騎士姫と従者〜剣の修業と婿探しの旅

花野はる

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その視線の意味〜イグナス→サンドラ視点に変わります。

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「私の事など捨て置いて下されば良いのです。姫君を守り、誰よりも愛してくれる殿方が現れれば、私は距離を置いて仕える所存なのですから 」

いつも姫君が俺をセットにして婚活するせいで、おそらく纏まりかけた縁談も駄目になっているのだろう。

その気持ちは嬉しくもあるが、俺は姫君の足枷になりたくはない。

たとえ表の従者としての役割を終えても、影となりいつまでも姫君をお守りできるのだから、それでいい。

俺は自分に言い聞かせるように言ったのだが、姫君がピシャリとそれを否定なされた。

「何を言う。イグナスは我のモノだ。勝手に我から離れることなど許さぬぞ!結婚などそんなに急ぐこともあるまい。これからも我らが納得できる婿殿をじっくり選ぼうではないか。明日はどこに向かって旅するかのう……」

姫君の俺への執着がなんなのか分からないが、決して手に入れられない俺からすれば、その情が俺には辛くもあるのだ……。

「明日は明日の風が吹きましょう。夜も更けた事ですし、姫君はご自分のお部屋に戻られるがよろしいかと 」

俺はこのまま同じ部屋にいるのはマズいと思い、姫君に退室を促した。

姫君は少し黙ったまま、俺を見つめた。そして、「あい分かった」と部屋を出て行った。


◇◇◇ 

我は翌朝、窓から庭を眺めていた。

そこにはアレクとカスミが抱擁し合う姿があった。

見てはいけないものを見た気がしてベッドに戻る。

時々見る、アレクの熱がこもったような瞳。カスミを見る時だけ、何か違うと感じる。

それを考えると同時にいつもイグナスの顔が浮かぶ。

顔は断然イグナスの方がいいのだが、どこか、アレクのその視線と似ているように思うのだ。

我を見る時の視線に……。

いつもは弱々しくて守ってやりたいイグナスだが、そんな視線を向ける時だけは、違う人を見ている気になるから不思議だ……。
ああいうのは、一体何なんだろうな。

それに、時折、切ないような表情を浮かべて我を見ることもあるがーー。

イグナスは、我が婿を選んだら、我の前から消えてしまうのではないかと時折不安に感じる。あれは遠慮がちな男で、変に気を回す癖があるからな。決して我から離れぬように釘を刺しておいたが、よく気をつけておかねばならんな。

イグナスは我が結婚した後も、決して側から離しはしない。あれは我のお気に入りのモノなのだからな。それを許してくれる婿が見つかるまでは、ふたりで気長に旅を続けるのも悪くない。

さあ、今日はどちらへ向いて歩こうかーー。



アレクとカスミに暇の挨拶をしようと部屋を出て、階段の踊り場に立った時、聞き覚えのある人物の声が聞こえた。

「おーい!サンドラ~!どこだぁ?」

見ると、2年前だったか、我が国に留学に来ていたルイス王子ではないか!懐かしい!やつとは気が合いよく剣の試合をしたものだ。

我を見つけたルイスはニカっと笑って、「相変わらずじゃじゃ馬やってんなぁ~!」と言った。

我は嬉しくなり、階段の手すりを滑り降りた。

ルイスがアレクは格が違って、剣の上達には不向きだから俺が相手をしてやると言った。

此奴は留学時にも良きライバルだったし、性格もよく心得ている!
此奴なら、良き夫になるだろう!

「ならばルイス、お前が我の夫になれ! 」

そうして、ローランド邸を出て、ルイスの共と合流した。

「サンドラ、俺の馬に乗れ 」
ルイスが言うが、それは駄目だ。

「嫌じゃ。そこの共の者、お前がルイスと乗れ。そして、その馬を我に貸せ!」

我は共の者から強引に馬を取り上げ
た。

「姫君~!お待ち下さいませ~! 」
イグナスが荷物を抱えて走って来た。

「イグナス!遅いぞ!」

我は馬上から手を差し伸べて、イグナスを我の前に乗せた。

「申し訳ありません、姫君。邸の方たちに、お礼とお別れの挨拶を致しておりましたゆえ」

息を切らせながら、イグナスが言った。

「分かっておる」
我は、イグナスの頭を撫でた。

「お前はよく気がつく従者であるからの」

そう言って微笑むと、イグナスは少し頬を赤らめて「勿体なきお言葉」と呟いた。
まこと愛い奴じゃ。

「えーっ!それ見せつけといて、夫になれはないんじゃねーの? 」

ルイスが何やら言っているが構うものか。

可愛いものは、可愛いのだからな。
イグナスは本当に可愛い。


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