私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる

文字の大きさ
上 下
20 / 48

悪役令嬢メイベル、魔性の女を演じる。

しおりを挟む

「キャロライン様っ!ドロシー様っ!ちょっと相談に乗っていただけますか?」

私は早速友人たちに相談して、ミレーユ様攻略の手段を考える事にした。

「メイベル様、何かあったのですか……? 」

心配そうにシリル君が尋ねてきた。

でも、シリル君には言えないよ。
シリル君の事で脅されたとかだし。

「あっ、うん、ちょっとね……。女性同士の相談だから。心配してくれてありがとう。ちょっと行ってくるね」

私たちは後ろ髪引かれつつも、シリル君を残して裏庭にやって来た。



◇◇◇


「それは大変なミッションをお受けなさいましたわねぇ、メイベル様」

私が先程のやり取りを手短に説明すると、キャロライン様は腕組みをして呟いた。

その後、ドロシー様が握りこぶしを作って言う。

「そうですわ、メイベル様っ!それって、殿下を取り合って、負けろってことでしょう?そんなことをしたら、また、敗北後のメイベル様に醜聞が湧きましてよ?最近やっと楽書きも減って来ましたのに」

その後、キャロライン様が続けて私に問うように言ってきた。

「大体、シリルに援助してるのがメイベル様だってバレてもいいじゃありませんの?(すでにシリルは察しているみたいでしたもの)そんな脅迫に乗らずに断ればよろしかったのではないですか」

「それはダメよ。同級生に援助してもらってるなんて、シリル君が知ったら重荷に感じてしまうでしょ?金持ちの道楽おじさんがやってると思ってもらった方が良いに決まってるわ」

キャロライン様もドロシー様も、なぜか同情のような瞳で見つめて来たが、私はそれよりこれからの事が大事だ。

「とにかく!引き受けた以上はミレーユ様にライバル宣言して、いろいろ嗾しかけつつ殿下とくっつけなくちゃならないのよ。ドロシー様、シナリオを考えて下さいませ! 」

「それなら早くミッションを済ませて、会長候補からも婚約者候補からも解放されるのが一番かもね」

キャロライン様もドロシー様も協力してくれることになった。


◇◇◇


「それでは、私の台本はこうでしてよ」

ドロシー様は前置きをしてから言った。

今は、キャロライン様とシリル君、アーサー様もいる。

シリル君の事で脅された事や、報酬を受ける話は省き、事情説明をした。殿下からのミッションに応えるため、みんなに協力してもらうことにしたのだ。

「メイベル様は、悪役令嬢になるのですわ。殿下の婚約者の座を狙いながらも、シリルさんやアーサー様にも色目を使う魔性の女を演じるのです。殿下がメイベル様の毒牙にかかりそうな場面をミレーユ様に見せつけ、ミレーユ様が殿下をお助けしようと自分を差し出したら成功ってシナリオなんですけど。いかがでしょうか?」

「うーん。魔性の女かあ。それってあちこちで色仕掛けするってことよねぇ?私に色気を出す芸当なんて出来るかなあ?」

見かけは妖艶美女だから魔性の女はぴったりだけど、何しろ中身がサバサバおばさんだからなあ。

「見本なら、ここに持って来ましたわ。この本を見て、ちょっと練習なさってみては? 」

私はドロシー様から一冊の本を受け取った。

【魔性の女ヴェロニカの甘い囁き】

なんか凄いタイトルの本ね……。

とにかくやってみないことには先に進めない。

私はパラパラと本を流し読みした。

「ふむふむ……」

魔性の女って、自信があって、しなを作って、流し目で……。

私はイメージを頭に浮かべて、アーサー様の前に後ろ向きに立った。そして振り返るようにしてしなを作り、左手をうなじにそわせて髪をかきあげた。

「アーサーさまぁ、今宵、一緒に美酒でもいかがぁ~?」

鼻にかけたような甘えた声を出し、そのまま流し目でアーサー様を見つめる。

「こんな感じですかね?どうです?アーサー様?」

私は素に戻ってアーサー様を見た。


アーサー様は口元を押さえ、俯いていた。

「…………」

あれ?反応なし?

「ダメでした?では……」

私はシリル君に近づき、妖艶に微笑みながらシリル君の頬を両手で包むようにすうっと撫でる。

「可愛い方……。わたくし、貴方を少しだけ味見しちゃっても良いかしら……?」

シリル君の少し尖った耳元に口を寄せ、誘うような声で囁く。

頬を伝う手は、そのまま首、肩、二の腕へと這わせて……。シリル君の手をそっとつまみ上げて自分の口元に寄せた。キスする手前で離す。

「どうだった?シリル君?少しはマシになった⁇ 」

私はまた素に戻ってシリル君に尋ねた。

「………… 」

またしても、反応なし?

シリル君は口元を押さえてしゃがみ込んでいる。
心なしか顔が赤い?演技下手過ぎで笑うの我慢してるのかしら?

「そんなに似合わない?やっぱり色仕掛けは難しいわねぇ~ 」

おばさんはやっぱり頑張っても色気出ないかあ……。
私は溜息をこぼして言った。

けれど、ドロシー様はなぜか大絶賛。お世辞かしら?

「凄いです!メイベル様っ!流石ですわ‼︎  」

「そ、そうですか……?ありがとうございます……? 」

私は一応お礼を言っておいた。

キャロライン様は、

「これは、魔性の女なのか小悪魔なのか?それともただの無自覚な天然……?」

何やらぶつぶつ言っていたけど、私は魔性の女を演じる練習は後でもできると判断して、ミレーユ様の事を教えてもらう事にした。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ
恋愛
 私、ミリアリア・フォン・シュツットはミターメ王国の第一王女として生を受けた。この国の外見の美しい基準は、存在感があるかないか。外見が主張しなければしないほど美しいとされる世界。  そんな世界で絶世の美少女として、我儘し放題過ごしていたある日、ある事件をきっかけに日本人として生きていた前世を思い出す。あれ?今まで私より容姿が劣っていると思っていたお兄様と、お兄様のお友達の公爵子息のエドワルド・エイガさま、めちゃめちゃ整った顔してない?  今まで我儘ばっかり、最悪な態度をとって、ごめんなさい(泣)エドワルドさま、まじで私の理想のお顔。あなたに好きになってもらえるように頑張ります! -------だいぶふわふわ設定です。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

処理中です...