私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

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イスマイル様の本気

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「ミレーユ様、今のごらんになりまして?男女だと言うのに、何が親友、ですわよねぇ?あのように抱き合うなどして、ただならぬ仲ではありませんか。そんな女を、殿下に近寄らせてよろしいのですか?ミレーユ様」

ナディア様は手筈通りに私たちのやり取りを見せた後、ミレーユ様の反応を伺った。

「男女の友情……そのようなものが本当に存在するのなら、わたくしも殿下と友人でいたいものですわ。あの幼かった頃のままに……」

ミレーユ様はそれだけ言って、口を噤んでしまった。

「ミレーユ様……」

ナディア様はそれ以上、何も言うことができなかったと後にキャロライン様に語ったそうだ。


◇◇◇


その日から10日ほど開けて、ナディア様がミレーユ様に耳打ちした。

「ミレーユ様、なんと、あのメイベル様が、イスマイル様にまで色目を使い始めたらしいんですのよ。庶務の仕事にかこつけては会いに行ってるらしくて。きっと殿下との事を有利に運ぶためですわ。あんな女狐に殿下を取られるなんわたくし悔しいです。慎ましやかなミレーユ様の方が何倍も正妃にふさわしいと言うのに」

「……まあ、あのイスマイル様が?ちょっと信じられませんわね……」

ミレーユ様は少し首を傾けて、考え込むように言ったが、それ以上、私を悪く言うでもなく傍観に徹していたらしい。


◇◇◇


本日は生徒会の庶務の仕事があり、私は放課後3年の教室にやって来ていた。

そこにはミレーユ様と副会長候補のフリードリヒ様、そしてイスマイル様がいる。

大抵の案件は、この4人である程度話を煮詰めた後、会長に話を持っていくのだ。


私は約束の時間をほんの少し遅れてやって来たばかりだ。

「メイベル嬢……待っていた……。今日は珍しく遅かったのだな。何かあったのかと心配したぞ」

イスマイル様は、いつもの硬い話し方とはうって変わって、いかにも私に思いを寄せているかのように目を細め、甘い態度で話しかけて来た。

す、凄い……。イスマイル様ってば、こんな態度もできるんだ。ただの堅物だと思っていたけど、もともとメガネイケメンだし、いつもこんな態度してたら、今よりすっごくモテそうだ。

「申し訳ありません。イスマイル様、そして皆様も。日直の仕事が少しばかり長引いてしまいまして」

「いつもは時間厳守するそなただから、かまわぬよ。だが、殿下がいらっしゃる折には、遅れないようもっと気をつけるのだぞ?……良いな」

そう言って入り口近くにいた私に近づき、腰を抱くようにして席まで誘導してくれる。

やはり社交マナーで、女性の扱いは慣れていらっしゃるのかもしれないな。

私は日頃見ないイスマイル様の様子に、殿下の腹心としての有能さを垣間見た気がした。

「さて、今回の案件だがーー」

それぞれ与えられた仕事を報告しあって議論した。

私も、魔性の女だけでなく、会長候補として有能なところを見せなければならないので、昔取った杵柄とばかりに、OL時代の知識を駆使して仕事をこなしていた。難しい事があれば、シリル君が手伝ってくれたので完璧だ。

ミレーユ様はもちろん、副会長候補のフリードリヒ様も完璧な仕事振りだ。彼は無表情無口な人で、私たちの攻防には我関せずの態度を貫いていた。

議論が終わるとフリードリヒ様はさっさと場を辞した。とてもクールな彼に少し興味を覚えたが、今はそんな事を考えている場合ではない。

私は魔性の女となって、イスマイル様に話しかけた。

「イスマイル様、今日の議論を聞いていて、流石副会長様でいらっしゃると改めて尊敬致しましたわ。皆の意見を引き出すのがお上手ですし、話を深めるよう持って行く手腕も。決して自分の意見は主張せず話を纏めるポジションに徹していらっしゃる。……わたくしとても勉強になりましたわ」

憧れの人を見るように、キラキラと瞳を輝かせながら褒める。

「メイベル嬢にそのように褒められるのは何よりも嬉しいな……。俺は将来は父を継いで、宰相になる男だからな。周りの意見を最大限に出させ、その中から良いと思う意見が議論されるよう誘導もしているのだ。そんな仕事振りを理解できるそなたとは、これからも共に仕事できたらと思う。もしも、殿下がそなたを選ばないのなら俺は……いや、今言うべき事ではないな。……ミレーユ様、メイベル嬢、私はこれにて失礼するよ」

そう言って、私をじっと熱く見つめた後、教室を出て行った。

イスマイル様、ほんと凄い。
密着せずとも、魔性の女に惹かれている男を見事に演じてくれました!
役者としても食べていけるよ!これも殿下のためにできたことなんだろうけど。

ドロシー様と、早く〈殿下×イスマイル様〉のラブストーリー考えたいわぁ~。

私は脱線しそうになりながらもミレーユ様を見た。

「ミレーユ様、わたくし、どんどん殿下に近づきましてよ。欲しいものは手段を選ばないつもりですから、覚悟なさって下さいましね?」

私は妖艶な笑顔を意識して、ミレーユ様を挑戦的に見た。

ミレーユ様は私の真意を図ろうとするような深い眼差しを向けていたけれど、

「覚悟も何も、わたくしには関係ないと言った筈ですわ」

そう言って、先に教室から出て行った。

「……本当にこれで、ミレーユ様がやきもちとか焼くのかなぁ?殿下を悪女からお守りしてくれるといいのだけれど」

私は少し不安になりながらも、やるだけやって、ダメなら次を考えよう!と前向きになる。

さあ、後は殿下がミレーユ様に私に関心があるようそぶりを見せる番だ。

その後、アーサー様と逢引っぽい演出をした後、殿下に迫る予定だ。

たくさんのイケメン相手に動揺せずに演技できるのは、私が若い小娘ではないからだと思う。

私がもっと若かったなら、それぞれのイケメンフェロモンに翻弄されて、演技どころではないだろうなぁ。

おばさんなめんな!ウブな生娘とは訳が違うのよ!

「彼らはみーんな私の息子みたいなもの。どうってことないわ~」


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