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表の顔は従者
しおりを挟む「サンドラ姫や、お前はもう知っておろうが、このイグナスを今日からお前の従者として与える。イグナスは護衛も兼ねているから常に侍らせ、出かける時も、必ずイグナスを連れて行くようにな 」
国王が俺を正式な影と認め、姫には従者として侍らせる事になった。
「サンドラ姫、私の命をかけて、姫をお守り致します。どうぞ、末永くお傍に置いて下さいますよう 」
俺は跪き、胸に手を当て礼をした。
「イグナス!下僕から従者に出世じゃな!お前は我より弱いのだから、命などかけなくても良い。お前は我が守ってやるぞ! 」
俺は影であることを隠してサンドラ姫に仕えるため、決して主人より強くあってはならない。
だから剣のお相手は、適当なところで上手く負けているのだ。
姫様はそれを知らないで、今でも俺を守ろうとしてくださる。
俺は嬉しさに心震えた。
「例え姫君より弱くとも、姫君が危機の折には私が盾となる事はできましょう。ですから私にも、どうか姫君を守らせて下さい 」
「相分かった!しかし、我が危機に陥る事などないように、これからも剣を磨く所存ゆえ、お前は我に付いていれば良いだけだ 」
「はい。どこまでも付いて参ります 」
そんなやりとりを聞いていた王妃様は、困った表情をして姫君に言った。
「サンドラはいくつになっても剣のことばかり言って、困った娘ですわねぇ、あなた 」
「そうだな、リンドル国の騎士姫になるのだから、良い事ではあるのだが……サンドラよ、そろそろそなたの婚約者も探さねばならぬ年頃になったのだ。少しは女性としての振る舞いも身につけねば婿の来てがないぞ? 」
国王が窘めるように姫君に言った。
「我は結婚などに興味はないのだ。ドレスなど、うっとおしくてたまらぬし、化粧も汗をかいても拭けぬから嫌いじゃ! 」
サンドラ姫は、10歳になられても、男のような格好をしていた。
王妃様はそのような姫の将来を案じて言った。
「我が国は、せっかく政略結婚などに頼らず武勇でこの国を維持していますのにねぇ、一生恋も知らないで、独り身で過ごすと言うの? 」
「我はひとりではないぞ。イグナスがいるのだから。どうしても結婚したくなったら、イグナスを婿にすればいいではないか 」
姫君はとんでもない事を言った。
俺は慌てて言った。
「姫君、それは有難きお言葉なれど、私は身分違いの身の上です。
どうか姫君に相応しい殿方と結婚し、お幸せになって下さい。私はそのためにできることは何でもいたしますから」
俺は自分で言いながら、胸がチクリと痛んだ。
俺は姫君だけを一生見て生きる。だが、決して求めてはならぬ影なのだ……。
「身分だの、結婚だのと面倒だのぉ~。ならば、我の婿は、我の剣の修行に役立つ強い者を選ぼうぞ。イグナス共々守ってくれる、良き男を探そうぞ。なあ?イグナスよ 」
「姫君…… 」
俺は姫君の言葉に胸がいっぱいだった。
姫君は、いつも俺を大切に扱ってくれる。姫にとって、俺はただの使用人のひとりに過ぎないと言うのに。
それは幼い姫君の仰ること。
特別な色恋などの感情でないのは分かっているが、普通の家族を持たない俺にとって、まるで家族のように大切にし、守ろうとしてくれる姫君が愛おしくてたまらない。
例え自分のものにならぬお方でも、俺がこの殿方なら任せられるという婿殿を見つけ、幸せにして差し上げたい。
こうして俺たちは、二人三脚でサンドラ姫の剣の修行と婿探しを始めるのだったーー。
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