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混乱〜シリル視点
しおりを挟む学園が夏休みに入り、俺はティリ村へ向かう馬車に乗っている。
卒業資格を得るために、魔力譲渡館の同意書が必要だから書いて欲しいと手紙を送ったところ、村長から魔力譲渡館では、お前に魔力をくれる者がいるかわからんから、わしが適した人を用意しておくから帰って来いと返事が来た。
俺がハーフエルフで、醜い色を纏っている事を告げた上で、それでも魔力をくれるという人を探してくれたのだろうか。さぞ大変だったに違いない。
俺は、そんな村長に報いるためにも、必ず良い成績で魔法実技をパスしてみせると心に誓う。
◇◇◇
懐かしいティリ村に着いた。
久しぶりの我が家同然の家。
俺がノックをすると、少し白髪の増えた村長が出迎えてくれた。
「おお、我が息子よ!よく帰ったな。待っておったよ」
随分久しぶりだからか。
村長が俺を息子だなんて呼ぶのは初めてで、なんだかこそばゆい。
「久しぶりです、村長。この度はお手を煩わせてしまって申し訳ありません」
俺は魔力をくれる人を探してくれたことに対してまずは謝った。
「水くさいことを言うな。お前はもともと家族同様に思っておったが、本当の家族になるんだからなぁ」
「?」
俺はなんのことかよく分からなかったが、村長に誘導されて家の中に入った。
「まずはお前を待ちわびている、リリアに会ってやってくれ」
「えっ?リリアが帰っているのですか?」
「ああ。前に手紙に書いただろう?もう意識が戻らないようなら、長くはない命だと。それなら、せめて、我が家で世話をしてやろうと連れ帰ったのだよ。さ、会ってやっとくれ」
リビングの隣の部屋に案内された。
懐かしいリリアの部屋だ。
扉を開けると、まるで眠っただけのようなリリアがベッドに横たわっている。植物状態と言うのが信じられないほどの顔色の良さだ。
それなのに、もう長くはない命だというのか。なぜ、俺の大切な人たちがこうも次々と……。
俺が悔しさを滲ませながらリリアを見つめていると、深妙な態度の村長が言った。
「神父様がな、唯一の望みは、リリアの眠りを覚ます王子様のキスが効くかもしれんと言うのだ。リリアは小さい時からお前に懐いていただろう?だから、シリルよ、お前がリリアを目覚めさせてやってくれ。ついでにリリアから、しっかり魔力を分けてもらうといい」
「えっ、じゃあ、魔力をくれるというのは、まさかリリアのことだったのですか?」
俺は吃驚して村長の顔を見た。
「一番の適任者ではないか。この通り、リリアは平民には珍しい魔力持ちなのだから」
村長の言葉に俺は愕然とした。
「そんな、できませんよ、そんなこと!リリアは俺の大切な妹のような存在です。しかも、本人が植物状態で自分の意思も伝えられないのに、勝手に魔力をもらうなんて。そんな酷いことをするくらいなら、嫌がられながらも魔力譲渡館で他人から貰いますよ!」
妹に口付けなんてできる奴はいないだろう。いや、実の妹ではないのだが。俺は幼馴染と言うより妹としての認識に近いリリアに不埒な行為をする気にはなれなかった。
「……だそうだ、リリア。やはりこの作戦ではお前の目論見通りにはいかないようだぞ。わしは初めからシリルならそう言うだろうと言ったじゃないか」
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「リル兄さんたら、人が良すぎだよ!魔力がいるなら、遠慮せずやっちゃえば良かったじゃない。私とリル兄さんの仲なんだから、私が嫌がる筈ないでしょう」
「リリア⁈ 目覚めていたのか?」
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俺は唖然としてその言葉を聞いていた。何がどうなって、そんな話に?
「まあ、シリルも長く馬車に揺られて疲れておるだろう。昼が近いし、わしは昼食を用意しておるから、ふたりでつもる話でもしておれ」
そう言って村長はキッチンに向かった。
リリアはベッドに上半身を起こし、ベッドサイドに足を垂らすようにして座った。
瑠璃色の瞳を細めて言う。
「リル兄さん、お帰りなさい」
「あ、ああ。……驚いたな、身体を起こせるまでに回復したんだな。どこか痛いところとかないのか?」
「大丈夫。まだ少しぎこちない感じがあるけど、もう歩けるし、身の回りのこともできるのよ」
「そうか。それは良かったな」
俺はリリアの頭をなでて言った。
「……リル兄さん、私の魔力をあげる。欲しいだけ、吸い取って」
リリアは俺を迎え入れるように両手を広げた。
「しかし…… 」
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「やめてくれ!その姿でその呼び方をしないでくれ……!」
「えー」
リリアはまた唇を尖らせているが、俺には心の整理が必要だ。
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