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何者からもお守り致します。
しおりを挟む我が国リンドル王国は小さな島国だ。
だが、我が国は武に特化した貴族が多く、勇敢な民ゆえ、周りの大国にも侵略されることなく続いて来た。
俺の一族は代々国王に仕える隠密の一族だ。
王族の御子が誕生する度に、一族から選ばれし者が一生影として側に仕える。
隠密である事を知るのは王と王妃のみで、仕える主人には別の肩書きで侍っている。
俺は第三王女サンドラ姫がご誕生の折、7歳であった。
「イグナスよ、お前を第二王女サンドラ姫の影に任命する。これからは姫だけを見て生きろ。命を惜しまず守れ。けれど決して欲するな。わかったな 」
長より告げられた後は、地獄のような特訓が待っていた。
剣術・柔術・暗器・投擲・騎馬武術・水中武術……などの他、主人に会話を合わせられるための教養も仕込まれる。
姫が10歳になるまでに、一人前の影にならなくてはならないのだ。
それまでは、姫の遊び相手として短い時間の交流を持つが、それ以外は特訓である。
◇◇◇
姫が5歳、俺が12歳のある日。
その日は拷問に耐える訓練で、あちこち痛めつけられ、動くのがやっとだった。
水飲み場で水を飲んだ後、その場で動く気力が無くなり、座り込んだ。
なぜこんな目にあってまで、影にならなくてはならないのだろうと涙が浮かんでしまい、拭おうとした時だった。
「イグナス?どうしたのだ?……怪我をしているのか? 」
姫が後ろに侍女をふたり侍らせ、散歩に来たようだった。
「サンドラ姫……。何でもありません 」
俺は急いで涙を拭い、笑顔を作った。
「……泣いていたのか?誰かにいじめられたのだな。よし、我がやっつけてくるから、どいつがやったのか言ってみよ 」
「……姫君。そのようなお言葉、勿体のうございます。私は大丈夫ですから 」
俺がそういうと、サンドラ姫は小さな手をいっぱいに広げて俺を抱きしめて来た。
「泣くのを我慢するな。我はお前のあるじだ。我がお前を守ってやるから、安心して泣け 」
俺は、また涙が出そうになった。
5歳の小さな姫君が、俺を守ってくれると言うのだから。
しかし、後ろにいた侍女が姫君を咎めた。
「姫君!やんごとなきお方が、そのように異性に抱きつくなど、なさってはいけません‼︎ 」
「煩い!煩い!イグナスは我の下僕だ。我のモノに抱きついて、何が悪いのだ! 」
姫君は、ますます俺をギューっと抱きしめた。
ああ、このお方は……。
俺が命をかけるのに納得できる姫君だ……。
俺は姫君の手をそっと外し、土下座した。
「サンドラ姫、ありがとうございます。私はその優しきお言葉を決して忘れません。これからも姫の下僕として、心より姫にお仕え致します 」
「当然じゃ!お前はずっと、我のモノぞ! 」
姫君は高らかに宣言すると、窘めた方とは違う侍女に何やら声をかけた。
そしてこそこそとやり取りした後、俺の元に戻って来た。
「口を開けてみよ」
姫君は、綺麗な琥珀色の飴玉を、俺の唇に押し当てていた。
思わず口を開く。
つるん、と飴玉が滑り込んだ。
……甘い。
「甘いものを食べると、悲しい事など消えてしまうのだ。早く元気になって、また剣の相手をしてくれよ? 」
姫君はにっと笑うと
「ではな 」
と短く言い置いて、去って行ったーー。
◇◇◇
その日から、俺は受け身ではなく、自ら特訓を受けた。
何者からも、必ずや姫君を守ってみせるーー。
その想いから、どんなに辛い特訓にも耐えられた。
そして姫君が10歳、俺が17歳になったーー。
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