私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

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シリル君を心配している間に、いろいろ片付いていた件

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私は昼食を急いで取ると、生徒会室に向かった。

ノックをすると、殿下の声で「入れ」と声がした。

「失礼しま……す?」

私は入室するなり、意外な組み合わせに驚いた。

そこにはイスマイル様がいるとばかり思っていたのに、殿下に寄り添うように居たのはミレーユ様だったのだ。

「あ、あの……?」

私は何と挨拶して良いかも分からず戸惑っていると、ミレーユ様が私に話しかけて来た。

「メイベル様、私のために、大変な苦労をかけました。ごめんなさいね、そして、ありがとう」

「へ?」

私は何のことか分からず、令嬢らしからぬ声を発して、ミレーユ様を見た。

「わたくし、甘えておりましたわ。あなたたちに比べれば、わたくしの立場のなんと恵まれたことか」

はあ?一体何のこと?

ミレーユ様は私の不審な表情に構うことなく続けた。

「わたくしは、ジェファーソン公爵家に生を受けた時から、殿下の許嫁であったのです。ですから幼き頃より殿下と交流がありました」

ひえ~っ、流石やんごとなきお方は、生まれながらに嫁ぎ先が決まってしまうんだ、日本人のおばさんの感覚から考えると恐ろしさを感じるわね。

「幼き頃は、殿下はまるで姫君のようにお美しく、わたくしは自分が器量好しではなかったこともあり、殿下に憧れ、慕っておりました。殿下はすくすくとお育ちになると、まるで天女か女神の如き美しさに。わたくしは一層の憧れと尊敬の念を抱き、一生この方にお仕えしたいと考えておりました。けれど、ある時、あらためて殿下が、わたくしにプロポーズして下さった時、男性として意識してしまったのです。その時、わたくしと殿下が寄り添う場面を想像して愕然としました」

殿下……小さい頃から神々しいかぐや姫みたいな人だったんだなぁ~

「ミレーユ、私はプロポーズするまで、男としてすら見られていなかったのか?またひとつ、自信を失ってしまったぞ」

殿下は拗ねたようにミレーユ様に言った。

「ごめんなさいね、殿下。わたくしは、美しい姉に懐いているようなおなごでありましたの。男女で寄り添うなんて、想像もしていなかったというか……いえ、許嫁と知っていたのですもの、ワザと考えないようにしていたのやもしれませんわ。だから殿下を男性として意識した途端、急に自分の容姿が気になり、人前に立つことも、殿下の隣に立つことも恐ろしくなってしまったのですわ」

「ミレーユ様の心の様は、よく分かりました。けれど、それがなぜ、今このように仲睦まじく寄り添っておいでで?」

私は一番知りたいところを尋ねた。

「わたくしは、記憶喪失になってからの貴女には密かに注目していました。そして、殿下がもうひとりの会長兼婚約者候補として指名されたのを聞いた時、やはり、と思いましたの。だからわたくしなりの観察眼に加えて、申し訳ないけれど、犬を放って見させていただいていたのですわ。自分は身を引くけれど、害になる方を殿下のお側に侍らせることはできないと思って。最近、新しい護衛が貴女についているでしょう?」

えっ、もしかして、ゼンさんのこと?

「彼には、適当な理由を作って我が公爵家に戻るよう指示したから、もういないと思うわ。安心してちょうだい」

「は、はぁ……。では、私たちが演技していたこともお見通しで?」

私はいつからバレていたのだろうかと尋ねた。

「それは最近、シリルさんの事件があって、犬が泊まっていたでしょう?あの時、メイベル様とシリルさんの会話でその話が出たから分かっただけで、それまでは知りませんでしたのよ。でも、ナディアが言うような、気持ちの多い女性には見えなかったから、おかしいとは思っていました。わたくしの目で見た貴女は、ただ一筋にシリルさんを愛しておりましたから」

はい?
今、何と仰いましたか?

「貴女たちの様に、互いに想いが通じ合っていても、親友でなければならない身の上の方々がいらっしゃると言うのに、わたくしは、家柄も身分も釣り合って、殿下が想いを伝えて下さっているというのにコンプレックスひとつで我儘を言っていたのですから。だから、わたくし、コンプレックスを昇華して、殿下に寄り添おうと決意致しましたの。貴女たちの分まで添い遂げてみせますわ」

「…………」

私がシリル君を愛してるって?
シリル君も私を?

いや、私は深く愛しておりますよ?
おばさん愛ですけれどね。
推しメンを慈しむおばさま方のような、広ーい意味での愛であってですね……。

なんか、盛大な誤解をしていらっしゃるミレーユ様だけど、これ、訂正しない方がいいわよね?また、気が変わってしまったら大変だもの。

「と、とりあえず、殿下、ミレーユ様、無事婚約が成立するのですね。おめでとうございます」

私は自分とシリル君の関係を誤解された事で、ふたりが上手くいったのだと知り、早々に話を切り上げることにした。

殿下は満足げに頷き、

「メイベル、よくやってくれた。そなたの功績は大きいぞ。未来の正妃、いや国母誕生に一役買ったのだからな。お前の名声が上がるよう、こちらで取りなすゆえ、今回の会長候補兼婚約者候補の事は、もう何も案ずるな。それからシリルを襲った輩だが、決まりで軽い処分となったが、仇は取ってやる。貴族社会でなめた真似をすれば、目に見えない制裁があることを思い知るだろう」

「流石殿下ですわ。やり手ですこと」

「そなたが傍に居てくれれば、私は万倍の力を発揮できるのだよ。これからはずっと、傍にいておくれ、私の可愛いミレーユ」

「殿下…… 」

あー、ハイハイ、邪魔者は消えますよ~。

甘すぎるふたりから逃げ出すべく、私は挨拶した。

「殿下、いろいろご配慮下さってありがとうございます。では、私は消えますので、どーぞ、続きでイチャイチャなさって下さいませ!」

私はその場を辞し、みんなのいる教室へと向かった。



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