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休日デートで
しおりを挟む今日は、シリル君の授業がお休みの日だ。
シリル君が部屋に篭ったままでは辛いだろうと、私を自然公園に誘ってくれた。
私はクルクルと丸を描くように飛んでOKを伝える。
(キャー、シリル君と初デート♡ )
シリル君は、管理人さんにレンタル料を納めて自転車を借りて来た。
「ユリ、申し訳ないけど、公園に着くまでは、危ないから虫かごに入っててくれるかい?」
そう言って、シリル君は虫かごの入り口を開けた。
虫かごも管理人さんが持っていて貸してくれたらしい。
借りる際、まだまだ子供だねぇと笑われてしまったそうだ。この間の鉢を借りた件と言い、最近、私のせいで、シリル君の趣味とか誤解されていそうで申し訳ない。
私はそんな懺悔の気持ちもあって、素直に虫かごに入った。
シリル君は自転車の前に虫かごを固定すると、軽快に走り出した。
私はワクワクしながら虫かごから景色が流れるのを見ていた。
30分ほど行ったところで、公園に着いたようだ。
「ユリ、着いたよ。今から籠から出すけれど、絶対に俺の側から離れないでくれよ。鳥にでも攫われたら、大切な俺の姫君を奪い返すこともできないからね」
シリル君はそう言って虫かごの入り口を開けてくれた。
私はシリル君から離れないように、彼の周りをクルクル飛び回る。
「分かってくれたんだね。じゃあ、中へ入ろうか」
シリル君が受け付けで入場料を払っている時は、彼の頭に乗って隠れた。
村で育ったシリル君は、木の名前や花の名前をよく知っていて、私に語りながら歩いてくれた。
私は時折木に止まり、甘い樹液を吸って大満足。シリル君がいつもくれる果物も美味しいけれど、本来の食事はこれだから。
私が樹液を吸っている間も、シリル君は敵に攫われないように、周りに気を配って見守ってくれる。
(シリル君が姫君を守る騎士様みたい。姫君はこんな虫ってのが辛いけど)
私たちはあちこち散策した後、シリル君のお昼ご飯の時間になった。
「ユリ、食事の間、君を見失ったらいけないから、カゴに入って休んでいてくれるかい?」
私ははしゃぎ過ぎて疲れていたので素直に虫かごに入り、うとうとと軽い眠りに落ちた。
どのくらい経ったのか、ふと気がついてシリル君を見ると、彼はベンチにもたれたまま目を瞑って眠っている。
(わあ、明るい中で見る、シリル君の寝顔……! 好きだなぁ)
私は眠っているシリル君に念を飛ばす。
(シリル君、私の大好きなシリル君。今日はデートに誘ってくれてありがとう!とっても楽しいよ!……ところでシリル君、もうすぐ夏季休暇に入るよね?シリル君はお休みはどんな風に過ごすの?)
この世界は日本ほど四季がハッキリしていないけれど、夏にはひと月ほどの休暇があるのだ。シリル君は村へ帰るのかもしれないと思って聞いてみた。
私がメッセージを入れ終わると、シリル君は浅い眠りから覚めたようだ。
「ユリ、楽しんでくれてて良かったよ。俺もひとりでこんなところへ来ても、楽しくもなんともないだろうが、ユリがいてくれるから楽しいよ」
シリル君は優しく微笑みながら、虫かごから私を出してくれた。
「この前、殿下に呼び止められてね。ユリが、殿下と約束してくれていたんだろう?俺の研究費用を出す代わりに、ミレーユ様の事引き受けたんだって。まだ、俺はお礼を言っていなかったな。……ありがとう、ユリ」
シリル君は人差し指を立てて私が止まるのを待っているみたいだ。私は指先にちょこんと止まる。
「それで、殿下は来年は卒業していないから、近いうちにお金を俺の口座に振り込んでおくと言ってくれたんだ。研究に関することなら、自由に使って構わないって。だから俺、夏季休暇は村へ帰らず研究を始めようと思ってる。今年と来年の休みを研究に当てて、卒業論文にするつもりなんだ」
(流石シリル君!しっかりしてるな~。私も何か、手伝えるといいな)
私がそう思っていると、シリル君は少し遠い目をして言った。
「去年の夏休みは村に帰って農作業を手伝ったんだがな。リリアも相変わらずの眠り姫らしいし、村長も勉学を優先すれば良いと手紙をくれたんだ」
そう言えば、詳しく聞いたことがなかったけれど、村にはシリル君の幼馴染がいるんだっけ。眠り姫って、寝たきりの病気か何かなのかしら?
また今度、シリル君の生い立ちとか村での暮らしなんかも聞いてみたいなぁ。でも、エルフのお父さんのことなんかは話したくないかも?
いつか、自分から話してくれるまで、聞かない方がいいのかな。
私はシリル君の事は、何でも知っていたいけど……。
私がつらつらと考えていると、シリル君がそろそろ戻ろうか、と声をかけてきた。
私は飛ぶのが疲れたので、シリル君の肩に乗って移動した。
しばらく進むと、木の茂みにふたりの男女の姿が見えた。何やら艶かしい声が聞こえる…… 。
ふたりは抱き合って、濃厚なキスを交わしていた。
(こんな他人が通るような場所でやってんじゃないわよ!)
見たものの方が恥ずかしくなるヤツじゃん!私は思わずシリル君の横顔を見てしまった。
シリル君は頬を染め、視線を落としてその場を足早に通り過ぎた。
その後、なんとなく気まずい空気が流れたが、どのみち私は喋れないし表情にも出ないから平気だ。
出口から出たシリル君は、いつもの顔に戻っていて私を虫かごに誘導した。来た時みたいに自転車に虫かごを固定すると、帰るため走り出した。
私は流れる景色を見ながら思う。
(ああ言うのを見てしまうと、シリル君に申し訳ないと思ってしまう。私はシリル君といられるだけで幸せだけど、男の人ってそれだけじゃ辛いんじゃないかな?私に、シリル君を満たしてあげられる若い女性の器があれば良いのにな)
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