私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

文字の大きさ
上 下
46 / 48

混乱〜シリル視点

しおりを挟む

学園が夏休みに入り、俺はティリ村へ向かう馬車に乗っている。

卒業資格を得るために、魔力譲渡館の同意書が必要だから書いて欲しいと手紙を送ったところ、村長から魔力譲渡館では、お前に魔力をくれる者がいるかわからんから、わしが適した人を用意しておくから帰って来いと返事が来た。

俺がハーフエルフで、醜い色を纏っている事を告げた上で、それでも魔力をくれるという人を探してくれたのだろうか。さぞ大変だったに違いない。

俺は、そんな村長に報いるためにも、必ず良い成績で魔法実技をパスしてみせると心に誓う。


◇◇◇

懐かしいティリ村に着いた。

久しぶりの我が家同然の家。

俺がノックをすると、少し白髪の増えた村長が出迎えてくれた。

「おお、我が息子よ!よく帰ったな。待っておったよ」

随分久しぶりだからか。
村長が俺を息子だなんて呼ぶのは初めてで、なんだかこそばゆい。

「久しぶりです、村長。この度はお手を煩わせてしまって申し訳ありません」

俺は魔力をくれる人を探してくれたことに対してまずは謝った。

「水くさいことを言うな。お前はもともと家族同様に思っておったが、本当の家族になるんだからなぁ」

「?」

俺はなんのことかよく分からなかったが、村長に誘導されて家の中に入った。

「まずはお前を待ちわびている、リリアに会ってやってくれ」

「えっ?リリアが帰っているのですか?」

「ああ。前に手紙に書いただろう?もう意識が戻らないようなら、長くはない命だと。それなら、せめて、我が家で世話をしてやろうと連れ帰ったのだよ。さ、会ってやっとくれ」

リビングの隣の部屋に案内された。

懐かしいリリアの部屋だ。

扉を開けると、まるで眠っただけのようなリリアがベッドに横たわっている。植物状態と言うのが信じられないほどの顔色の良さだ。
それなのに、もう長くはない命だというのか。なぜ、俺の大切な人たちがこうも次々と……。

俺が悔しさを滲ませながらリリアを見つめていると、深妙な態度の村長が言った。

「神父様がな、唯一の望みは、リリアの眠りを覚ます王子様のキスが効くかもしれんと言うのだ。リリアは小さい時からお前に懐いていただろう?だから、シリルよ、お前がリリアを目覚めさせてやってくれ。ついでにリリアから、しっかり魔力を分けてもらうといい」

「えっ、じゃあ、魔力をくれるというのは、まさかリリアのことだったのですか?」

俺は吃驚して村長の顔を見た。

「一番の適任者ではないか。この通り、リリアは平民には珍しい魔力持ちなのだから」

村長の言葉に俺は愕然とした。

「そんな、できませんよ、そんなこと!リリアは俺の大切な妹のような存在です。しかも、本人が植物状態で自分の意思も伝えられないのに、勝手に魔力をもらうなんて。そんな酷いことをするくらいなら、嫌がられながらも魔力譲渡館で他人から貰いますよ!」

妹に口付けなんてできる奴はいないだろう。いや、実の妹ではないのだが。俺は幼馴染と言うより妹としての認識に近いリリアに不埒な行為をする気にはなれなかった。

「……だそうだ、リリア。やはりこの作戦ではお前の目論見通りにはいかないようだぞ。わしは初めからシリルならそう言うだろうと言ったじゃないか」

村長がリリアに向かって語りかけると、なんとリリアが口を尖らせて瞳を開いた。

「リル兄さんたら、人が良すぎだよ!魔力がいるなら、遠慮せずやっちゃえば良かったじゃない。私とリル兄さんの仲なんだから、私が嫌がる筈ないでしょう」

「リリア⁈  目覚めていたのか?」

あまりにハキハキ喋るリリアに面食らう。

すると村長が返事をした。

「実は、3月頃突然目覚めてな。教会から緊急の連絡が来て、急いで駆けつけたら、此奴ははじめの一言を何と言ったと思う?『おじいちゃん、リル兄さんが帰って来たら、私、リル兄さんのお嫁さんになるから』だぞ。そりゃあ、たまげたわい」

俺は唖然としてその言葉を聞いていた。何がどうなって、そんな話に?

「まあ、シリルも長く馬車に揺られて疲れておるだろう。昼が近いし、わしは昼食を用意しておるから、ふたりでつもる話でもしておれ」

そう言って村長はキッチンに向かった。

リリアはベッドに上半身を起こし、ベッドサイドに足を垂らすようにして座った。

瑠璃色の瞳を細めて言う。

「リル兄さん、お帰りなさい」

「あ、ああ。……驚いたな、身体を起こせるまでに回復したんだな。どこか痛いところとかないのか?」

「大丈夫。まだ少しぎこちない感じがあるけど、もう歩けるし、身の回りのこともできるのよ」

「そうか。それは良かったな」

俺はリリアの頭をなでて言った。

「……リル兄さん、私の魔力をあげる。欲しいだけ、吸い取って」

リリアは俺を迎え入れるように両手を広げた。

「しかし…… 」

俺はリリアに口付けて唾液を貰うことに、やはり罪悪感のようなものを感じる。それに、ユリに対しても。

躊躇って動かない俺をみて、リリアは溜息をついて言った。

「やはり、私では妹みたいで駄目なのね。分かったわ、じゃあ、呼び方を変えましょう。…… シリル君、私にキスして」

「えっ」

「私、百合だよ、シリル君」

「ユリ……?リリアが、ユリなのか?」

「正確には、百合は私ではないの。ずっと昔に生きた私よ。でも、リル兄さんにプロポーズをされたのは間違いなく私だから。あの時は器がないかもしれなくて、返事ができなかったけれど、今ならできる。私、あなたのお嫁さんになるわ」

リリアが言っていることは、頭では理解できるのだが感情が理解出来ない……。

「じゃあ、俺は、妹のようなリリアに、愛してると言ったり、プロポーズしたりしたって言うのか……。穴があったら入りたいんだが」

ユリがリリアと知っていたら、絶対にそんなことはしなかった。

「ねえ、キスしてはくれないの?シリル君」

「やめてくれ!その姿でその呼び方をしないでくれ……!」

「えー」

リリアはまた唇を尖らせているが、俺には心の整理が必要だ。



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ
恋愛
 私、ミリアリア・フォン・シュツットはミターメ王国の第一王女として生を受けた。この国の外見の美しい基準は、存在感があるかないか。外見が主張しなければしないほど美しいとされる世界。  そんな世界で絶世の美少女として、我儘し放題過ごしていたある日、ある事件をきっかけに日本人として生きていた前世を思い出す。あれ?今まで私より容姿が劣っていると思っていたお兄様と、お兄様のお友達の公爵子息のエドワルド・エイガさま、めちゃめちゃ整った顔してない?  今まで我儘ばっかり、最悪な態度をとって、ごめんなさい(泣)エドワルドさま、まじで私の理想のお顔。あなたに好きになってもらえるように頑張ります! -------だいぶふわふわ設定です。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

処理中です...