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学園祭当日〜シリル視点
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アルフォレドッグのユリが、キラキラと瞳を輝かせながら、俺の話に食いついて来た。
「ああ。夏季休暇に、ユリを楽しませてやれなかったお詫びにと思って」
(そんなこと、私は私なりに楽しんだから、気にしなくていいのに……。でも、シリル君の白雪姫見たい~!)
ユリまで俺の女装がみたいのか?
何がそんなに面白いんだか……。
「初めは学園側も、動物の連れ込みに難色を示したようだが、よく躾けられている上、希少種のアルフォレドッグだと言う事で、先生方も見たいとなって、ちゃんと責任持って誰かがつきっきりで管理すればいい、とお許しが出たそうだ。もちろん、その管理者は俺だよ」
(ありがとう!シリル君!私めちゃくちゃ楽しみだよ!)
◇◇◇
ユリはメイベル様の飼い犬と言うことにしているので、前日から預けてほしいとメイベル様に言われた。
俺はユリの事が心配でたまらなかったが、ユリはしばらくアンダーソン家にいたのだから大丈夫だよと言って連れて行かれた。
学園祭当日、ユリは綺麗に洗われ、香油で毛並みがつやつや光っていた。ユリの体はオス犬なのだが、何故か真っ赤なリボンで飾り立てられていた。
俺は心の中でユリに語りかける。
(ユリ……!昨夜は大丈夫だったか?)
すると、意識だけでも伝わったようで、
(めちゃくちゃ洗われたけど大丈夫だよ!)と返事が返ってきて驚いた。
俺の方も、話さなくてもテレパシーで伝わるのだな。
意識だけで会話をしていると、メイベル様がこっそりユリに向かって言った。
「いいこと、今日はわたくしの犬なんだから、絶対粗相しないでよ。アーサー様の側に立っているだけでいいのだから。後はアンタが好きなシリルに抱っこしてもらって、学園祭を楽しんでくればいいんだからね。ほんと、こんな姿になってまで、シリルにつきまとってバカよね、ユリは」
メイベル様はあんなもの言いをしながらも、メイベル様らしい優しさでユリを見ているように感じた。
学園祭前で、前生徒会長のジークフリード殿下と、前副会長のイスマイル様が引退された。
この学園祭を取り仕切るのは、新生徒会長のミレーユ様と新副会長のフリードリヒ様だ。
学園祭の開会式で、新旧の会長副会長たちが挨拶をして交代を宣言した。
自信なさげだったミレーユ様は、今はしっかりと前を見て挨拶されていた。噂によると、ミレーユ様のご卒業を待って殿下は立太子し、ご成婚の運びになるらしい。
この世界では、貴族令嬢は16歳で結婚する人が多く、遅くても二十歳までには嫁がなければ行き遅れとの謗りを受けてしまうから、早いご結婚でもないのだが、若いうちから王太子妃の責務を負うのは大変だなと思った。
新・副会長のフリードリヒ様は第一王子派の派閥の貴族のご子息で、将来はイスマイル様の腹心の部下となる方らしく、寡黙で目立たないが優秀らしい。
ミレーユ様が苦手な場面では、前に出る器量を持ち、上手くサポートされているようだ。
これなら来年の学園祭まではしっかりと生徒会を取り仕切って下さるだろう。
俺はそんな話をテレパシーでユリに解説しながら開会式を眺めた。
(貴族って、お気楽に見えて大変だよねー。シリル君が平民で良かったわ。でなきゃ得体の知れない私はシリル君の側にはいられなかったかも知れないもの)
ユリはケージの中から俺に感想を伝えて来た。
(ユリは得体が知れなくなんかないよ。ユリはユリなんだから。だけど、貴族がしきたりで大変だっていうのはゼンさんも言ってたな。きっとアーサー様とメイベル様も、卒業したらすぐにでもご結婚されるんだろうな)
結婚=一人前とみなされるから、貴族は若いうちから立派に振舞わなければならないのだろう。
(それでも……いいなぁ……。私にも、シリル君のお嫁さんになれるような器があればいいのに……)
ふいに聞こえたユリの想い。
これは俺に伝えて来たものではなく、本音が漏れてしまったのだと察する。
ユリのテレパシーは、犬の精霊のようなものがコントロールしているらしく、たまにこう言った誤作動が起きるのだ。
俺は大体それが伝えて来たものではないと分かるので、そんな時は聞こえないフリをすることにしている。
俺の想いもユリに伝わらないよう気をつけながら心で答えた。
……俺が妻にしたいと思う人も、ユリだけだよ、と。
◇◇◇
切ないユリの想いに俺の胸は傷んだが、それでも学園祭が始まると、ユリはキラキラと瞳を輝かせていた。
(可愛い!シリル姫!素敵だよっ!思っていた通りよく似合う!)
俺の女装に喜び、かつてクラスメートとして過ごした友人達の楽しげな雰囲気に、一緒になって楽しんでいた。
そしてついに赤組の劇が始まる時間になった。
(ユリ、大丈夫か?緊張してないか?お腹は痛くないか?)
俺はもしも子供がいたら、こんな風に心配するのだろうかという程でユリを心配した。
けれど、ユリは無邪気に行ってきます!と張り切って舞台に上がって行った。
モテる男前のアーサー様と、珍しいアルフォレドッグの登場に、観客からは歓声が上がった。
勇者の冒険物語だったはずなのに、ユリが犬芸をしてみせ、ふたりの息がぴったりだ。少し妬けるな。そう思ってメイベル様をなんとなく見たら、彼女から黒いオーラが立ち上っていた。
嫉妬なのか、メイベル様の犬としての品格を問われているのか分からないが、早く俺の元へ帰ってきてくれと俺は青ざめながら祈った。
劇は大好評のようで無事にユリが帰って来た。けれどメイベル様に連れ去られ、何やら説教されていた。
(ユリ、お疲れ様。大丈夫かい?)
(ありがとう!シリル君!楽しかったよ。学園祭、誘ってくれてありがとう!)
こうして、賑やかな一日が無事に終わった。
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