上 下
11 / 28

三度にわたる姫君とのデート〜アーロン視点

しおりを挟む

私は自分で言うのもなんだが、女性の方から交際を申し込まれることがよくあり、デートはそれなりに数をこなしている(真剣なお付き合いをするまでに至らなかったのは残念だが)。

だから、女性が好みそうなデートコースを姫君にも用意してみたのだが……。



1日目ーー。

観劇を見に行く。女性に人気の恋愛物を選んだのだが、姫君は途中で居眠りをしていらっしゃった。

終わった後で感想を尋ねてみたら、女が守られてばかりでつまらなかったとおっしゃった。

観劇の後で、女性に人気のカフェに入り、おいしい紅茶とケーキのセットをお出ししたのだが、姫君はそれをおいしそうに食べながらも、イグナス殿にも食べさせたかったと口惜しそうに感想を述べられた。イグナス殿は、甘いものがお好きなのだそうだ。


2日目ーー。

女性に人気のレストランにお誘いし、昼食を2人でいただいた。

姫君は、イグナス殿のにんじん嫌いなところや、肉よりも穀物類がお好きなところなどを、楽しそうにお話になりながらお食事を召し上がっておられた。

食事の後は商店街へお連れした。
姫君へ何か贈り物をしようとしたのだが、それよりも先に姫君は、イグナス殿に懐中時計のお土産を買っておられた。

私は少々心が折れそうになったが、もう1日だけデートにお誘いしようと最も姫君が喜びそうな催しを探し出した。


そして3日目ーー。

私は都内で催される、平民たちの武器を使わない格闘技の試合の見物に姫君をお誘いした。

姫君は、今までお誘いした中で一番乗り気な様子で、女剣士の格好で待ち合わせ場所へやって来られた。

「やはりこの出で立ちが、1番楽で良いのう。我はこういったデートが一番良いぞ。誘ってくれて感謝するアーロン殿」

「姫君が喜んでくださったのなら、光栄にございます。最も見やすい席を取ってございます。さぁご案内いたしましょう」

空手、柔術、拳法などを操り、屈強な男たちが試合を繰り広げている。

1番最後まで残った男は体が2メートルほどもあり、筋肉の鎧を着たような姿をしている。

騎士団でも、剣だけではなく組手も訓練するのだが、私は組手ではあいつに勝てるか自信がないな……。いや、そんな弱気では高貴な方々を守れない。更に精進しなければ。

私がそんな事を考えていると、姫君は目を輝かせながら話された。

「我が守ろうとしている民たちの中には、あのように屈強な者もいるのだな。もっともっと剣の腕を磨かなければ、イグナスでは、あのような男の前ではひとたまりもなかろうから、我が守ってやらねばな」

やはり、貴女がお守りしたいお方はイグナス殿でいらっしゃるのですね……。

私は、格闘技の後、喫茶店にお誘いする予定にしていたのだが、やめてイグナス殿が待つ、公園に戻ることにした。

公園に着くと、迎えの馬車の前でイグナス殿が深々と頭を下げ控えていた。


私は乗っている馬車から降りようとされる姫君に声をかけてお止めした。

「姫君。今日で三度ほどデート致しましたが、私とのデートはいかがでございましたか?」

「うむ。なかなかに楽しかったぞ」

姫君はにこりと笑って仰った。

「それはようございました。……それで、今でも姫君は、私を貴女様の夫にとお望みでございますか?」

「そうだな。お前はよく気が効くし何事もスマートにこなす良き男だ。イグナスが女慣れしているのを心配しておったが、我から見れば、それくらいでないと貴族の男は世渡りできぬであろうし、お前はモテるが遊び人ということもなさそうだ。我でなくとも、大勢のおなごがお前を欲するであろうな」

「……過分な評価を頂きまして、恐悦至極にございます。私も姫君とのデートは大変楽しゅうございました」

私は一呼吸おいて、本題を切り出すことにした。

「私は国と王家に忠誠を捧げた身。ですから例えふためと見られぬ醜女であろうと、百人の愛人をもつ阿婆擦れであろうとも、命令とあらば喜んでその相手と結婚し、大切に接する所存であります。ですからこのように美しく、民を思われる貴女様から望んでいただけるとあらば、私にはこの上ない喜びでございます」

私は一度、深呼吸をして続けた。

「ですが、ご命令でないのでしたら、私も相思相愛の妻を娶り、幸せな家庭を築きたく思います。私は案外ヤキモチ焼きでございますから。ですからどうか、私の質問で、私を選べないと仰るならば、どうか私を振っては頂けませんか?」

「……どのような質問だ?」

「貴女様の右側と左側に私とイグナス殿が敵と剣を交えていると致しましょう。どちらとも相手の方が格上で、今にも切り捨てられそうになっているとしたら、貴女はどちらに加勢いたしますか?」

「……すまぬ。それは少しの迷いもない事だ。だから強い者を我の婿にしようと思っている。自分の身は自分で守れる婿殿を」

「はっきりとお答え下さいまして、ありがとうございます。私の方が選ばれないのは分かっていましたが、せめてどちらも選べない、と言うお答えがあれば、私は貴女様のお心に入り込める努力をするつもりでした。残念ですが、そのような隙はひとつもないようでございますね。……デートは本日で最後ということに致しましょう」

「……そうか。お前がそう言うのなら仕方がないな。イグナスは我の兄弟であり友であり下僕なのだ。あれを見捨てることは、あるじとして、できはしないのだ」

「……姫君に相応しい、良き結婚相手が見つかりますよう、陰ながらお祈り致しております。どうか幸せな結婚をなさって下さいませ」

「ありがとう。お前は我が祈らずとも、良きおなごがすぐにできるであろうな。……達者で暮らせよ」

「勿体なきお言葉、感謝致します」

私は本音を言えば、姫君が、イグナス殿を選んだ上で、それでも私を夫にと命令されれば受け入れるつもりはあったのだが……。

貴女のイグナス殿に対する思いの正体に気づいた時、一体貴女はいかがな選択をされるのであろうか……。

普通ならば、到底叶わぬ身分差ではあるが、貴女ならばそれを覆す行動をお取りになるのかもしれませんね。貴女様が賢明な判断をなさる事を、陰ながらお祈りいたします。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

処理中です...