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命令しないでください姫君!
しおりを挟む今回姫君がお邪魔しているのは、フィルランド国の王宮である。
ローランド公爵邸に、迎えにやって来たルイス王子に連れられて、俺たちは剣の練習場にいる。
姫君もルイス様も良い勝負と言う感じだが、最後は体力差で姫君が負けた。
しかし、ルイス様との会話で、一本でも勝てたら、嫁にしてやらなくもないと言ったルイス様に、姫君は猛アタックをかけているようだ。
俺は会話が聞こえない程度離れて、その様子を見守っていた。
ルイス様とは2年ほど前、我がリンドル国に留学された折の顔見知りで、姫君とは仲が良かった。
明るく熱血漢な性質が、姫君と似通っており、こうして見ていると、長い付き合いの俺よりも、本物の兄妹みたいだ。
姫君も他の殿方と話されるより楽しそうに見える。
お似合いだ……。
少し寂しく感じながら見守っていると、ルイス様がいきなり姫君を抱きしめた。
俺の胸は張り裂けそうに痛んだが、話が上手く言ったのだ、共に喜んで差し上げなくてはと無理して笑顔を作った。
だが、ルイス様が、姫君に口付けをした瞬間、俺は見守る事が出来ず目を瞑ってしまった。掌に爪が食い込むほど強く拳を握って堪えた。
ルイス様との会話が済むと、姫君は俺を呼び寄せた。
「姫君、お話が上手く纏まったようですね。おめでとうございます 」
俺は上手く笑えているだろうか。
精一杯の笑顔を浮かべているつもりだ。
「……いいや、ルイスとは、話が纏まらなかった。さあ、また旅に出るぞ、イグナス 」
姫君は俺の手首を掴むと歩きだした。
「ルイス、感謝する。お前は我の心の友だ 」
姫君は振り返らずそう言った。
「ハイハイ、お前も頑張れよ~。達者でな~ 」
ルイス様はひらひらと手を振って、俺にニカっと笑いかけた。
◇◇◇
街の宿を見つけ、いつものようにふた部屋頼んだ。しかし。
「主人、すまぬがひと部屋キャンセルだ 。部屋はひとつしかいらぬ 」
後ろから姫君が口を挟んだ。
「ひ、姫君⁈ どういう事ですか? 」
「どうもこうもない。そう言う事だ 」
ニヤニヤ見てくる宿の主人の前では話ができない。仕方なく、とりあえずひとつの部屋に入った。
「姫君?あの、ルイス様とは、よろしかったのですか?仲睦まじくなさっていましたのに 」
訳が分からなくて、とりあえずそこから尋ねる。
「……していないからな 」
「は?」
「初めての口付けは、お前とやる」
「はい?……本当に、どうなさったのですか、姫ぎ、み……! 」
俺はドアに追い詰められ、片手をドアに当てた姫君に強い視線で見つめられた。
「あのような顔を見せられて、我が他のヤツと口付けなどできると思うのか? 」
そう言って、俺に唇を押し当てた。
「姫君っ……!何をなさいますっ‼︎ 」
俺はもう涙目だ。なんなんだ、いったい ⁈
「……それから?続きはどうすれば良いのだ?イグナス……。口付けをした後は、世の男女は、どのように絡むのだ? 」
姫君が、別人のような大人の顔で迫って来る……。どうしたらいいんだ⁈
「待ってください、姫君っ!訳を、訳を聞かせて下さいっ!私は訳がわかりませんっっ‼︎ 」
俺は必死に訴えた。
「…… お前が、泣きそうな顔をしたから。我はもう二度と、お前にあのような顔をさせたくない…… 」
サンドラ姫は、悲しげに言って、また、俺に口付ける。
「姫君……! 」
俺は堪える事ができなくなり、姫君を強く抱きしめた。
「なぜそのようなことを仰るのです……!私がどんな顔をしていようと、捨て置けば良いと言っていますのに……。 私では、貴女を求める資格がないのだがら……! 」
俺は絞り出すように呟いた。
「我は鈍感だな。小さい頃からお前より大切にしたいモノなどなかったのに、そんな意味も分からずにいた……。我はお前より可愛い男などいないし、お前が我を欲しいのなら、喜んでくれてやりたいと思う。そう思うのは、我がお前を好きだってことなんだろう?……だからもう婿探しはやめだ。我の婿になっていいのはイグナスだけだ 」
「姫君……しかし、許されるとは到底思えません…… 」
「良いではないか。許されないなら、また、お前とこうして剣の修行に出ればいい」
そして姫君は、ニヤリと笑って俺に近づき、俺の頬を両手で包んだ。
「そう言う事だから、さっきの続きをしようぞ。……イグナス、お前が我に男女のことを教えてくれ……出来ないと言うなら命令するまでだ 」
姫君は、俺が命令に決して逆らわないことをいいことに、再度唇を押し当てようと迫って来た……。
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