上 下
4 / 28

戦女神のような姫君

しおりを挟む

サンドラ姫13歳、俺はもう20歳になったーー。



カン、カン、キンッ、カン……。

サンドラ姫と剣を交えながら、俺は姫君に見惚れていた。

燃えるような赤髪に深みのあるブラウンの双眸。

姫君は、炎が燃え盛っているような動きで俺に向かって来る。

まるで、戦女神ーー。

俺がそんな事を考え油断しているとーー。

ガッ ‼︎ 

俺の剣は手を離れ、空高く舞い上がった。そして、ゆっくり弧を描き、大地に突き刺さる。

「お見事でございます。姫君、ますますご上達なされましたね」

俺は片膝をつき、頭を下げて述べた。

「当然じゃ。イグナスなどに負けはせぬからな」

相変わらず姫君は胸を張って答えた。

俺は悔し紛れに、姫君にひとつ忠告をする事にした。

「なれど、姫君。最後の最後で油断なさっておいでです。そのような時が一番危ないのでございますよ」

俺が仕込まれているのは必勝の剣ではなく、必殺の剣である。

普通に貴族や騎士たちが振るう剣とは全くの別物。

もし、今のサンドラ姫が我が敵であれば、命が絶えていたのは姫君の方である。

「私の手から剣が離れた時、姫は剣の方に意識を取られましたね。私だからそれで済みましたが、本物の暗殺者であれば、わざとそのようにして、意識がそれた瞬間を狙って別の凶器が飛んで参ります。ですから先程の姫君がすべきことは、剣の行方を追うのではなく、私の喉元に剣を突き立てることです」

「負けたくせに堂々と正論を吐きおってからに。……だが、イグナスの言う通りだな。次は容赦せずイグナスの喉を狙ってやる」

姫君は剣の素質がある上に、とても真摯に向き合って訓練なさる。

だから俺も正統派の剣術では、わざと負けなくても油断すれば、このような結果になることが多々起きるのだ。

けれど主人を守る際にはどんな手を使っても相手を殺す必要があり、俺が実践で剣を振るう時には様々な武器との併用になる。

姫君は正統派の中ではかなり上をいくようになられたけれど、俺のような暗殺者に狙われることも想定しておかなければ。

姫君の性格を鑑みれば、いつ、危険の中に入り込んで行かれるかわかったものではない。

そんな時、万が一にでも悪の手に姫君が囚われでもしたら、男が拷問を受けるよりも酷い扱いを受けることになるだろう。

そんなことにならないように、姫君自身にもお強くなっていただくに越したことはない。

もちろん、絶対にそのようなことには俺がさせはしないが。

お美しく成長していく姫君を、ますますお守りしなければ、と俺は早朝、夜間に自分の鍛錬も怠らず続けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...