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アルフォレさんとの出会い
しおりを挟む私は今、白い狸を小さくしたような姿になっている。
この世界にいる、珍しい動物で、アルビノ・フォレスト・ドッグ(アルフォレドッグ)と言う生き物だ。大きさは、小さめのチワワといった程度か。
その動物は、森の中で稀に見るため、神の使いとか、霊性の高い動物とか言われている。
なぜ、そのような生き物に入ることができたかと言うとーー。
私はしばらくカナブンの中にいたのだけれど、カナブンの成虫は一ヶ月ほどしか生きられないから、ずっと体を支配しているのが申し訳なく、私は魂だけになって次の器を探していた。
(今回はシリル君に心配かけないように伝えてある)
近くにある小さな森に入って、いろいろな生き物に入って試してみた。
そして分かってきたことがある。
一旦器に入ってしまうと、出たり入ったり出来ないようで、一度出てしまうと同じ器には入れない仕組みのようだ。
それに頻繁に器を変えると魂が疲弊するのを感じる。
だから次に入るのは、できるだけ寿命が長くて、移動可能な生き物に入るのがベストだ。長い時間探しているのだけれど、なかなかいない。
そろそろシリル君が学園から帰る頃だし、今日は適当なものに入って帰るしかないな。
そう思って私はトカゲに入ったのだけど、これではここからシリル君の下宿先まで帰るのが大変だと溜息をついた。
するとその時しっぽを何者かに掴まれた。
振り返って見ると、白い小型の狸がいる。ご馳走を前にしたように、舌なめずりをしているではないか。
(えっ?私を食べようとしてる?ちょっと待って!狸さん‼︎ )
私は心で叫んだ。
〈おや、変わったモノが入っているね?君は誰かな?〉
その白い小型の狸は念で語りかけてきた。
(狸さん、喋れるの?私、どうしてもシリル君の元に帰らなきゃならないから、食べないでくれる?)
〈なんと。お前はそのような所にいるが、ニンゲンではないか。何か訳ありじゃな?〉
話が出来そうな狸さんなので、私のこれまでの話を語って聞かせた。
〈なるほど。幽霊になっても執着する程の男がいるのだな。だが、お前に幽霊のような邪な気を感じんがな〉
白い狸は私をまじまじと見つめて言った。
(とにかく!ここであなたに食べられちゃったら、シリル君が心配するから離してくれない?私、次に入れる器を探さなきゃならないし)
〈そう言うことならわしの体を貸してやろう。わしは寿命がまだまだあるし、小さいから男の部屋に隠れて暮らすのも訳なかろう。美味いものを食わせてくれて、運動もさせてくれて、安全な場所で眠れるならわしには好都合だ。しばらく奥で眠っていてやろう〉
そんなやりとりがあって私は冒頭の状態になっているのだ。
「さて、シリル君の元へ帰らなきゃ。この姿なら走って帰れば明日朝までには着くよね?」
私は森を駆け抜け人里に出ようとした。
〈お前さん、日が暮れるまで待ちなされ。その姿でニンゲンに見つかると、捕らえられて彼の元へは行かれんぞ〉
狸さんからメッセージが聞こえてきた。
起きている動物と一緒にいられるなんて凄いな。この狸さんは只者じゃないわ。
私がそう思っていると、狸さんは言った。
〈さっきから、わしの事をたぬきとか読んでおるが、わしはニンゲンからはアルビノ・フォレスト・ドッグーーアルフォレドッグと呼ばれておるのじゃ。希少種ゆえ、神の使いとか言われとる〉
私の思考も読まれてしまうらしく、狸さんは自分の種類を教えてくれた。
(それじゃあ、あなたのことはアルフォレさんって呼ぶわね。しばらく体をお借りします!ありがとう、アルフォレさん)
私はアルフォレさんに念を飛ばした。
◇◇◇
私はアルフォレさんの忠告に従って、日が暮れるまで待っていた。
すると、私の愛しい人の声が聞こえるではないか。
「ユリ~!ユリ~!どこだい?迎えに来たから、いたら出て来ておくれ~」
だんだん愛しい人の声が近づいてきた。
私は嬉しくなって、その人の前に躍り出る。
「うわっ!……アルフォレドッグ⁈ もしかして、ユリなのか……?」
私はシリル君の足元に、猫のようにスリスリと甘えてみせた。
(ああ!好き!大好き‼︎ シリル君!迎えに来てくれるなんて、嬉し過ぎて死にそう!)
「……え? 」
シリル君は私を見て固まった。
けれどすぐ、優しい顔になって言った。
「学園から帰っても、ユリがいないから、小さな虫にでも入って帰るのに困っているんじゃないかと心配になったんだ。こんな珍しい動物になってるなんて驚いたよ」
そう言って私を抱き上げてくれた。
(わあ!シリル君に抱っこされてる!嬉しい!好き‼︎ )
「……自転車で来てるんだ。片手抱っこになるけど、絶対落とさないから心配しなくていいからね?」
そう言って、シリル君は自転車を止めてある場所へ向かって歩き出した。
(シリル君が私を落としたりするわけない!全面的に信用してるから大丈夫だよ!それに、シリル君になら、落とされたって怒らないわ。好き過ぎてどうにでもしてって感じだよ!)
「……ユリ、その、すごく嬉しいんだけど、さっきから君の思考が全部聞こえてしまっているよ?どうにでもしてなんて、男に言っちゃダメだからな」
シリル君は頬をほんのり染めて私に言った。
(へっ⁈ 何⁈ 私のシリル君愛がダダ漏れなの⁈ じゃあ、この姿になれたから、犬のフリしてシリル君を舐め回してやろうとかの野心まで知られたの?)
シリル君はますます顔を赤くして言った。
「……いや、その野心は今初めて知ったよ。ユリは意外と積極的な人なんだね。君が人型でなくて良かったかもしれないな。俺、君が人型なら抑制するのが大変だったと思うよ」
(抑制?それを言うならこっちの方かも。今すぐでもシリル君に飛びついて、匂いを嗅いで、ほっぺを舐め回して、耳を甘噛みしたいのに。抑制するの大変なんだから……ってあわわ、これも聞こえちゃう⁈ 困るよ、こんなの。恥ずかし過ぎて死ねるよ~)
シリル君は今度はブハッと吹き出して笑った。
「……ユリ、ありがとう。そんなに俺を好きでいてくれるなんて思わなかった。嬉しいよ」
シリル君は、私の毛むくじゃらの首あたりにチュッとキスしてくれて、片手抱っこで自転車を走らせた。
(わー!シリル君のキス嬉しい!腕の中もサイコー!好き!イヤ~っ!聞かないで~!恥ずか死ぬ~!でも好き~!イヤ~っ!死ぬ~!恥ずか死ぬ~!)
私は大パニックになりながら、下宿先まで連れて帰られた。
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