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たとえ姿を現せぬ影となっても

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翌日から姫君は、ローランド公爵を引っ張り回し、剣の修行に打ち込まれている。

お寂しそうな、カスミ様には大変申し訳なく思う……。

姫君は何度もローランド公爵に剣の相手をしてもらおうと挑まれるのだが、公爵は全く相手にしない。

「なぜ、我の相手をしないのだ?女だから馬鹿にしているのか? 」

ほっぺたを膨らませた姫は今日も言い募る。

「いいえ、決してそのような理由ではありません。私は女性には剣を向けない主義でして。いくら技術的に強くとも、女性の身体では鍛えても限界があります。そのようにハンデを負った者では、私には決して勝てませぬゆえ」

ローランド公爵は、チラッと俺を見て言った。

「姫君の代わりに、そちらの従者殿でしたら、お相手致すが、いかがかな?」

……やはり、俺を特別な護衛だと勘ぐっているようだな。

「ダメだ!イグナスには手を出すな!イグナスは我より弱いのだから。イグナスを守るためにも我は強くならねばならんのだ。さあ、余所見しないで我の相手をせよ! 」

そう言って、姫君がまた、公爵に剣を振りかざそうとする。

公爵は溜息をついて言った。

「ならば、私より、騎士団の騎士たちをお相手なさる方が良いでしょう。練習相手はいくらでもいますから 」

そう言って騎士団へ向かうことになった。

良かった。公爵と対峙すれば、俺が影だとバレてしまうだろう。それくらいに強い男だ。真正面から向かって勝てる相手ではない。わざと負けるにも、不自然なやり方では見抜かれる。

こうして、数日間騎士団で姫君は暴れ回った。

そんなある日の夜、姫君に嫉妬なさったカスミ様が、公爵の部屋にやって来たらしい。それを知らずいつものように姫君は夜襲をかけ、本気で公爵に制止されてしまったらしい。

俺は公爵が姫君を適当にあしらい、傷つける心配がないのを知っていたので、放置していたのだが、もうこれは潮時だと考えた。

「姫君、私は姫君が気に入った殿方ならば、協力を惜しまないつもりです。ですが、公爵殿はやめた方が宜しいかと。あの方は、カスミ様を心底愛しておいでです。私は姫君を誰よりも愛してくれる殿方でなければ姫君の伴侶にするのは嫌なのです 」

「……わかっておる。我はただ、一度アレクと剣を交えてみたかっただけじゃ。夫としてはすでに見限っておったけど」

そう言った後、姫君は溜息をついて言った。

「なかなかおらぬのう。我とイグナスを誰よりも愛し、我よりも強い良き男は 」

「姫君……。そのようなお考えでは、伴侶は見つかりませんよ……。私のことなど、捨て置けば宜しいのです。私は姫君を守り、愛してくれる殿方が見つかれば、距離を置いてお仕えする所存なのですから 」

そうなれば、表の俺は役目を終えて、完全なる影になるのだ……。
俺は胸がギュッと締め付けられたーー。


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