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姫君の認識がおかしい件〜アーロン視点⑵
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「姫君、よろしければお手をどうぞ」
俺は手慣れた手つきで姫君の手を取り、自分の肘に添えさせるよう誘導した。
「では、参りましょうか」
エスコートして、待たせてある馬車へと向かう。
いつも女剣士のような出で立ちのサンドラ姫は、今日は美しいドレスを身に纏い、薄化粧まで施されていた。
やはり、女性はこうしているのが、美しくて良いと思う。剣を振り回し、守り戦うのは男だけで十分だ。
馬車まで辿り着くと、姫君のお手を取り、馬車に乗るのをお支えした。
「このような服では、馬車に乗るのも一苦労だのう。いつもの服なら、馬に直接乗れて、便利だと言うのに」
不満げな姫君は、口を尖らせながら言った。
「おや。私のために、着飾って下さったのではないのですか?」
「我はいつもの格好で行くと言ったのだ。だが、イグナスがデートだから絶対ダメだと言うから仕方なく着替えたのだ」
「……そうでしたか。ですが、その姿は良く似合っておいでですよ。たまには姫君らしく着飾るのも女性には楽しいのではありませんか?」
「我は着飾ることなどに興味はない。興味があるのは剣の上達だけだからな」
馬車の席に座る姫君は、一応足を閉じ、女らしく座っている。
思わずクスリと笑ってしまった。
「何だ?」
姫君は訝しむように私を見た。
「いえ、てっきり姫君のことですから、おみ足を開いて、男のようにお座りになられるかと思っておりました。案外お行儀良く座る貴女様は、やはり王女としてのマナーを学んでいらっしゃったのだと安心致しましたよ」
「まあな。イグナスが、出かける前に散々女らしく振る舞うようにと口うるさく言って来たから、少しは言うことを聞いてやるかと思ってな」
「またイグナス殿ですか。姫君はたいそうイグナス殿を可愛がっておいでなのですね」
「ああ。今日も一緒に来いと言ったのに、デートに男の使用人が付いていくなどもっての他だと言いおってな。別に遠慮などしなくとも良いのに」
姫君は残念そうな口ぶりで言う。
さぞ、イグナス殿に付いてきて欲しかったのだろう。
「私はイグナス殿の良識に感謝しますよ。私より気になる男を側に侍らせながらのデートでは、私はちっとも楽しくなかったでしょうからね」
姫君は意外な者を見るような目で、私を見やった。
「お前はもっと心が広い男に見えたが、案外狭量ではないか。別に愛人を侍らせているわけでなし、イグナスは我の弟のようなものなのに」
「私は自分で言うのもなんですが、ご令嬢とはそれなりにお付き合いの経験がございます。ですが弟をデートに連れ歩く彼女と付き合ったことは一度もありませんよ?」
「それはそうだが……。イグナスはひとりにしておけば、誰かにいじめられてしまうやもしれぬのだ。気の弱い、優しい男だからな」
私は姫君の認識に唖然としてしまった。
「イグナス殿がいじめられる?あのように強い男がですか?」
「最近はかなり強くなったが、我よりずっと弱いのだ。我の剣の相手をするため眠る時間を削ってまで鍛錬したからそうなったが、幼き頃は同年代の者からいじめられていたようで、身体に生傷が絶えなかったし、友達らしい者もおらなんだのだ。遊び相手は我だけで」
姫君は切なそうな表情をなさって昔語りをなさった。
しかし、どうも姫君のいうことは腑に落ちない……。
影が薄く、小柄で凡庸な男ではあるが、一旦剣を交えてみればわかる。
あれはそんな弱々しい男ではないはずだ。
「姫君。前からお尋ねしたかったのですが、姫君のその素晴らしい剣を指南なさったお方はどなたで?たいそう有名な剣豪ではないかと推察致しますが」
「ああ、我の剣は独学だ。というか、小さな折より、イグナスと剣で遊んできただけという方が正しいか」
「姫君より弱い者が、よくそこまで剣を仕込めましたね。とても独学とは思えない技術でしたが」
「あれは我より弱い癖に、観察力と分析力、指導力はすごいのだ。だから我はここまで強くなったのだろう」
