私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

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親友のハグ

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今は昼休み。
いつものメンバーが揃い、話し合いをしている。

ナディア様に連絡を取る係のキャロライン様が私たちに言った。

「明日、ナディア様からミレーユ様に、メイベル様は男性にだらしないと言う噂を耳にしたと吹き込んでもらうように指示しましたわ。それでよろしいんですのね?ドロシー様」

「ええ。その噂を聞いた翌日に、魔性の女プラン①シリル編をやりましてよ?よろしくて、シリルさん?」

「お、俺が一番ですか?で、何をどうすればいいんですか?」

少し青ざめた様子のシリル君はおずおずと聞いてきた。

「大丈夫です、シリル編はあまり濃厚にせず、いつも通りメイベル様と仲睦まじくするだけで結構です。裏庭のベンチにでも座って、ふたりで寄り添って、お喋りでもして下さったらOKですわ(それで勝手に良いムードがでるでしょうし)」

シリル君は、ホッとしたように言った。

「それくらいのことでしたら俺でも……。良かったです。難易度が低くて」

私はそんなので、ミレーユ様に嫌悪感を持たせられるのか、疑問に思ってドロシー様に聞いた。

「それじゃあ、セリフはないの?とりあえず仲良くお話、でいいのね?」

「ええ。セリフはあえて、無い方が良いと思いまして。それぞれ褒めあいこでもしていてくれたら十分です」

ドロシー様は余裕の表情で答えた。

「その次に、しばらく間を開けて、籠絡されたイスマイル様編②が来て、最後にただならぬ仲の役をアーサー様編③でやっていただきます。アーサー様はおモテになるから、その辺の演技は得意でしょう?」

「おー。まかせとけ!本気でメイベルが俺に惚れるくらいの演技をしてやるからなっ」

爽やかな笑顔でアーサー様が言った。

ほんと、モテる男って、自然にキザなセリフが出るものねー。関心するわ。


◇◇◇


そして二日後。

私とシリル君は裏庭のベンチでふたり座っている。

ナディア様が自然を装って、この近くをミレーユ様と通る算段になっている。

近くまで来たら、物陰からキャロライン様が合図をくれるので、そしたら演技に入る予定だ。それまで私たちは手持ち無沙汰だ。

「シリル君。今日は協力してくれてありがとうね」

私はふたりきりでベンチに座っているだけで、なんだかこそばゆい。

実際は美女とシリル君、のはずなんだけど、おばさんとシリル君がふたりでベンチに掛けているみたいに感じてしまうから……。

「い、いいえ……。いつも、俺の方がメイベル様に助けていただいていますから、これくらいの事で役に立つのなら、いつでもお相手致します。
ただ、俺はアーサー様のように、かっこ良く振る舞う事は出来ませんから申し訳ないですが……」

シリル君は睫毛を伏せ気味にしてそう言った。

「何を言うの……!アーサー様にはアーサー様の良さがあるように、シリル君にはシリル君の良さがあるじゃない!私、シリル君はとても素敵でカッコいいって思ってる。だって、とても頑張り屋だけど、そんなところを人には見せないし、辛抱強くて、夢を持っていて……。意地悪した私にも紳士だったし……足を拭いてくれたシリル君は、とてもカッコ良くて、私ドキドキしちゃったんだよ」

「え、あっ、ありがとうございます……?」

シリル君は頬をピンクにしてお礼を言った。

まだミレーユ様が来ないのに、すでに甘々なムードがだだ漏れで、キャロライン様は生暖かく見守っていた。

(もう合図なんていらないわね)

勢い付いた私は、そのままシリル君の誉め殺しに入った。

「私、記憶を無くして、私の日記を見た後、シリル君て、どんな子なんだろうって思いながら学園に行ったの。それで、初めて見たシリル君に目が釘付けになったんだよ。きれいな銀髪に凪いだ湖のような水色の瞳。この世界ではあまり褒められるものでないって後で知ったけど、私は凄く美しくて好きだ、って思ったよ。その少し尖った耳も大好きだし。人柄はもちろんだけど、最初は外見から好きになったのかもしれないわ」

私はそっと手を伸ばして、耳朶に触れた。

シリル君は、一瞬ピクリと震えた後、瞳を潤ませて私を見つめた。

「俺の醜い部分を褒めてくれたのは、妹のような幼馴染と、メイベル様だけです。メイベル様は、姉のようであり、母のように感じることもありますが、たまに妹のような気もします。そんな時、メイベル様が家族のように俺を大切にしてくれているからそう感じるのだと思って感謝しています。いつか、貴女に優しくしてもらったお礼を返せるよう精進したいと思います」

シリル君……!なんて良い子なの!
話せば話すだけ、好きになる。

シリル君には、エルフのハーフだとか、平民だとかを乗り越えて、是非幸せになって欲しい!できるなら、ずっとその過程を見ていたい……。

「私、シリル君の親友になって、ずっとそばでシリル君が幸せになるのを見ていたいよ……。でも、私は一応侯爵令嬢だし、ひとりっ子の後継だから、叶わないんだろうなぁ。だからせめて、学園を卒業するまでは、私を親友にしてくれない?」

私は懇願するようにシリル君を見つめた。

「メイベル様、そんなこと……。頼まれなくても既に親友でしょう?俺たちは」

シリル君も瞳を揺らしながら答えてくれた。

「シリル君……!親友だったら、ハグくらいしてもいいよね?」

「はっ、はい!」

私たちはひしっ!とハグして固い友情(?)を確かめ合った。

演技とかを全て忘れている内に、ミレーユ様は通り過ぎていたのだった。



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