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束の間の恋人
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ーーあれから宿で、姫君に迫られながらも俺は「ご命令だけはしないで下さい!」と何度も願いを請うてやっと姫君の腕の囲いから解放された。
男女の事を教えろなどと簡単にいう姫君だが、それは俺と姫君がまぐわうということで……。
そんなことをたった一度でもしてしまえば、姫君の純潔が失われ、良い嫁ぎ先が見つからないだけでなく、下手をすれば姫君を孕ませてしまう事にもなるのだ。
そのようにご説明したのだが、姫君ときたら、
「我の夫はお前にすると決めたのだから、別にそうなっても構わぬではないか」
などと仰られる。
俺は仕方なく、最後の手段を持ち出し姫君の暴走を阻止することにした。
あまり使いたくない手段なのだが……。
「……姫君。もしも国の承諾なしに私が貴女を汚してしまえば、帰国後私は重罪人として処刑されてしまうでしょう。もちろん私は、たとえ処刑されようとも貴女様を一時でも自分のものにできるなら本望ですが。……ただ、私が処刑された後、誰が姫君をお守りするのかと、それだけが心配なのでございます…… 」
姫君の一番の弱点は俺なのだ。
俺がいじめられるとか、叱られるなど、不利益を被ると分かると、いつもは我儘三昧の姫君が急に態度を改めて下さるのだ。
だから俺は、極力そういったやり方は避け、姫君らしくあってもらえるようにしてきた。
姫君の我儘など、俺から見れば微笑ましく可愛いものなのだ。
貴族マナーなどで姫君の愛らしさを失って欲しくはなかった。
けれど今回ばかりはそんなことを言ってはいられない。
俺への執着を、恋愛として自覚して下さったことは大変光栄ではあるが、早く諦めてもらわねば、俺の自制心がもたないのだ……。
姫君は処刑という言葉に、顔を青くして頷いて下さった。
「ならば、男女の交わりはせずともよい。帰国後父上を説得してからにする。そのかわり、今後は我の恋人として我に接するように。良いな?」
姫君の恋人として接する?
具体的なイメージなど俺には湧かなかったが、とりあえず姫君の貞操は守れそうだと判断して、姫君のご要望に従うことにした。
(俺だって、せっかく姫君と両想いになれたのだ。少しくらい姫君と良い思い出を作りたい。このような関係も、王宮に着けば終わるのだから)
「過分なお言葉、ありがとうございます。では、王宮に着くまでは、貴女の恋人として、心より務めさせていただきます。ご希望があれば、なんなりとお申し付けくださいませ」
俺は姫君に傅いて言葉を述べた。
「よし。では、早速お前の方から我に口付けをいたせ。そして、今夜は同じ床で添い寝をしろ」
……こ、これは……。
姫君の貞操の危機は、まだ去ってはいないようだ……。
俺は更なる自制心を鍛える特訓を受ける羽目になりそうだ……。
そんな風に思いつつも、期待に溢れた表情で俺を見つめる姫君に、俺はそっと優しく触れるだけのキスをして、ふわりと彼女を抱擁した。
姫君が思う恋人との触れ合いなど、この程度のものだろう。
男の獰猛な劣情など、知りもしない無垢な姫君。
ええ、守りますとも。守れそうになくなった時は、俺の下半身を自分で切り落とすくらいのつもりで守ってみせますとも。俺の全ては、姫君の幸せのためにあるのだからーー。
俺が心で強く誓っていると、姫君は嬉しそうに瞳を細めて微笑んだ。
「やはり、ルイスに抱きしめられた時とは全然違うな。とても居心地が良くて、幸せな気分になる」
ああ……愛しい姫君……。
この先も、俺の気持ちが報われなくとも、その瞳を向けて頂けただけで十分に幸せでございます。
今は、貴女の影に選ばれて、本当に良かったと思う……。
男女の事を教えろなどと簡単にいう姫君だが、それは俺と姫君がまぐわうということで……。
そんなことをたった一度でもしてしまえば、姫君の純潔が失われ、良い嫁ぎ先が見つからないだけでなく、下手をすれば姫君を孕ませてしまう事にもなるのだ。
そのようにご説明したのだが、姫君ときたら、
「我の夫はお前にすると決めたのだから、別にそうなっても構わぬではないか」
などと仰られる。
俺は仕方なく、最後の手段を持ち出し姫君の暴走を阻止することにした。
あまり使いたくない手段なのだが……。
「……姫君。もしも国の承諾なしに私が貴女を汚してしまえば、帰国後私は重罪人として処刑されてしまうでしょう。もちろん私は、たとえ処刑されようとも貴女様を一時でも自分のものにできるなら本望ですが。……ただ、私が処刑された後、誰が姫君をお守りするのかと、それだけが心配なのでございます…… 」
姫君の一番の弱点は俺なのだ。
俺がいじめられるとか、叱られるなど、不利益を被ると分かると、いつもは我儘三昧の姫君が急に態度を改めて下さるのだ。
だから俺は、極力そういったやり方は避け、姫君らしくあってもらえるようにしてきた。
姫君の我儘など、俺から見れば微笑ましく可愛いものなのだ。
貴族マナーなどで姫君の愛らしさを失って欲しくはなかった。
けれど今回ばかりはそんなことを言ってはいられない。
俺への執着を、恋愛として自覚して下さったことは大変光栄ではあるが、早く諦めてもらわねば、俺の自制心がもたないのだ……。
姫君は処刑という言葉に、顔を青くして頷いて下さった。
「ならば、男女の交わりはせずともよい。帰国後父上を説得してからにする。そのかわり、今後は我の恋人として我に接するように。良いな?」
姫君の恋人として接する?
具体的なイメージなど俺には湧かなかったが、とりあえず姫君の貞操は守れそうだと判断して、姫君のご要望に従うことにした。
(俺だって、せっかく姫君と両想いになれたのだ。少しくらい姫君と良い思い出を作りたい。このような関係も、王宮に着けば終わるのだから)
「過分なお言葉、ありがとうございます。では、王宮に着くまでは、貴女の恋人として、心より務めさせていただきます。ご希望があれば、なんなりとお申し付けくださいませ」
俺は姫君に傅いて言葉を述べた。
「よし。では、早速お前の方から我に口付けをいたせ。そして、今夜は同じ床で添い寝をしろ」
……こ、これは……。
姫君の貞操の危機は、まだ去ってはいないようだ……。
俺は更なる自制心を鍛える特訓を受ける羽目になりそうだ……。
そんな風に思いつつも、期待に溢れた表情で俺を見つめる姫君に、俺はそっと優しく触れるだけのキスをして、ふわりと彼女を抱擁した。
姫君が思う恋人との触れ合いなど、この程度のものだろう。
男の獰猛な劣情など、知りもしない無垢な姫君。
ええ、守りますとも。守れそうになくなった時は、俺の下半身を自分で切り落とすくらいのつもりで守ってみせますとも。俺の全ては、姫君の幸せのためにあるのだからーー。
俺が心で強く誓っていると、姫君は嬉しそうに瞳を細めて微笑んだ。
「やはり、ルイスに抱きしめられた時とは全然違うな。とても居心地が良くて、幸せな気分になる」
ああ……愛しい姫君……。
この先も、俺の気持ちが報われなくとも、その瞳を向けて頂けただけで十分に幸せでございます。
今は、貴女の影に選ばれて、本当に良かったと思う……。
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