私は姫君の話を聞いて、何となくイグナス殿の立ち位置というか、お役目が分かってしまった気がする……。
俺は手慣れた手つきで姫君の手を取り、自分の肘に添えさせるよう誘導した。
「では、参りましょうか」
エスコートして、待たせてある馬車へと向かう。
いつも女剣士のような出で立ちのサンドラ姫は、今日は美しいドレスを身に纏い、薄化粧まで施されていた。
やはり、女性はこうしているのが、美しくて良いと思う。剣を振り回し、守り戦うのは男だけで十分だ。
馬車まで辿り着くと、姫君のお手を取り、馬車に乗るのをお支えした。
「このような服では、馬車に乗るのも一苦労だのう。いつもの服なら、馬に直接乗れて、便利だと言うのに」
不満げな姫君は、口を尖らせながら言った。
「おや。私のために、着飾って下さったのではないのですか?」
「我はいつもの格好で行くと言ったのだ。だが、イグナスがデートだから絶対ダメだと言うから仕方なく着替えたのだ」
「……そうでしたか。ですが、その姿は良く似合っておいでですよ。たまには姫君らしく着飾るのも女性には楽しいのではありませんか?」
「我は着飾ることなどに興味はない。興味があるのは剣の上達だけだからな」
馬車の席に座る姫君は、一応足を閉じ、女らしく座っている。
思わずクスリと笑ってしまった。
「何だ?」
姫君は訝しむように私を見た。
「いえ、てっきり姫君のことですから、おみ足を開いて、男のようにお座りになられるかと思っておりました。案外お行儀良く座る貴女様は、やはり王女としてのマナーを学んでいらっしゃったのだと安心致しましたよ」
「まあな。イグナスが、出かける前に散々女らしく振る舞うようにと口うるさく言って来たから、少しは言うことを聞いてやるかと思ってな」
「またイグナス殿ですか。姫君はたいそうイグナス殿を可愛がっておいでなのですね」
「ああ。今日も一緒に来いと言ったのに、デートに男の使用人が付いていくなどもっての他だと言いおってな。別に遠慮などしなくとも良いのに」
姫君は残念そうな口ぶりで言う。
さぞ、イグナス殿に付いてきて欲しかったのだろう。
「私はイグナス殿の良識に感謝しますよ。私より気になる男を側に侍らせながらのデートでは、私はちっとも楽しくなかったでしょうからね」
姫君は意外な者を見るような目で、私を見やった。
「お前はもっと心が広い男に見えたが、案外狭量ではないか。別に愛人を侍らせているわけでなし、イグナスは我の弟のようなものなのに」
「私は自分で言うのもなんですが、ご令嬢とはそれなりにお付き合いの経験がございます。ですが弟をデートに連れ歩く彼女と付き合ったことは一度もありませんよ?」
「それはそうだが……。イグナスはひとりにしておけば、誰かにいじめられてしまうやもしれぬのだ。気の弱い、優しい男だからな」
私は姫君の認識に唖然としてしまった。
「イグナス殿がいじめられる?あのように強い男がですか?」
「最近はかなり強くなったが、我よりずっと弱いのだ。我の剣の相手をするため眠る時間を削ってまで鍛錬したからそうなったが、幼き頃は同年代の者からいじめられていたようで、身体に生傷が絶えなかったし、友達らしい者もおらなんだのだ。遊び相手は我だけで」
姫君は切なそうな表情をなさって昔語りをなさった。
しかし、どうも姫君のいうことは腑に落ちない……。
影が薄く、小柄で凡庸な男ではあるが、一旦剣を交えてみればわかる。
あれはそんな弱々しい男ではないはずだ。
「姫君。前からお尋ねしたかったのですが、姫君のその素晴らしい剣を指南なさったお方はどなたで?たいそう有名な剣豪ではないかと推察致しますが」
「ああ、我の剣は独学だ。というか、小さな折より、イグナスと剣で遊んできただけという方が正しいか」
「姫君より弱い者が、よくそこまで剣を仕込めましたね。とても独学とは思えない技術でしたが」
「あれは我より弱い癖に、観察力と分析力、指導力はすごいのだ。だから我はここまで強くなったのだろう」
私は姫君の話を聞いて、何となくイグナス殿の立ち位置というか、お役目が分かってしまった気がする……。
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