いになれたのだ。少しくらい姫君と良い思い出を作りたい。このような関係も、王宮に着けば終わるのだから)
「過分なお言葉、ありがとうございます。では、王宮に着くまでは、貴女の恋人として、心より務めさせていただきます。ご希望があれば、なんなりとお申し付けくださいませ」
俺は姫君に傅いて言葉を述べた。
「よし。では、早速お前の方から我に口付けをいたせ。そして、今夜は同じ床で添い寝をしろ」
……こ、これは……。
姫君の貞操の危機は、まだ去ってはいないようだ……。
俺は更なる自制心を鍛える特訓を受ける羽目になりそうだ……。
そんな風に思いつつも、期待に溢れた表情で俺を見つめる姫君に、俺はそっと優しく触れるだけのキスをして、ふわりと彼女を抱擁した。
姫君が思う恋人との触れ合いなど、この程度のものだろう。
男の獰猛な劣情など、知りもしない無垢な姫君。
ええ、守りますとも。守れそうになくなった時は、俺の下半身を自分で切り落とすくらいのつもりで守ってみせますとも。俺の全ては、姫君の幸せのためにあるのだからーー。
俺が心で強く誓っていると、姫君は嬉しそうに瞳を細めて微笑んだ。
「やはり、ルイスに抱きしめられた時とは全然違うな。とても居心地が良くて、幸せな気分になる」
ああ……愛しい姫君……。
この先も、俺の気持ちが報われなくとも、その瞳を向けて頂けただけで十分に幸せでございます。
今は、貴女の影に選ばれて、本当に良かったと思う……。
男女の事を教えろなどと簡単にいう姫君だが、それは俺と姫君がまぐわうということで……。
そんなことをたった一度でもしてしまえば、姫君の純潔が失われ、良い嫁ぎ先が見つからないだけでなく、下手をすれば姫君を孕ませてしまう事にもなるのだ。
そのようにご説明したのだが、姫君ときたら、
「我の夫はお前にすると決めたのだから、別にそうなっても構わぬではないか」
などと仰られる。
俺は仕方なく、最後の手段を持ち出し姫君の暴走を阻止することにした。
あまり使いたくない手段なのだが……。
「……姫君。もしも国の承諾なしに私が貴女を汚してしまえば、帰国後私は重罪人として処刑されてしまうでしょう。もちろん私は、たとえ処刑されようとも貴女様を一時でも自分のものにできるなら本望ですが。……ただ、私が処刑された後、誰が姫君をお守りするのかと、それだけが心配なのでございます…… 」
姫君の一番の弱点は俺なのだ。
俺がいじめられるとか、叱られるなど、不利益を被ると分かると、いつもは我儘三昧の姫君が急に態度を改めて下さるのだ。
だから俺は、極力そういったやり方は避け、姫君らしくあってもらえるようにしてきた。
姫君の我儘など、俺から見れば微笑ましく可愛いものなのだ。
貴族マナーなどで姫君の愛らしさを失って欲しくはなかった。
けれど今回ばかりはそんなことを言ってはいられない。
俺への執着を、恋愛として自覚して下さったことは大変光栄ではあるが、早く諦めてもらわねば、俺の自制心がもたないのだ……。
姫君は処刑という言葉に、顔を青くして頷いて下さった。
「ならば、男女の交わりはせずともよい。帰国後父上を説得してからにする。そのかわり、今後は我の恋人として我に接するように。良いな?」
姫君の恋人として接する?
具体的なイメージなど俺には湧かなかったが、とりあえず姫君の貞操は守れそうだと判断して、姫君のご要望に従うことにした。
(俺だって、せっかく姫君と両想いになれたのだ。少しくらい姫君と良い思い出を作りたい。このような関係も、王宮に着けば終わるのだから)
「過分なお言葉、ありがとうございます。では、王宮に着くまでは、貴女の恋人として、心より務めさせていただきます。ご希望があれば、なんなりとお申し付けくださいませ」
俺は姫君に傅いて言葉を述べた。
「よし。では、早速お前の方から我に口付けをいたせ。そして、今夜は同じ床で添い寝をしろ」
……こ、これは……。
姫君の貞操の危機は、まだ去ってはいないようだ……。
俺は更なる自制心を鍛える特訓を受ける羽目になりそうだ……。
そんな風に思いつつも、期待に溢れた表情で俺を見つめる姫君に、俺はそっと優しく触れるだけのキスをして、ふわりと彼女を抱擁した。
姫君が思う恋人との触れ合いなど、この程度のものだろう。
男の獰猛な劣情など、知りもしない無垢な姫君。
ええ、守りますとも。守れそうになくなった時は、俺の下半身を自分で切り落とすくらいのつもりで守ってみせますとも。俺の全ては、姫君の幸せのためにあるのだからーー。
俺が心で強く誓っていると、姫君は嬉しそうに瞳を細めて微笑んだ。
「やはり、ルイスに抱きしめられた時とは全然違うな。とても居心地が良くて、幸せな気分になる」
ああ……愛しい姫君……。
この先も、俺の気持ちが報われなくとも、その瞳を向けて頂けただけで十分に幸せでございます。
今は、貴女の影に選ばれて、本当に良かったと思う……。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

すり替えられた公爵令嬢
鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。
しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。
妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。
本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。
完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。
視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。
お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。
ロイズ王国
エレイン・フルール男爵令嬢 15歳
ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳
アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳
マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳
マルゲリーターの母 アマンダ
パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト
アルフレッドの側近
カシュー・イーシヤ 18歳
ダニエル・ウイロー 16歳
マシュー・イーシヤ 15歳
帝国
エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪)
キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹)
隣国ルタオー王国
バーバラ王女

【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

転生聖女のなりそこないは、全てを諦めのんびり生きていくことにした。
迎木尚
恋愛
「聖女にはどうせなれないんだし、私はのんびり暮らすわね〜」そう言う私に妹も従者も王子も、残念そうな顔をしている。でも私は前の人生で、自分は聖女になれないってことを知ってしまった。
どんなに努力しても最後には父親に殺されてしまう。だから私は無駄な努力をやめて、好きな人たちとただ平和にのんびり暮らすことを目標に生きることにしたのだ。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる